二階俊博幹事長の強力な後押しと主要派閥の支持を取り付け、9月2日に自民党総裁選出馬を表明した菅義偉官房長官。圧勝確実との見方が大勢を占めていますが、その裏には決して報道されない駆け引きも存在しているようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、菅氏の後ろ盾にして名うての親中派でもある二階氏を、米国が名指しで警戒しているという事実を紹介するとともに、そんな二階氏が推す菅氏支持を固めた主要派閥の思惑を推測しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年9月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【日中】安倍首相辞任、次期総裁選びと親中派への警戒
安倍首相が辞任を表明しました。7年8カ月にわたり国政のトップとして走り続けてこられたことに敬意を表します。安倍首相の辞任が世界的な大ニュースになったのも、長年、各国を飛び回ってきたことで、各国首脳のなかでも飛び抜けて外交経験があり、国際社会のまとめ役として、抜群の安定感と信頼感があったからでしょう。
現在、日本と台湾の関係がきわめて良好であるのも、安倍首相が台湾に対してきわめて友好的な姿勢だったからです。
多くの諸外国のリーダーから、安倍首相の辞任を惜しむ声が寄せられましたが、台湾の蔡英文総統も自身のツイッターで中国語と日本語で、「安倍総理は在任中において台日関係に多大なる貢献をされ、今後どんな立場においても台湾にとってもっとも大事な友人であります。これからも、ともに台日関係をさらに強化していきたいと思います。どうぞお体を大事に、治療によって体調が万全になるように祈っております」というメッセージを送っています。
安倍総理は在任中において台日関係に多大なる貢献をされ、今後どんな立場においても台湾にとってもっとも大事な友人であります。これからも、ともに台日関係をさらに強化していきたいと思います。どうぞお体を大事に、治療によって体調が万全になるように祈っております。
— 蔡英文 Tsai Ing-wen (@iingwen) August 28, 2020
これに対して安倍首相も同じく中国語と日本語で、「台湾の皆さんへ 心温まるお見舞いの言葉をいただき感謝致します。今後も日本と台湾の人々との間の協力と交流が更に深化するよう期待しています」と応えられました。
致台灣的朋友們:
收悉各位?馨的慰問,本人心中充滿了感激之情。祝願今後日本和台灣之間的合作與交流更深化更進?。 https://t.co/JH5zQEKruY— 安倍晋三 (@AbeShinzo) August 31, 2020
台湾でも安倍首相の辞任と、その後の政局についての関心は非常に高く、聯合報のネット版「聯合新聞網」では、「安倍請辭日首相」(安倍首相辞任)というコーナーをわざわざ作って報じています。
● 聯合新聞網
さて、日本でも「ポスト安倍」ということで、次期自民党総裁レースが加熱化しています。そのなかで、最有力とされているのが、菅義偉官房長官です。私は菅義偉氏とは東京でも台北でもお目にかかったことがありますが、菅氏は安倍首相の後継者としては最適だと思っています。
ただ、気になるのは二階俊博幹事長の後ろ盾によって、一気に総裁有力候補となったという点です。言うまでもなく、二階幹事長は「親中派」「媚中派」として有名な政治家です。
もしも菅官房長官が次期総裁、次期首相となると、二階幹事長の力が増すことになり、日米関係、日中関係が大きく変わる可能性があります。現在は延期状態になっていますが、習近平の国賓訪日にこだわっていたのが二階氏および二階派でした。そのため、菅官房長官が次期首相となり、二階氏の権力がさらに増大すれば、習近平の国賓訪日は維持されることになる可能性があります。
近年、二階氏は、アメリカにも名指しで警戒されるようになっています。
アメリカの有力シンクタンクである「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、2020年7月末に、「日本における中国の影響力」という調査報告書を公表しました。この報告書は、トランプ政権が新設した国務省の「グローバル関与センター」の支援を得て作成されました。同センターは、中国の対外的な影響力工作や政治宣伝への対応を任務としているといいます(古森義久氏、「JBpress」2020年7月29日付)。
英語で53ページにもなる同報告書は、CSIS研究員やニューヨーク大学教授を歴任した国際政治学者のデビン・スチュワート氏が中心となり、日本、アメリカ、中国などの専門家約40人への面接調査や広範な情報、資料を基に、約2年をかけて作成されたそうです。
同報告書の内容は、私の新刊『親中派の崩壊』で詳しく解説していますが、そのなかで、二階氏についてCSISが分析している箇所がありますので、引用します。
