先日掲載の「元国税調査官が暴露。国会議員が国税庁に“圧力”をかけている裏の実態」では、有権者から依頼された政治家による税務署への不当な働きかけの事実を暴露した、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。しかし議員よりもさらに大きな影響力を持つ存在があるようです。大村さんは今回、自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で、現役署員たちが絶対服従を強いられる「国税OB」が果たす役割をリーク。さらに映画でもおなじみの「マルサ」が大企業に踏み込めない本当の理由を暴露しています。
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※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の2021年12月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら・おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。
国税OB税理士は脱税し放題?税務署には政治家よりもOBの方が影響力がある
前号では、政治家が税務調査に介入してくることもあるということを述べました。
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が、税務調査に関しては、政治家よりも国税OBの方がよほど影響力があり、介入の頻度も多いのです。政治家は、支持者から口利きを求められたときにだけ介入してきますので、税務署としてもそう簡単には口利きには応じません。が、国税OBの場合、税務署と日常的な癒着の構造があるのです。具体的に言えば、国税OBの税理士が顧問となっている企業には、税務署は手心を加えることが多いということです。
税理士というのは、企業の決算書、申告書をつくるのが主な業務です。税務署に対し、企業側の代理人的存在であり、国税(税務署)との折衝役的な存在でもあります。この税理士の多くは、国税のOBなのです。国税職員というのは、約21年間勤務すれば、税理士の資格が得られます。そのため、国税職員は、退職すると、ほとんどが税理士になります。
つまり、それまで企業の税務調査などにあたっていた税務署員たちが、退職後は企業側に回って、代理人になるのです。
現役の税務職員にとって、国税OB税理士は先輩にあたります。それが、納税者の味方、つまり自分たちの敵として対峙するわけです。普通の「緊張関係」が保てるわけはないのです。
そもそも国税職員というのは、先輩と後輩の結びつきが強い組織です。後輩は先輩の言うことを絶対聞かなくてはならないし、先輩は後輩の面倒を必ずみなければならないという不文律があります。
また国税職員というのは酒の付き合いが非常に多いです。そして酒席となれば、必ず先輩が後輩に奢ってやらなければならないという暗黙の掟もあります。
そういう関係というのは、先輩が国税をやめたからといって簡単に断ち切れるものではありません。すると、どうなるでしょうか?
当然のごとく税務署員と税理士の癒着になるのです。たとえば、2008年11月に、こういう事件が発覚しています。大阪国税局の職員十数人が、同国税局出身のOB税理士から飲食の接待を受けていて、処分を受けたのです。このOB税理士は平成14年まで大阪国税局に勤務しており、当時は大阪市内で税理士業を開業していました。そして個人の課税関係の現職職員らに飲食の接待などしていたそうです。
大阪国税局監察官の調査などでは、職員が税理士に対して具体的な便宜を図った事実は確認されなかったので、贈収賄事件には発展していません。しかし、この行為は公務員倫理法に抵触していたのです。
贈収賄としては立証できなくても、国税職員たちがこのOB税理士の顧問先に、なんらかの手心が加えられたことは、明白です。
こういう接待を受けた場合、そのOB税理の顧問先でまともな税務調査などできるわけはないのです。あからさまに税金を安くすることはなくても、落ち度を見て見ぬふりをしたり、普通よりも軽めの調査になることは非常によくあることなのです。
筆者も、現役時代にOB税理士から御馳走されたこともあるし、OB税理士から紹介された飲食店で、料金を安くしてもらったこともあります。こういう経験がない税務署員は、皆無だと言っていいでしょう。
しかも国税OB税理士が、元幹部だったりすると、国税局に強い影響力を持つことになります。直接の後輩が国税の中枢にいることが多いからです。だから、国税の大物OBには、職員レベルではなく、国税局や税務署までも遠慮してしまうことになるのです。
札幌国税局長の犯罪
国税OB税理士と税務署員の癒着について、象徴的な事例を一つ紹介しましょう。2002年、元札幌国税局長の税理士が、約7億4,052万円を隠し、約2億5,273万円を脱税していたとして起訴される、という事件がありました。
この税理士の脱税の手口は非常に幼稚で、収入の一部のみを申告し、大部分の収入を申告していなかったというものです。経費の水増しや、ダミー会社を通すなどという工作さえ一切用いられていなかったのです。
なぜこのような幼稚な脱税をしていたのかというと、国税はOB税理士に甘いからです。しかもこの税理士の場合は、元国税局長という大幹部です。国税局長というのは、普通はノンキャリアのポストではなく、よほどのことがない限りノンキャリアの人間が国税局長になることはありません。この税理士はノンキャリアで国税局長になったのだから、まれに見る大出世といえます。「ノンキャリアの星」とまで言われた人物です。
この税理士は、国税局人事二課長、国税庁首席監察官など、国税の重要ポストを歴任していました。東京国税局人事二課長の時代には、国税庁と検察庁との調整役を果たすなどしていました。国税庁首席監察官というのは、国税職員全体を監視する役割です。国税には、監察と言う部署があり、ここは国税職員が不正や不祥事などを起こさないように見張るところです。税務署は、金銭が関係する仕事であり、贈収賄などの誘惑を受けやすいものです。そのため、監察という専門部署を設け、職員を日ごろから監視しているのです。
