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なぜ習近平は東京五輪の開会式に合わせてチベットを訪問したのか

コロナ禍まっただ中で迎えた東京オリンピックの開会式。その演出にメッセージ性が乏しく、臨席した天皇陛下の横で鈍い動きを見せた菅首相に一言苦言を述べるのは、メルマガ『NEWSを疑え!』主宰する軍事アナリストの小川和久さん。開会式当日までの3日間で総書記として31年ぶりのチベット訪問を果たした習近平国家主席の狡猾な狙いを2つ3つと解説し、見逃すようなことがあってはならないと忠告しています。

東京五輪と習近平のチベット訪問

東京オリンピックの開会式の模様をテレビで観ながら、様々な思いを抱かれたことと思います。天皇陛下が開会宣言をしている横で、慌てて立ち上がった菅義偉首相と小池百合子東京都知事は弛緩しきった日本の現状を世界に印象づけました。

コロナ禍にあって、世界に向けて映像で勝負しなければならない式典なのに、単なる中継映像を流し、せっかくの出し物についても専門家が目を通した中身のある解説原稿にすべきところを、ありきたりの説明原稿を読み上げさせた組織委員会とNHK…。言い出したらきりがないほど不満が残りましたが、あとはアスリートが暗い空気を吹き飛ばしてくれるのに期待したいと思います。

そんな東京オリンピックにぶつけるように、中国の習近平国家主席がチベットを訪問したことは、日本として見逃してはならない動きでした。

「中国の習近平国家主席(共産党総書記)は21~23日、チベット自治区を視察した。国営新華社通信が23日伝えた。習氏のチベット訪問は2012年の総書記就任以来初めて。中国軍が進駐しチベットを『解放』したとする1951年から70年に合わせた訪問で、統治の正当性を誇示し、米国などからの人権侵害批判に反論する狙いがあるとみられる。

 

党トップの総書記の訪問は、90年の江沢民氏以来31年ぶり。習氏は『解放60周年』の11年に国家副主席として訪れたことがある。

 

中心都市のラサなどを訪問した習氏は『解放から70年で人民の生活は大幅に改善した。中国共産党がなければ、新中国も新チベットもなかったことを実践が証明した。党のチベット政策は完全に正しかった』と自賛。チベット仏教寺院『デプン寺』では、党の指導、社会主義制度、祖国の統一を擁護する寺の取り組みを評価した。(後略)」(7月24日付 時事通信)

大国のトップが動くとき、ひとつの目的だけということはありません。色んな方面に目配りをしています。優先順位こそ見方が別れると思いますが、今回の場合は次のようなことが考えられます。

まず、6月のコンウォールサミットの首脳宣言をはじめ、人権問題についての国際包囲網は中国としても見過ごすことができないレベルになっています。習氏としては、チベットの発展に中国が力を注いできたことを世界にアピールし、チベット側の親中国勢力を拡大していくために融和的姿勢も打ち出す。これは、国内の政治を安定させるためにもきわめて重要な位置づけにあったと思います。

同時に、チベット訪問の日程を東京オリンピックの開会式にぶつけておけば、開会式が大成功を収めた場合でも、習氏のチベット訪問を自然な形でニュースのトップに持っていくことができます。それによって中国国民の日本への憧れが増したり、対日感情が和らいだりすることに歯止めを掛ける効果も視野に入っていたと考えてよいでしょう。

むろん、チベット訪問の日程をぶつけることで東京オリンピックを無視するという対日姿勢の表明でもあったでしょう。開会式に出席すると思われていた孫春蘭副首相(スポーツ行政担当)の訪日を取りやめ、選手団を率いる国家体育総局局長の苟仲文氏(閣僚級)だけにしたことなどを見れば、それは明らかです。これは、米国などが打ち出している来年の北京冬季オリンピックへの外交的ボイコットに先手を打った動きでもあります。やるんだったらやれよ。オレのほうから先にやってやるよ。そんな声が聞こえてきそうですね。

もはやオリンピックは政治まみれ、金まみれ、スキャンダルまみれ。開催地や規模など、原点に戻って考えるべき時期にきていることは間違いありません。(小川和久)

image by:Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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