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野党共闘に大打撃。れいわ山本太郎「東京8区騒動」が起きた真の理由

10月8日の街頭演説で、石原伸晃元自民党幹事長のお膝元である東京8区からの出馬を宣言したものの、同選挙区から立候補を予定していた立憲民主党公認候補の支持者らの猛烈な反発を受け、11日に撤回に追い込まれたれいわ新選組代表の山本太郎氏。政権交代実現に向けた野党共闘の重要性が叫ばれる中、なぜこのような不可解極まりない事態が起きてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、山本氏が語った立憲民主党との交渉経過を引きつつ騒動の真相を探るとともに、立民の党内マネジメントや代表のリーダーシップを不安視。その上で枝野幸男氏に対して、野党第一党の党首としての役割を果たすべきとの考えを示しています。

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山本太郎氏、東京8区出馬撤回の顛末

岸田政権の滑り出しは上々といいたいところだが、世論調査では人気イマイチのようである。それゆえ、19日に公示される衆議院選挙の行方は、野党共闘の成否にかかっているといっても過言ではない。

共闘のカギは、候補者一本化の調整がうまくいくかどうかだ。なのに、いったん東京8区での出馬を表明し、自分が野党統一候補だと主張していた、れいわ新選組代表、山本太郎氏が、出馬を撤回する事態となった。各党間の連携の乱れが露呈したかたちであり、野党共闘へのダメージが気になるところだ。

なぜこんなことになったのか。顛末をたどると、野党間調整の難しさが浮き彫りになった。

10月8日、新宿南口バスタ前で、山本太郎氏が「選挙区発表街宣!」と銘打って開いた街頭演説会。いつもの名調子で山本氏が語り始めた。

「まずは選挙区の発表から。いつになったら決めるのかと言われてきました。立候補する選挙区は東京の8区になります。杉並です。石原家のご子息のお膝元です」

立憲民主、共産、社民、れいわ新選組の4党が民間団体「市民連合」の提示する共通政策で合意したのが9月8日。以来、衆議院選へ向け候補者一本化の調整が進められた。注目された山本氏の選挙区はなかなか決まらず、この街頭演説会で初めて発表される段取りだった。

東京8区では、石原伸晃元自民党幹事長が8期連続で当選している。山本氏は2012年12月の衆院選で東京8区に無所属で出馬、7万1,028票を獲得しながらも、13万2,521票の石原氏に敗れている。すなわち山本氏にすれば、リベンジの意味を持つ挑戦だった。

だが、この発表に憤慨した人々がいる。かねてから野党統一候補をめざして準備を進めてきた立憲民主党の新人・吉田晴美氏の支援者たちである。その一人がマイクを握って山本氏に質問した。

「昨日の夜まで山本太郎さんが8区から出るのを知らなかった。この選挙区はボトムアップでほぼ吉田さんに決まりかけていた。山本さんが出るんなら、最初から出てほしかった」

山本氏は次のように答えた。

「心苦しい。これまで活動してきたんだもの。でも、これ、調整だから。杉並は勝ちを取りに行ける大切な土地。もらいっぱなしではない。こちらも譲らなければならない所は出てくる。政党間のお互い様のやり取り。これが野党共闘。悔しい思いをさせてしまい、お詫びしたい。でも議席獲得目標に向けて、できれば鼻をつまんで一緒にやってもらえたら、こんなにありがたいことはないです」

自分を統一候補とすることは、野党間ですでに決まっている、というのが山本氏の認識だった。おそらく、山本氏の師匠格にあたる立憲の小沢一郎氏あたりもパイプ役として動いていたのだろう。小沢氏は同党の平野博文選対委員長から「選挙にこれまでの知見を貸していただきたい」と要請を受けている。

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ところが、朝日新聞と産経新聞は、山本氏の東京8区出馬をめぐる地元の反発を以下のように報じた。

れいわ新選組の山本太郎代表が次期衆院選で東京8区から立候補をすると発表したことをめぐり、選挙区である東京都杉並区内で10日、市民有志が抗議する街頭活動を行った。100人ほどが集まり、「地元の市民を無視した密室談合だ」とれいわや立憲民主党に対する批判が相次いだ。
(朝日新聞)

れいわ新選組代表の山本太郎元参院議員が8日に出馬表明した衆院選東京8区で、立憲民主党の党員らが同党の枝野幸男代表宛に「野党統一候補は地域で根を張って活動してきた人物がなるべき」などとして説明を求める申し入れ書を提出したことが9日、分かった。同区では立民新人の吉田晴美氏で野党候補を一本化する調整が進んでいた経緯があり、同党員から山本氏の出馬に反発の声が上がっている。
(産経新聞)

どうやら深刻な行き違いがあったようだ。

2019年の参院選で、山本氏が“れいわ旋風”を巻き起こしたのは記憶に新しい。だが、特定枠を使って重度障害者の2人の当選を実現したものの、山本氏自身は落選した。

そのために、れいわ新選組の発信力は著しく低下、昨夏の東京都知事選に山本氏が出馬して巻き返しをはかったが、新型コロナ感染が広がるなか、得意とする街頭演説の力が思うように発揮できず、3位に甘んじた。