● 親中派の崩壊
この報告書では、親中派の人物として、何人かの政治家の名前が挙げられている。とくに影響力のある人物として、自民党の二階幹事長を次のように説明している。
- 自民党の二階幹事長は自分の故郷である和歌山県の動物園のために中国からパンダ5頭を連れてきたこともあり、2019年4月には、安倍首相の特使として習近平と会談し、アメリカの意見を無視して、日本は中国の「一帯一路」に協力すべきだと主張してきた
- 二階幹事長は、習近平国家主席の国賓訪日や「一帯一路」への協力提唱に加えて、対中援助の提唱者でもある
報告書にここまではっきりと記述したということは、アメリカが二階氏の動きを明確に警戒しているというメッセージなのだろう。
二階氏は、2003年に郷里の和歌山県田辺市をはじめ日本全国に江沢民の石碑を建立しようとし、市民らの反対にあって頓挫した過去がある。日本では二階氏が親中派というよりも「媚中派」であることはよく知られている。
2020年6月末に中国が国家安全維持法を施行したことを受けて、7月6日、自民党の外交部会が習近平の国賓来日に反対する決議案をまとめたが、二階氏および二階派が「日中関係についての先人たちの苦労を水泡に帰すつもりか」と強く反発したため、「国賓来日の中止を要請する」という表現を「中止を要請せざるをえない」とかなり後退させることになったといわれている。
また、2020年1月、カジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐり、中国企業「500ドットコム」から賄賂を受け取ったとして、自民党の秋元司議員が逮捕されたが、CSISの報告書では、秋元議員を「自民党の親中派である強力な二階派に所属している」と紹介し、この贈収賄事件を以下のように説明している。
「秋元氏は中国の大手オンラインスポーツ賭博サービスプロバイダー『500ドットコム』から総額370万円(約3万3,000ドル)の賄賂を受け取った疑いで逮捕された。
同サイトは、中国政府が出資するチップメーカーの清華聯合集団を主要株主としている。
清華ホールディングスは清華聯合集団の株式を51%保有しており、習近平や胡錦濤を教育した清華大学の完全子会社である。胡氏の息子の胡海峰氏は同グループの党書記を務めていた。清華聯合集団は、2013年11月に500ドットコムが初の四半期損失を計上したあと、着実に株式を増やしてきた。
同社は損失が続くなか、500ドットコムは日本を含む中国国外で代替の収益源を探そうとしてきた。2017年7月に500ドットコムが日本法人を設立した1カ月後、同社は沖縄でカジノビジネスの機会について話し合うシンポジウムを開催した。
秋元氏は基調講演者として招かれ、講演料200万円の報酬を得ている。
このような中国絡みの贈収賄スキャンダルは日本ではほとんど報道されていないが、今後も両国の相互関係が深まっていけば、再び汚職事件が繰り返される可能性が高まってくるだろう」
このように、アメリカは二階氏の動きに対して、わざわざ名指しで警戒感を示しています。当然この報告書は、当時の安倍政権や自民党に対する警告の意味もあったでしょう。二階氏が菅氏を担いで総裁選びの主導権を握ろうとしているのも、アメリカから睨まれているという危機感から、権力の増強に走ったともいえるわけです。
一方、現在、菅氏には二階派のみならず、麻生派、細田派などの大きな派閥も支持に回ったと言われています。このように有力派閥が乗り出すということは、ある意味で、二階氏の影響力を削いでいるともいえますが、どうなのでしょうか。
誰が次期首相になったとしても、対中問題は大きな政治課題となります。アメリカが警戒している二階氏の力が強くなると、アメリカ側が安全保障や中国企業対策として、日本に対して厳しい注文をつけてくる可能性もあります。
もうひとつ、日本の親中派の動きを左右するのが、アメリカ大統領選挙です。一時は民主党のバイデン氏に14%も引き離されていた支持率が、8月末には7%程度の差にまで縮まってきました。しかもアンケートでトランプ支持とは答えないものの、実際の投票時にはトランプに入れる「隠れトランプ派」も、かなりの数がいると言われています。2016年の大統領選挙のときも、ほとんどのメディアは「トランプは絶対に勝てない」と言っていましたが、ふたを開けてみればトランプ大統領が誕生しました。
トランプ大統領が再選されれば、台湾とアメリカの関係はさらに強化されるでしょう。そうなれば、台湾と日本の関係もより強固となり、それは親中派・媚中派勢力にもかなりのダメージとなります。
日本の次期政権は、アメリカが警戒する親中派をいかに外していくのか、ということも一つの大きな目標となるでしょう。そうした国際関係の思惑も勘案しながら今後の総裁選を見ていくと、日本や世界の方向性も見えてくるのではないかと思います。
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