日本にはガラケーを代表格に、独自の規格で進化した製品やサービスが多くあります。高品質高機能がユーザーを助け、愛される一方で、「ガラパゴス化」がマーケットを狭めるなどの弊害も取り沙汰されています。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、ワールドクラスを目指さない日本の傾向の原因をクリティカルシンキング(批判的思考法)ができていないためと主張。朝日新聞に掲載された小西美術工藝社社長D.アトキンソン氏のインタビューから、大学での学びの問題点を伝えています。
日本の弱点はクリティカルシンキング(批判的思考法)の不在
2月23日の朝日新聞朝刊にデービッド・アトキンソン氏(小西美術工藝社社長)のインタビューが載りました。ゴールドマン・サックスの元アナリストで、官房長官時代から菅義偉首相に近く、観光政策などを助言してきた専門家です。
菅首相が以下にあるアトキンソン氏の考えとは対極にあることは明らかですが、コロナ対策をはじめとする菅政権の政策や日本の将来を考えるうえで参考になると思います。私の考え方ともぴったり一致するので、ご紹介することにしました。まずはインタビューから。
日本人が語る「日本」は理想論 アトキンソン氏の違和感
「(東京五輪・パラリンピック大会の)組織委で大会コンセプトを作っているときに、一番難しかったのは、日本人が考える『日本』はほとんど理想論だったことです。こうあってほしい、という願望に近い。日本のベストだけみればそうかもしれないということを、一般化しようとする。
『多様性と調和』というコンセプトについて、会議では『日本は世界一寛容な国』という人がいた。日本はどんな文化でも取り入れて、日本は多神教で海外は一神教だとか。
これは学問的には正しくない俗説です。
(中略)日本人は思い込みや俗説が多い。専門家に確認しない、検証しない。厳しく言えば、プロ意識が低い面があることは共通しています。それは寛容の一環かも知れませんが。
例えば、東京五輪が日本経済の起爆剤になるというのも、俗説。エビを食べて長寿にあやかるのと同じ。数週間のイベントがGDP550兆円の日本経済に大きな影響を与えるはずがありません。
(中略)日本の決定的な問題は、クリティカルシンキング(批判的思考法)が十分にできていないこと。これは、仮説を立てて、ロジックを分解し、データで検証し、結論を導き出すもの。
大学の問題が大きい。クリティカルシンキングができるようになるのは大学生の年齢。人間というものは、勝手な思い込みをする生き物なので、それをなくすため大学教育が発達した。
大学の4年間、先生とのやりとりで、思い込みで発言したら、根拠はなんですか? 評価に客観性はありますか?と聞いて答えさせる。日本の大学はそれが十分できていない。
だから日本は事後対応しかできず、いつも後手に回る。事前に仮説をたてて議論しても、受け入れられないのです。予想はできるのに、何も手を打たない。私がアナリストとして関わった銀行の不良債権問題もそうでした。いくところまでいかないと、変わらない。
重ねていいますが、東京五輪はやっても、やらなくても、日本経済には中長期的にはさしたる影響はありません。(後略)」(2月23日付 朝日新聞)
私がお伝えしたかったのは、ここに出てくるクリティカルシンキング(批判的思考法)についてです。
私は自分自身の怠慢もあって日本の高等教育を受けることができませんでした。しかし、人一倍負けず嫌いですから、同年配の官僚や研究者に伍していけるよう、具体的なテーマについて手探りで調査研究活動を行ってきました。日本人の思い込みとは逆に、日米同盟が米国にとって死活的に重要だと証明できたのも、「仮説を立てて、ロジックを分解し、データで検証し、結論を導き出す」という手順を無意識のうちに踏んだ結果です。
当然、日本の定説や権威者の見解とは正反対の結論でしたが、日本の定説が実証性に欠ける「思い込み」の上にある限り、覆すのは難しいことではありませんでした。私の初期の作業である在日米軍についてのリサーチを目にした故・鴨武彦早稲田大学教授(のちに東京大学法学部教授)は、私がクリティカルシンキングを身につけたのは米国のハーバード大学やイエール大学においてではないかと、真顔で聞いてきたほどでした。
結論的に申し上げますと、様々な分野で日本がガラパゴス状態に陥りやすいのは、クリティカルシンキングに欠けている結果です。世界のどこに出しても通用するワールドクラスを目指すことなく、日本国内で通用するレベルで自己満足してしまう。そこから抜け出さなければ、自ら勝ち取った平和と安全のもと、繁栄を実現することなどできないことを肝に銘ずべきでしょう。(小川和久)
image by: Shutterstock.com