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テレワークが根付かぬ日本企業「対面以外は安心できない」問題の深刻度

政府の旗振りに一部企業は呼応する姿勢を見せてはいるものの、多くの職場で未だ遅々として進まないテレワークの普及。なぜ日本はここまで世界の潮流に逆らうかのような状況となってしまっているのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、我が国のテレワーク普及を阻害する理由を考察。その根本にあったのは、国家衰退の元凶とも言える「複雑怪奇な集団合議制」と、非正規社員に対する「許されざる差別」でした。

【関連】世界中で日本だけ。4割の企業が「テレワークで生産性低下」の異常事態

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2021年10月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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テレワーク後進国、日本の問題

コロナ禍を通じて浮き彫りになった問題として、日本ではテレワークの活用が進まないということが言われていました。2020年の春にはかなり強引な形で利用が進んだものの、現場では不評であり、その後は一進一退という格好になっています。どうしてなのか、このメルマガでは、これまで幾つかの仮説を提示してきました。

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まず、紙、つまり原本とハンコ、そして紙の郵便物に縛られた事務作業の環境があるという問題があります。続いて、ネット環境におけるセキュリティ確保だとか、セキュアされた中での自由なチャット環境の必要性など、インフラの問題もあると思います。ネット環境や、PCなどハードウェアへの投資不足という問題もあるでしょう。

更に言えば、日本のあらゆる制度設計が「グレーゾーン」を前提としており、建前としての実定法と、本音としての運用がかけ離れているという議論もしてきました。そのために、仕事を回すためには「本音の運用」をしないといけないが、その詳細については堂々と語れないために、対面で口承伝承しないと安心できないという問題があります。これは、単にテレワーク推進というだけでなく、日本の生産性を考える上での結構大事なポイントだと思います。

更に考え方を進めると、いわゆる「日本の終身雇用ホワイトカラー」にとっては、職場というのは城のようなものであり、転勤命令つまり参勤交代を義務付けられていることと同じように、幕府イコール「ご本社」に縛られているという問題があると思います。

単なる形式だと言えばそれまでですが、この登城と参勤交代というのが、それこそ江戸時代の「士農工商」とか「旗本、御家人、外様、陪臣」などの序列、そして、大大名から小名まで「江戸城における控えの間に序列がある」のと同じように、現代でもヒエラルキー制度として残っているのです。

その目的ですが、単に高齢者の役員とか、過去の実績がある(だけ)の執行役員などが威張っているというだけでなく、そのヒエラルキーがあるために、決定ができ、同時に決定への責任から逃げられるという複雑怪奇な集団合議制を作り上げているわけです。それ自体が非生産的であり、現状維持型の判断の源、イコール国家衰退の元凶であるわけですが、江戸時代の侍が「そのように行動するしかできなかった」のと同じように、そのようなヒエラルキー制度を維持するしか、組織を動かす術を知らなかった、それが現代の日本の民間企業に巣食う官僚制の正体なのだと思います。

だとするならば、組織を維持するにはどうしても職場で対面して、相互の序列確認をしないといけないし、能力とはいかに乖離していても、その序列に基づくヒエラルキーを使って組織を動かさないと安心できないのです。

そうなると、リモートの会議をやる中で、何の権限もない若手が、情報とノウハウを握って上役に対抗する、上役はこれに対して画面内では権威を示すことはできないというのでは、組織は回らないということになります。問題は、その若手に年俸15万ドル払って権限を与えれば済むことですが、それはできない、となるとオンライン会議というのは修羅場の連続となります。俺が社長だから、みんな画面では俺が上に映るように設定してくれとか、そう設定していない奴が見えるようにしてくれ、などという悲喜劇が起こるのはそういうことだと思います。

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もう一つ深刻なのは、特に非正規や派遣の方々に対してですが、雇用側もしくは発注側は、権限を与えられないという問題があります。つまり、安く使いたいから、モラルは期待しない、となると権限は与えられない、ならば機密情報へのアクセスをリモートで与えるのはもってのほか、だから出社、対面が絶対、という流れですね。

勿論、これに対しては絶対的な機密保持契約をすればいいのですが、日本の場合は残念ながらアドミも現業も、法制度が現実と乖離していますから、どんな実務にもグレーゾーン、つまり脱法行為的な内容が入っているわけです。ということは、全く忠誠心がない非正規労働者に対してリモートで機密情報や、実務の詳細データに触らせるのはリスクになるわけです。つまり、機密保持義務で縛っても、内容自体に脱法性があると、労働者としては自分の身を守るため、または会社の不利益になるように誘導するために、その脱法行為を簡単に摘発してしまうわけです。

この問題は、先ほど申し上げたグレーゾーンの問題と同じですが、相手が非正規になると余計に問題が複雑になるので、非正規は絶対出社となっているわけです。これとは別に、非正規に対しては、能力主義や成果主義は原則として採用できないという問題があります。

仮に非正規に対して、能力や成果を要求してしまうと、その要求水準や達成水準が「正社員より上」ということが簡単に起き得ます。そうなると、同一労働同一賃金の建前が崩壊して、モラルダウンや、訴訟リスクになってしまいます。そこで、原則として非正規の場合は、鉄の掟、つまり、

「給与とは、出勤という不都合に対する報酬である」

という原則によって「のみ」評価するのが正しいということになります。非正規同士のスキル格差、非正規と正社員のスキル逆転などの問題を、トラブルにしないためには、この考え方が徹底されることが必要になります。

勿論、非正規にはテレワークを認めないというのは、差別です。徹底的に戦って、この理不尽を壊すことに正義があると思います。ですが、そのためにも、どうして非正規にはテレワークが認められないのか、という問題を理解することが必要と思うのです。

(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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