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日本は「危害射撃」で尖閣を守れるか?軍事アナリストが抱く海保の不安

「海警法」を成立させ、国内法を盾に尖閣諸島周辺海域での活動をさらに活発化させようとする中国。それに対抗し、日本も「警察官職務執行法7条」を根拠に「危害射撃」(敵国または第三国などの船が臨検に応じないとき船体に向けて行う射撃)が可能になるとの見解を示しました。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、1月28日掲載の記事で、「海警法成立は日本の突破口になりうる」と国内法適用の可能性に言及していて、今回の見解を「ようやく」と評価。ただし、「危害射撃」を実行する場合、海上保安庁の「文化」に不安があり、絵に描いた餅になるのではないかと危惧しています。

危害射撃で海保が抱える問題

尖閣諸島をめぐる中国の強硬姿勢について、日本政府もようやく強い姿勢を明らかにしました。

「岸防衛相は26日の閣議後の記者会見で、中国の海上保安機関・海警局などの船が沖縄県の尖閣諸島に上陸する目的で島に接近した場合、『凶悪な罪』だと認定し、自衛隊が、相手を負傷させる可能性のある『危害射撃』を行える場合があるとの見解を示した。

 

危害射撃の法的根拠として、岸氏は警察官職務執行法7条を挙げた。具体的にどのような場合に認められるかは、『海警の船舶がどのような行動をとるかによって変わってくる。個別の状況に応じて判断する』と述べるにとどめた。

 

海警船の領海侵入などには、海上保安庁が対処できない場合に限り、防衛相が海上警備行動を発令して自衛隊が対応に当たる。

 

海上警備行動で自衛隊に認められる武器の使用基準は、警職法7条などが準用される。同条項は正当防衛と緊急避難のほか、3年の懲役・禁錮以上の『凶悪な罪』の現行犯を制圧する場合などに限り、危害射撃を認めている。

 

25日の自民党の国防部会などの合同会議で、政府側は海上保安庁の海上保安官が、『凶悪な罪』を理由に海警船などへ危害射撃できる場合があるとの法解釈を示していた。(後略)」(出典:2月27日付 読売新聞

これで武器使用を認めた中国の海警法成立に対する備えができたのですが、実はまだ不安材料が残っています。海上保安庁の「文化」の問題です。

海上保安庁が新しい機関砲の導入を考えていた2004年頃、私は当時の海上保安庁長官から仰天するような返事を聞かされ、もう少しで椅子から転げ落ちるところでした。私は海上保安庁の政策アドバイザーの一人として、会議の席で次のように指摘しました。

「導入が検討されているスウェーデン・ボフォース社の40ミリ機関砲は、性能面では一定の水準にあるが、相互運用性(インターオペラビリティ)の面で重大な欠点がある。この機関砲は南米のアルゼンチン海軍しか採用しておらず、弾切れになった場合、周囲に海上自衛隊や米海軍の艦船がいても、弾薬の提供を求めることができない。少なくとも海上自衛隊と弾薬を共有できる機種にすべきではないか」

すると、運輸官僚出身の海上保安庁長官は言ったのです。「われわれは警察ですから、そんなに撃ちませんから」。当時の海上保安庁が、外国の海上警察組織と衝突する事態などまったく想定していないことがわかりました。せいぜい密輸・密漁業者相手に威嚇射撃できればよいと考えているレベルだったのです。

その後、その40ミリ機関砲は導入され、高速高機能大型巡視船などに装備されましたが、一般の巡視船にはオーバースペックと判断されたようで、ほかは30ミリ機関砲と20ミリバルカン砲(6銃身)、12.7ミリガトリング砲(3銃身)から組み合わせを選択して装備する形になっています。

このように、危害射撃が可能になったと言っても形だけ、弾切れにすら対応できない可能性は残されています。きちんと機能するかどうかを検証し、その能力を備えなければ絵に描いた餅です。政府と国会議員の皆さん、法律に基づく政府見解が示されたからと言って、それで終わりではないことを忘れないでください。(小川和久)

image by:viper-zero / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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