先日掲載の「ニッポン“惨敗”のコロナ戦争で判った、大転換すべき3つの問題点」では、コロナ対策で大きく遅れを取った日本が早急に手を打つべき3つの課題と、その具体的な転換法を提示した、メルマガ『国際戦略コラム有料版』著者の津田慶治さん。そんな津田さんは今回、激動必至のコロナ後の経済と社会、特にバイデン政権が抱え込んでしまった深刻な問題を解説するとともに、その先に待つ好ましからざる状況を予測しています。
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コロナ後の経済と社会 コロナ・ワクチン接種状況
緊急事態宣言は北海道、東京、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、福岡で、沖縄が追加しされた。まん延防止等重点処置は、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重、群馬、石川、熊本で、愛媛は解除され、岐阜が緊急事態宣言を要請したが、却下された。
しかし、ワクチン接種は、現状では1日34万接種であるが、6月から本格化するようである。国は大規模接種会場を東京と大阪に置き、その他に、全国自治体独自の大規模接種会場もでき、東京都は、築地に大規模接種会場を作り、警察・消防の職員にまず接種するという。世田谷区は、既に65歳以上の接種が終わり、40歳以上の人への接種を開始しているという。早い地方自治体は次に移行している。
ということで、あと数か月で、日本も集団免疫ができて、正常な生活に戻れる事が見えている。五輪選手や警備に当たる警察官などもワクチン接種が完了していることになる。
IOCコーツ副会長は、緊急事態宣言中でも五輪を開催できるとしたが、ワクチン接種を選手、大会関係者全員が受けていれば可能だということである。日本国民より五輪開催の方が重要と言うことだ。
そして、河野ワクチン担当大臣のワクチン獲得活動も役割が終了したようである。ご苦労様でした。
今後は、菅政権から離れて、河野さんは次の総理を目指して行動すればよいのである。この政権に固執することはない。
薬剤師のワクチン注射ができるかどうかの問題で、菅首相は、自民党への献金額が大きい医師会の反対に配慮しているが、河野大臣は推し進めたいようであり、意見の相違が出たのであろう。
河野さんの本領発揮であるが、既得権益を守りたい人たちからすると、許せないのでしょうね。担当大臣としてはワクチン接種を加速させたいようだ。
私は河野さんを支持しますが、自民党としては、できないようだ。1つの原因が、菅首相の中では、7月末65歳以上への接種完了が見えて、かつ五輪の開催を強行できることで、戦時モードから平時モードになったということだ。戦時には、河野さんが向いているが、平時には向かないということでしょうかね。
コロナ後の経済と社会
今からの時代は、新自由主義の時代が終わり、民主社会主義または、ケインズの時代になる。自由で闊達な時代が終わり、平等重視で経済的な活気がない時代がくる。
「ゆりかごから墓場まで」という平等主義の英国病に苦しむ国を救うために、サッチャーが社会保障を無くして、税金を安くして企業の利益を最大化する競争の時代、自由の時代を開いた。
それに追随して、米レーガンも新自由主義経済を確立して、IT化・金融資本主義の時代を作った。この構想通りに、ITと金融資本主義になり、しかし、その半面で貧富の差が拡大してしまった。
この修正が必要になっている。選挙民の多くが貧困化した労働者階層であり、富裕層の方が少数であり、選挙では数が多い方が勝つ。そこに目を付けたトランプ氏が当選したことで、米国政治は、再度労働者階層に目を向ける必要になった。
本来は労働者党のはずの民主党が、貧困労働者が投票した金持ち層の党・共和党に負けるという大逆転を許したのである。
このため、民主党は再度労働者の声を聞くしかなくなり、バイデンは、バーニー・サンダースやオカシオ・コルテスが主張する平等を掲げることで当選した。この平等は、政治が経済に介入することになる。統制経済にならざるを得ない。英国病の時代に戻る。
今までの新自由主義社会では、IT企業は雇用者数が少なく、しかし、雇用された人には高給が保証されている。このため、IT企業と金融投資企業の経営者・従業員と投資家だけがいい目を見ることになる。
製造業は新興国にシフトして、新興国の安い労働賃金で作られた商品で値段が安く、しかし、雇用者数が多く給与は低いが、新興国では、社会全体の所得を上げることができる。このため、新興国と新自由主義の英米は、ウィンウィンの関係が成立っていたのだ。
