新型コロナウイルスの流行により、多くの大学でオンライン授業が中心となっている今、その質に不満を感じ「休学」を選択する学生も増えていると言います。これまでにない危機に襲われている、我が国の最高学府と学生を救うカギはどこにあるのでしょうか。今回の無料メルマガ『大人の考える技術』ではオンラインで大学院プログラムを運営した経験を持つ若林計志さんが、大学におけるオンライン授業の惨状を記すとともに、その改善策を考察しています。
オンライン授業で問われる「バラ売り」として見たときの大学授業の値段
こんにちは。フローワンの若林です。
今週ニュースを見ていたら、大学のオンライン授業に満足できなくて、休学届を出す学生をドキュメントしていました。
● 初登校で休学届?コロナで変わるキャンパスライフとは?【news23】
大学は、授業以外にもソーシャル活動などの提供価値があるので、それを期待していた学生から言えば、思ったような満足度が得られないのは当たり前といえば当たり前です。
ましてや、海外ではすでに進んでいたオンライン化の流れをほとんどスルーし、リアル授業にこだわってきた教員にいきなりオンライン授業をやってもらっても、いきなりクオリティは上がりません。
したがって満足度が下がるのは避けられせん。
またオンライン化により、ある意味、大学という傘の下で「セット価格」で払われていた学費が、動画になった途端、この1時間のネット授業は単価で「5,000円」といったことが明らかになり、社会人向けの一般セミナーなどと簡単に比べられるようになりました。
さらに親も、子どもの横でその授業動画を見られるようになったので、授業料を払う価値を考えるようになりました。
まだまだネット慣れていない先生が、ボソボソとZOOMで語っている授業がバラ売りで5,000円だと思えば、その価値に疑問を持つ人が多くなるのは当然でしょう。
そういう意味では、コロナをきっかけに、これまでブラックボックスだった授業が見える化され、そこに競争が持ち込まれ、品質改善されるきっかけになれば良いと思います。
日本におけるオンライン高等教育で先行していたは、私のいたビジネス・ブレークスルーや、ソフトバンクのサイバー大学ですが、開講当時はかなり胡散臭い存在だと一部からは見られいたのはもう昔。サイバー大学の川原学長はインタビューでこのように語っています。
従来の対面型の授業は、教室という密閉された空間で行われていたため、指導方法や授業内容については客観的な評価が困難であった。しかしオンラインで教育を行えば、授業をより多くの人が閲覧できるようになり、授業の記録を残すこともできる。よって、よりフェアで、透明性の高い場で教育内容についても評価を受けるようになり、教育の質が問われるようになっていくのだ。(出典:「オンライン教育後進国」で混乱する現場。サイバー大学学長はどう見るか)
実際、この通りになっていくでしょう。
オンライン授業は6掛けで考える
経験則的にいうと、リアルでの授業の面白さを1とすると、そのままオンラインにすると0.6ぐらいになりますので、授業自体を1.5倍ぐらいに面白くする工夫をしないと成り立たちません。
もちろん映像の撮り方や、明るく喋るとか、冗談を言うとか、そういうことでずいぶん改善できることもありますが、根本的には授業のアーキテクチャにアップデートが必要になります。
つまり新しい時代への過渡期なのですが、こういう時に、質の悪いオンライン授業が増えてしまうと、どうしても「オンライン授業=質が低い」という固定観念ができてしまうので、心配です。
私の知人でも、大学で教鞭をとっている人が何人もいますが、聞いてみると、いきなり始まったオンライン授業について、大学事務局からヘルプはほとんどなく、現場の教員に一任…。というより丸投げされているケースが多いようです。
結果として、授業のクオリティは教員により天と地ほどの差が出ています。
ただ、そういう動乱の時期があっても、デジタル活用の大きな時代の方向性は変わりません。というより、日本が遅れているだけで、オンライン教育のフロンティアは、もうだいぶ向こうに行っています。
パンデミックは歴史的にGame Changerを生んできました。
ペストが民衆を恐怖のどん底に叩き落とした中世ヨーロッパでは、それまで強大な権力を誇っていた教会が、この伝染病の前に無力さを晒し、大学、そしてサイエンスへと権力がシフトする契機となりました。
天然痘、コレラ、スペイン風邪、マラリア等も、水道の普及など、その後の公衆衛生や社会に大きな変化をもたらしました。
今回のコロナも例外ではなく、時代の先を読んだGame Changerを生むのだろうと思います。
そしてその本丸が「教育」であろうと睨んでいます。
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