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A Group of tanks lined up in front of Russian and Ukrainian flags. Several military army war battle tank vehicles on the terrain are ready to attack. Russian-Ukrainian conflict or war

「ロシアは負けるかも」ロシア民間軍事会社のトップがこぼした本音

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者であり、プーチンとも親交の深いプリゴジンという人物をご存知でしょうか。彼が爆弾発言をしたと紹介するのは国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で今回、 プリコジンの人物像からプーチンを裏切る発言の内容に至るまで、詳しく語っています。

ワグネルトップが「ロシア敗北」の可能性に言及

一般的に、日本でロシアはマイナーな存在です。普通の人に、「ロシア人で知っている人の名前を挙げてください」と質問すれば、政治家はプーチンしかでてこないでしょう。少しロシアに詳しくなると、メドベージェフ前大統領、ラブロフ外相、ショイグ国防相などでてくるかもしれません。ウクライナ侵攻前に知名度が上がったのは、「プーチンのための宮殿」動画を出したナワリヌイでしょう。

Дворец для Путина. История самой большой взятки

彼は逮捕され、今も刑務所にいます。

昨年2月24日ウクライナ侵攻がはじまると、ロシアーウクライナに関する報道が増えました。それで、何人かのロシア人の知名度が上がりました。たとえば、「プーチンのメンター」といわれる地政学者ドゥーギン(娘のダリアが爆殺されて、有名になりました)。チェチェン共和国の首長カディロフ。民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジンなど。

プリゴジンとは

プリゴジンは1961年、レニングラード(今のサンクト・ぺテルブルグ)で生まれました。

1980年代は、強盗、詐欺などの容疑で、ほとんどの期間刑務所にいたそうです。1990年、ホットドック販売を開始し大成功。その金を元手に、食品チェーン、カジノ、水上レストランなどを設立していきます。

プリゴジンの水上レストラン「ニューアイランド」は評判がよく、プーチンが、フランスのシラク大統領や、アメリカのブッシュ大統領を連れてくるほどになりました。それで、今に至るまで、プリゴジンのあだ名は、「プーチンのシェフ」(ポーヴァル・プーティナ)です。

プリコジンは、プーチンとの個人的な関係をフル活用して富を蓄積していきます。プリコジンの会社は、学食やロシア軍に食事を提供する権利を獲得して、大儲けしました。

しかし、プリコジンを有名にしたのは、民間軍事会社「ワグネル」の設立者としてです。彼が「ワグネル」を設立したのは2014年。この年の3月、ロシアはウクライナからクリミアを奪いました。4月になると、ルガンスク、ドネツクの親ロシア派が独立を宣言。ウクライナ政府は当然これを容認せず、内戦が勃発しました。プリゴジンはこの年、ワグネルを作り、ルガンスク、ドネツクに戦闘員を送り込んだのです。もちろん、プーチンの命令で作ったに違いありません。

ちなみにロシアで民間軍事会社は違法です。そのため、ウクライナ戦争がはじまるまで、大っぴらにその存在が語られることはありませんでした。しかし、ワグネルはその後、中南米やアフリカ諸国、シリアなどにも傭兵を送るようになった。それで、ロシア研究者や世界中の諜報機関は、その存在を知っていたのです。

2022年2月24日、ロシアがウクライナ侵攻を開始。ロシアの国営メディアは、「2~3日で首都キーウを陥落させて特別軍事作戦は終わる!」とはしゃいでいた。ところが、戦争はプーチンの予想を裏切って長期化し、世界中の人が、「ロシア軍は軍事力世界2位というが、案外弱い」ということを知ったのです。

ロシアの正規軍はだらしない。そんな中、ウクライナ軍を苦しめているのが、プリゴジン率いる「ワグネル」です。

プリゴジンは、正規軍のだらしなさに対する憤りと、自分が大活躍しているという驕りから、次第に増長するようになっていきました。昨年の11月には、「ゼレンスキーは現在ロシアに敵対する国の大統領だが、ゼレンスキーは強く、自信があり、現実的で、いいヤツだ」と発言しています。これは、ロシアの「公式見解」とは全然違います。