しかし、米国内部で、貧困層と富裕階級の差が拡大したのである。このため、再度、製造業を復活させて、労働階層・中間層を作り、社会を安定させる必要になっている。
もう1つが、地球温暖化防止などとCO2削減が叫ばれているが、再生可能エネルギーは、熱効率が低くなるので経済合理性を度外視した経済になる。ここでも政治が経済に介入することになる。
再生可能エネルギーを使って生産した物より、石油を使って生産した物の方が安いので、差分以上の関税を取り、国内販売上ではイーブンにすることになる。しかし、この料率を決めるのは、政府であるので、保護貿易になり、新興国からの物を入れないことにもなる。ということで、米英の製造業復活と整合性がある。
この経済合理性を成立たせるためには、人工光合成などの技術ができないと難しい。この技術をコスト的に低くして普及させるためには、まだ20年以上の時間がかかる。
その時代までは、既存技術を組合わせていくしかない。この分野は日本が強い。広範囲の技術を複合化し、アイデアを出して必要な物を作ることである。
物は関税障壁ができて、国境を越えられないが、相手国に工場を作ることはできるので、企業利益は増えることになる。人の移動はできるが、モノの移動が難しい時代になる。
勿論、IT技術も必要であるが、国際的なM&Aで企業買収を行い、IT分野を補強して、その他の製造分野は強いので、それと組合わせて勝つことである。異分野の国内企業同士の連携も必要になる。
アベノミクスでは金融政策が中心で、産業政策がなかった。何度言っても、聞き耳を持たなかった。その間に日本の産業競争力が大きく衰弱してきた。ここで、見直していくしかない。
3つ目には、米国と中国の覇権争いである。中国の人権無視は昔からである。なぜ、チベット人弾圧には反対せずに、ウイグル人弾圧に人権侵害と言うのは分からない。昔から人権弾圧をしているのが、中国である。それを今頃、問題視するのは、覇権競争になっているからである。
このため、中国経済と米国経済の分離が起きる。新彊綿使用でユニクロのシャツが米国輸入禁止になったのも、その理由からである。
ここは、次の経済的な側面がおかしくなると、最悪な状況も生まれることを念頭に置く必要がある。日本は対中前面にあるので、戦争になると最前線になる。
4つ目には、米国が日本のマネをして、財政出動をしたことである。コロナで、米国も世界も金融緩和、量的緩和、財政出動を行い、お金を市場に十二分に出した。このため、株価は最高値まで上昇し、資産や資源の全部が価格上昇している。しかし、今後、コロナが収束すると、市場からお金を吸収して正常化する事が必要になる。
しかし、それをすると株も資産も価格が大暴落するので、慎重に行うしかない。日本は30年掛けて金融緩和をして、一度に大きくは市中にお金を増やしていない。今回のコロナ下でも1回しか、それも10万円しか給付をしていない。
しかし、米国は、大判振舞をして700兆円程度もばら撒くという。FRBも大量に国債・社債などを月間で8兆円以上買入れで、200兆円以上になっている。それも今後も毎月8兆円の買入れだ。23年中は行うという。
米国民は貰ったお金を使うので物が不足して、物価が上昇している。失業保険給付には特別上乗せがあり、月30万円にもなる。就職活動はするが、就職はしないことになる。就職すると収入が減るのであるから、当たり前である。
インフレになると、金利を上げる必要になる。今までの金融理論では、金融緩和を止めるしかないが、それをしたら、株も資産も大暴落になる。このため、できないので、インフレであっても、インフレは一時的だと強弁することになる。
その先はスタグフレーションになる。不景気の物価高であり、一番困るのは、貧困層であり、貧困層の批判を受けて、バイデン政権は給付を継続するのではないかを見られている。しかし、それでは問題が解決しない。
とすると、どうなるのかである。米国の世論が沸騰してくると、何が起きるか、分からない。貧困層が結託してクーデターを起こすか、富裕階層や政府高官が中国を「悪の帝国」と呼び、戦争に向かい、国内をまとめるか、2つに1つの状況になることが想定できる。
2008年のリーマンショックが1925年9月の大暴落と一緒であり、その後、ルーズベルトのニューディール政策を行うが景気は回復しないで、第2次大戦で米国は復活するが、それと同じ道を歩んでいると見える。「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」ということである。
さあ、どうなりますか?
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