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障害者を自殺に追い込む「マンション自治会」の闇。他人事ではない悲劇の教訓

マンションの理事や自治会の班長などは、輪番制をとっているところが多くあります。しかし、自分自身や家族の病気などを理由に辞退せざるを得ない場合、そのプライバシーの部分を含む理由を説明することは容易ではありません。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では、著者でマンション管理士の廣田信子さんが、ある男性が自治会の班長の辞退理由を説明しなければならないことを苦に自殺したという報道を紹介。また、同じようなケースで無事に解決したという事例も併せて紹介しています。

知られたくないプライバシーまで公表しないと役員辞退ができない?

こんにちは!廣田信子です。

先日、ちょっとショックを受けた報道がありました。

知的障害や精神障害のある男性(当時36歳)が自殺したのは、自治会の班長選びをめぐり、障害者であることや、自分にできない作業などを記す文書の作成を強要されたのが原因だとして、男性の両親が自治会と当時の自治会長ら2人に計2,500万円の損害賠償を求めて提訴し、裁判が始まったというニュースです。第1回口頭弁論では、被告側は請求棄却を求め、争う方針を示し、男性が文書を作成した事実は争わないとしながらも、「強要はなかった」などと反論しています。

訴状などによると、男性は市営住宅で障害年金などを受給しながら1人暮らしをしていました。昨年11月中旬、市営住宅の同じフロアの住民の中から、くじ引きで自治会の次期班長を選ぶと知り、自治会側に「精神の病気で班長ができない」と伝えましたが、当時の班長から「特別扱いはできない」と告げられました。それで、困った男性は行政に相談し、後日、自治会の会長、班長と地域の社会福祉協議会の関係者の計4人で面談しました。

その際、障害があることや、お金の計算ができないこと等を列挙した文書の作成を約2時間にわたって強要されました。そして、班長決めの集まりを開く際には、この文書を他の住民に見せると言われたといいます。

男性はその翌日、自宅で自殺したのです。

原告側は、他人に知られたくない障害の有無や内容について文書を書かせたことはプライバシー権や人格権の侵害にあたり、自殺との因果関係も認められると訴えています。

一方、被告側は、文書を作成させたのは、班長の選出から外れることについて、(他の住民に)対面で説明してもらうよりも負担が少ないと考えた…などと主張しています。

自殺直前、男性は「根ほり葉ほり障害のことを聞かれた」「さらし者だ」と兄に語り、ひどく落ち込んでいたといいます。兄によると、男性はもともとおとなしい性格で、10年ほど前に統合失調症と診断され、近くに住む家族以外の人と接したり話したりすることを極端に苦手としていました。自己紹介もできない弟が、人に言いたくない「障害がある」ということを進んで書けるわけがない。周囲による無理強いがあった可能性を高い…と。

男性は自治会の班長決めに関し、自治体や担当のケースワーカーに相談し、それで、紹介を受けた地域の社会福祉協議会の関係者が自治会会長らとの面談に同席したのです。それなのに、社協関係者は、その場で、何も言わなかったのでしょうか。さらに、その翌日に男性が自殺したのに、こうした経緯は社協から市へほとんど報告されていなかったのです。

私は、かなりショックを受けました。まだ、こんなことが行われているのか…と。自治会が果たすべき機能とまったく逆のことが行われているのです。

自分には障害があって班長の仕事は無理だと思った男性が、事前に自治会に申し出ても認められず(それを申し出るだけでも勇気がいったでしょう)、行政に相談し、社協の担当者が同席したにも関わらず、こんなことになったのが痛ましくてなりません。周りに知られたくない事実を自治会側が用意した配慮のない文章にさせられ、周りに知らせると言われ、どれほど、つらかったか…と。

そして、管理組合の輪番制の理事に関する同じようなケースを思い出しました。その方は、夫が「うつ」になり自宅療養していました(そのことは、周りには言っていません)。

輪番で夫に理事が回ってきましたが、健康上の事情があって理事はできない…と伝えると、理事長とそのグループの理事がやってきて、どんな健康上の事情があるのか、根掘り葉掘り聞かれました。でも、「うつ」だと言う気になれませんでした。たまに見かけるが健康そうに見える…と。外から見ても病気には見えないので、理事ができないということが理解されないのです。

みんな事情があっても順番に理事をしている。不公平になるので、よほどの理由がないと理事は辞退できない。できない理由を文章にして理事会に提出するか、自分で、次の順番の人に説明して、替わりになることを了承してもらうように…と言われたのです。

「うつ」で仕事を休んでいる夫を抱え、目を離したすきに自殺でもしたらと神経を使っている妻にとって、これはたいへん重いことです。理事を辞退するのに、夫の病名までまわりに公開しなければならないのか…と、妻は追い詰められていました。理事長の高圧的な態度に、この人には、絶対に夫の病気のことを言いたくないという気持も生じています。

公平性や義務という正義を盾に、弱い立場の人の心情に対する想像力が欠如している「理事長」「自治会長」「班長」というような「長」はいたるところにいます。「長」のつく方には、ぜひ、気を付けていただきたいと思います。

ほんとうの「長」は、相手の様子から、あまり周りには知られたく事情があるんだろう…と察したら、それ以上は聞かずに、逆に、何か困ったことがあったら相談してくれ…というはずです。そして、ほんとうの「長」は、周りから信頼されているので、細かい事情まで言わなくても、自分の言葉で、周りを納得させることができるのです。

さて、「うつ」の夫を抱えて困っている妻に対しては…今の理事に何を言っても難しい。夫の病気のことをその人たちに詳しく説明する必要もない。理事を出すグループ内のまだ理事をやっていない人で、話をしやすい人はだれかいませんか……と聞くと、同じ階に、いつも声を掛けてくれるやさしい高齢のご夫婦がいる…と。じゃあ、その方に思い切って事情を話して、理事を替わってもらうよう相談してみては…と言いました。

それで、妻は勇気を出して、そのご夫婦に相談に行きました。相手のご夫婦は、すぐ理解してくれ、理事の順番を変わることを快諾してくれました。理事を替わることを理事会に申し入れる書類まで作成してくれ、そこには、自分の順番が回ってきたときに、親の介護で理事ができなくなる可能性が高いから、早く理事の役割を務めたいので…という自分側の事情まで書いてくれていました。そして、また、何か困ったことがあったら何でも言って…と言ってくれたのです。

妻は、何だか、理事の順番が回ってきたことで、地獄と天国の両方を見たようだ。でも、おかげで、思い切って信頼できると思った人に相談したことで、とても気持ちが軽くなった…と。

コミュニティの中には、お互いが補い合い、助け合える余力があるはずなのに、杓子定規な平等意識と、相手の立場や気持ちに対する想像力の欠如が、壁をつくり息苦しさを生んでしまっているとしたら、それはもったいないことだと思います。

image by: Shuttetstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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