ロシア政府や国営メディアは、ゼレンスキーについて、「ネオナチの麻薬中毒者」と定義している。ところが、プリゴジンは、「強く、自信があり、現実的で、いい奴」といっている。この発言から、プリゴジンが、プーチンへの恐怖心を失っていることがわかります。

戦場で活躍するプリゴジンとワグネル。その一方で、ロシア軍の弱さとだらしなさを批判するプリゴジン。ロシアの支配者層は、プリゴジンを恐れ、疎ましく思っているようです。そして、彼からバカにされているロシア軍との関係も、また悪いのです。

プリゴジン、ロシアの敗北に言及

そんなプリゴジンは4月15日、爆弾発言をしています。産経新聞4月15日。

ロシアによるウクライナ侵略で、露軍側で参戦している露民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏は14日、「プーチン政権は軍事作戦の終了を宣言すべき時だ」とする声明を交流サイト(SNS)上で発表した。同氏はまた、露軍は「東部ドネツク州全域の制圧」とする主目標を達成できそうもない上、ウクライナ軍の反攻で敗北する可能性があるとも警告した。

ロシア軍は「ウクライナ軍の反攻で敗北する可能性がある」そうです。

プーチンは1月、ロシア軍のトップ、ゲラシモフ参謀総長をウクライナ特別軍事作戦の総司令官に任命しました。ロシアのハイブリッド戦略を考案した、世界的に著名な戦略家。ロシア軍のラスボス。

プーチンは、ゲラシモフに「3月中にルガンスク州、ドネツク州を完全制圧せよ!」と命令しました。しかし、4月半ばになっても、そのミッションは完遂されていません。そして、ウクライナに、欧州から戦車、戦闘機が続々と入ってきている。そう、ウクライナは大規模な反転攻勢の準備を進めている。

プリゴジンは、来るべきウクライナ軍の反転攻勢で、「ロシア軍は敗北する可能性がある」と見ている。ワグネルは、ドネツク州の最激戦地バフムトの前線で戦っています。戦況をよく知るプリゴジンの言葉には真実味があります。

では、プリゴジンは、何を提案しているのでしょうか?

プリゴジン氏は声明で、ロシアはウクライナ領の重要地域を占領し、露本土と実効支配するクリミア半島を結ぶ陸路も確保するなど十分な「戦果」を達成したと指摘。侵攻開始から1年に当たる今年2月24日時点の前線を停戦ラインとすべきだと主張した。
(同上)

なるほど~。

ロシアは昨年9月、ルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州を一方的に併合しました。しかし、ほぼ全州を支配できているのはルガンスク州だけです。

つまり、プリゴジンは、「ルガンスク州ほぼ全部、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州の一部で、ロシアは停戦交渉しろ!」と。

ですが、この話は、ゼレンスキーとウクライナ国民が納得しないでしょう。ロシアは、どういう根拠で、ヘルソンやザポリージャまで併合したのでしょうか?「ルガンスク、ドネツクで迫害されているロシア系住民を救う」という話だったではないですか。

というわけで、戦闘はつづく可能性が高いのですが、つづいた場合の結末は?

停戦しない場合、露軍はウクライナ軍の反攻で占領地域を奪還され、威信も失う恐れがあると指摘。
(同上)

つまり、ウクライナ軍の反攻で、ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン、ひょっとしたらクリミアも奪還される可能性があると。

さらに、プリゴジンは、明らかに反逆的発言もしています。

「ウクライナはかつてロシアの一部だったかもしれないが、今は国民国家だ」とも述べ、「ウクライナはロシアの一部だ」とするプーチン露大統領の持論に暗に異を唱えた。
(同上)

プリゴジン、今は戦時の貴重な戦力なので、何かされることはないでしょう。しかし、プーチンやロシアの支配層が彼を必要としなくなれば、捕まったり、殺されたりする可能性もでてきそうです。

というわけで今回は、ワグネルのトップが、「ロシア軍は負けるかもしれない」と本音を言い始めたというお話でした。早く戦争が終わることを願います。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年4月17日号より一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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