監察は職員の素行調査などを行うこともあり、また全職員の素行データをも全把握する立場にありました。つまり、この税理士は国税庁の内部事情、国税庁と検察庁との関係など、国税庁のトップシークレットを握っている人物でした。
そういう大物OBに対して、税務署は手出しをすることはできないのです。だからどんな大胆な脱税をしていても、発覚することはまずなかったのです。
そういう大物OB税理士がなぜ捕まったのかというと、国税側にやむにやまれぬ事情があったからなのです。この税理士は、大手芸能プロダクションが脱税して査察に踏み込まれたとき、顧問税理士になったのです。普通の査察事件ならば、この税理士の威光で、査察の調査も鈍ったかも知れません。が、大手芸能プロの事件です。マスコミが連日、周辺を嗅ぎまわるので、査察としても手心を加えるわけにはいかなくなったのです。
それどころか、マスコミはこの税理士のことも調べ始めました。そこに危機感を抱いた国税当局は、マスコミにすっぱ抜かれる前に、自らの手で脱税摘発に踏み切ったのです。つまりは、この税理士が大手芸能プロの事件に関与しなければ、今でも逮捕されていない可能性が高いのです。
国税幹部職員には顧問あっせん制度もあった
大物OBと国税との癒着は、構造的なものです。というのも、少し前まで国税は大っぴらに幹部職員の退職後の顧問あっせんを行っていたくらいなのです。これは、税務署が管内の企業に働きかけて「今度、うちの署長がやめるのだけれど、顧問として雇ってくれないか」と打診するというものです。その打診を受けいれる企業は、当然のことながら、税務署に手心を加えてもらおうと思っているはずです。また税務署の方も、税務署長を雇ってくれた企業に、そうそう厳しいことも言えません。自分たちもゆくゆくお世話になるかもしれないからです。
こういう「あっせん」を国税は長い間、堂々とやっていたのです。国税と企業の癒着もいいところです。信じられない事かもしれませんが、これは事実です。数年前に国会で問題にされたため、あっせん制度は平成22年に、一応、廃止されました。が、今でも内々では行われています。この制度に関しては、国税職員の間でも常々疑問に思われていることなのですが、最高幹部のやっていることなので、なかなか廃止できないというのが、実情です。
そして、日本の大企業の大半は、国税の大物OBを何らかの形でつながっています。顧問にしたり、職員として受け入れたりもしています。そのため、大企業は厳しい税務調査を受けることはないのです。
信じがたいことですが、資本金1億円以上の大企業に、マルサが入ったことはほとんどないのです。マルサというのは、正式には「調査査察部」といって、だいたい1億円以上の脱税の疑いのある者に対して、裁判所の許可をとって強制的な調査を行う部署です。映画やドラマでたびたび取り上げられているので、ご存じの方も多いでしょう。
このマルサは、大企業には踏み込めないのです。なぜマルサは大企業に行かないのでしょうか?もちろん、国税庁はその理由を用意しています。理由もなく、大企業に入らないのであれば、誰が見てもおかしいからです。その理由とはこうです。通常、マルサは1億円以上の追徴課税が見込まれ、また課税回避の手口が悪質だったような場合に、入ることになっています。しかし、大企業の場合、利益が数十億あることもあり、1億の追徴課税といっても、利益に対する割合は低くなります。つまり、大企業では1億円程度の脱税では、それほど重い(悪質)ではないということです。つまり、中小企業の1億円の脱税と大企業の1億円の脱税は、重さが違うというわけです。
また大企業には、プロの会計士、税理士などが多数ついており、経理上の誤りなどはあまりない、そして大企業の脱税は海外取引に絡むものが多く、裁判になったとき証拠集めが難しい、というのです。
これらの理由は、単なる言い逃れに過ぎません。確かに、中小企業の1億円と大企業の1億円では、利益に対する大きさが違うでしょう。大企業の場合、1億円の脱税をしていても、それは利益の数百分の一、数千分の一に過ぎないので、それで査察が入るのはおかしい、というのは、わからないでもありません。が、それならば、大企業の場合は、マルサが入る基準を引き上げればいいだけの話です。利益の10%以上の脱税額があれば、マルサが入る、というような基準にすればいいだけです。
また「大企業の脱税は海外に絡むものが多く、証拠を集めにくい」という理由も言語道断です。こういう理屈が成り立つならば、海外絡みの脱税をすれば、マルサに捕まらない、ということになります。
つまり、よりずる賢く脱税をすれば、マルサは手の出しようがないということです。
大企業にも税務調査は行われます。しかし、これはマルサの強制調査ではなく、任意調査です。大企業には、原則として毎年税務調査が行われることになっています。規模が大きいので、最低でも1か月、長いときには半年かけて行われます。調査官たちは専用の部屋(だいたい応接室の一室)をあてがわれ、下にも置かない扱いを受けます。そして、大企業は大方の場合、税務調査ごとにある程度の追徴税を支払います。それはまるで、税務調査に対する手間賃を払っているようにも見えます。
先ほども述べましたように大企業は、顧問として、国税OBの大物税理士をつけていることが多いです。つまり、国税庁側から見れば、大企業と言うのは大事な天下り先でもあるのです。つまりは、大企業と国税庁は、蜜月の関係があるといえるのです。
国会議員の口利きなどは、この大企業と国税庁の癒着に比べれば可愛いものです。国会議員が口利きをする企業というのは、だいたい上場企業ではなく、中小企業に毛の生えた程度の規模の企業がほとんどなのです。本当の大企業は、国会議員に口利きなど頼まず、国税の大物OBとあらかじめつながっているのです。
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