こうしたことへの反省から、山本氏は今度の衆院選では、とにかく勝つことにこだわった。菅前首相の神奈川2区や萩生田光一経産相の東京24区も候補にあがっただろうが、山本氏自身の出馬経験もあり、リベラル層の厚いといわれる東京8区のほうが、より勝利の確率が高いと踏んだようだ。候補者を一本化すれば勝てると見込める選挙区でこそ調整の意味がある。

しかしこれは山本氏側から見た理屈だ。一時的にせよこの選挙区からはじき出される立場になった吉田晴美氏にしてみれば、なぜ東京8区なんだということになる。

吉田氏は2017年の衆院選で立憲民主党から東京8区に出馬し、7万6,283票を獲得した。当選した石原伸晃氏は9万9,863票で、その差は2万3,580票。共産党候補の獲得票が2万2,399票であったことなどから、吉田氏に一本化すれば、互角の戦いができると判断された。吉田氏はこの間、地道な活動を続け、支持者を増やしてきたという自負がある。

両者の間を調整するのが各党間の話し合いである。山本氏の語る交渉経過はこうだ。

9月30日 枝野、山本両代表が会談。枝野氏から「やり取りがなされているのは知っている、別の者が対応に当たっているという発言にとどめる」という約束があった。

立憲側が8区撤退を示すのは公認発表をもってし、れいわは準備が間に合わないため、その数日前に代表の選挙区発表を行うことで合意した。

その後、立憲から8区の支持者への説得にもう少し時間が必要なため公認発表は遅くとも10月15日までには行いたい旨の連絡があったので、れいわはそれを了承し、10月8日に代表の選挙区発表を検討していることを立憲に伝えた。

立憲側からは「それで結構です」と返事があった。候補予定者と次の活躍の場を約束することも含めた念書を交わしたと立憲より連絡があった。

各党の正式決定はまだとしても、選挙の公示まで期間は残り僅か。山本氏は一刻も早く選挙区を発表し、戦いの陣形を整えたかったために、10月8日の表明にこだわったと思われる。

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山本氏の8区出馬について記者から質問された枝野氏は「率直に言って戸惑っている」「できれば避けていただきたい」と語った。まるで、山本氏が勝手に暴走しているかのようだ。山本氏との会談における「やり取りしていると言うにとどめる」との約束は守られなかった。

山本氏は追い込まれた。以下のような報道はとりわけ骨身にこたえた。

一部の立憲幹部が山本氏への一本化で動いていた点についても、「市民の声に耳を傾けず、(立憲の)女性候補を降ろすのであれば、ボトムアップやパリテ(男女同数)を掲げてきた立憲のあり方を考え直さないといけない」と厳しい批判が相次いだ。女性の参加者からは「これはパワハラ。断じて許せない」という意見が出た。
(朝日新聞)

10月11日、横浜・日吉駅前における街頭演説で、山本氏は東京8区での立候補を取り下げる理由を概ね以下のように語った。

「東京8区でという話は2019年11月29日に立憲民主党からいただいた。共闘を決意したのは、5%への時限的消費減税を枝野代表が打ち出して以降のこと。東京8区への出馬で話は決まっていたが、立憲の支持者への説明があまりなされていなかった。枝野さんは約束と違う発言が日に日に大きくなり、まるでエイリアンがやってきたという感じになった。これを解決し共闘を前に進めるには私が8区を降りるのが一番早いと思った」

批判を恐れるためか腹を括って説得しようとしない枝野氏への苛立ちをぶつけるかのような出馬撤回の弁だった。

このような場合、調整が極めて難しいのは間違いないが、立憲の党内マネジメントや代表のリーダーシップには、いささか不安を覚える。

この件で、れいわ新選組、立憲民主党ともに深い傷を負った。野党共闘そのものがダメージを受けた。大同団結して議席を増やさなければ、野党は弱いままだ。野党が弱い政治は、与党の堕落と、政権の腐敗を招く。

山本氏はどうするつもりなのか。選挙区を変えてこの衆院選に出ると明言しているが、告示日は迫っている。

今回、財政再建より景気上昇を優先させるべく野党各党が共通して掲げた「消費税率5%」への減税公約は、山本氏らでつくる政策勉強グループ「消費税減税研究会」が各党に提言して実現した。

当初、立憲の枝野代表は消費減税に抵抗感があったようである。それはそうだろう。民主党政権時代の菅内閣が2010年6月、参院選直前に「消費税10%」を打ち出し、選挙に惨敗したさいの民主党幹事長である。

それでも今回、衆院選が迫るにつれ、消費税減税を野党結集の軸にすべきだという党内外の声が高まり、それに押されて、しぶしぶながらも採用したのだ。集団で戦う時には、個々の思いを封印することも必要だ。

枝野氏には大きな観点、冷徹な戦略、そして太い肝っ玉を持ってもらいたい。野党の結集で政権交代可能な連合体をつくることこそが、この国に真の民主主義を根づかせるため、野党第一党の党首が果たすべき役割である。

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image by: MAG2 NEWS

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