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四面楚歌のプーチン。ロシア国内からも追い詰められる独裁者の断末魔

4月9日にモスクワで行われた対独戦勝記念日のパレードで、ウクライナ戦争における自らの正当性を主張し、西側諸国を激しく批判したプーチン大統領。しかしロシアの独裁者は今、国外からだけでなく国の内側からもこれまでにない強いプレッシャーを受けているようです。今回、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏は、民間軍事会社のトップによるロシア軍幹部批判が示してしまった「不都合な真実」を紹介。さらに先日発生したクレムリンへのドローン攻撃の真相を探るとともに、プーチン氏が最も恐れている「内からの脅威」の特定を試みています。

敵に回せば政権崩壊。プーチンは「誰」を一番恐れているのか

モスクワでは9日、旧ソ連がドイツに勝利してから78年が経ったことを祝う戦勝記念の軍事パレードが行われたが、それはウクライナ戦争におけるロシアの劣勢を顕著に示すものになった。これまで軍事パレードは大々的に行われてきたが、今年参列したロシア軍兵士の数は8,000人あまりと過去15年で最も少なく、戦闘機の姿もそこにはなかった。また、例年はモスクワ以外の都市でもパレードが実施されるが、今年は地方24都市でパレードは行われなかった。これらは、ウクライナ侵攻で装備や兵士の不足で苦しむ今日のロシア軍の姿を表している。

それでも、軍事パレードで演説したプーチンは依然として強気の姿勢を崩していない。プーチンは演説でウクライナ侵攻の意義を強調し、ゼレンスキー政権との交渉の意図はなく、それをナチス・ドイツに勝利した戦いになぞらえた。また、米国など西側諸国を強く非難し、西側はロシアを破壊しようとしており、憎悪とロシア恐怖症の種をまき散らしていると不満をぶちまけた。

ウクライナ戦争でロシアが劣勢に立たされて既に長い時間が経過しており、プーチンが外の世界で追い詰められていることに新鮮さはない。しかし、今日、プーチンは内の世界からこれまでになく強いプレッシャーを掛けられている。

ワグネルトップの「ロシア軍幹部猛批判」で露呈したこと

その典型例が民間軍事会社ワグネルとの関係だ。ウクライナ戦争でワグネルは最前線に立って攻撃を加えてきたが、最近になり、ワグネルの創設者プリゴジン氏はSNS上でロシア政府への不満をぶちまけている。たとえば、5月5日、プリゴジン氏は、「ジョイグ、ゲラシモフ、弾薬が70%足りない、弾薬はどこにあるんだ」と、鬼の形相でロシア軍幹部を非難し、十分な配給がなければ軍事的最前線となっているバフムトからの撤退を示唆した。その後、「必要な弾薬と武器が約束された」と新たな声明を発表したが、それはロシア軍が前線をワグネルに依存していること、そしてロシア軍が極めて焦っていることを示すことになった。

しかし、続いてプリゴジン氏は、「届いた弾薬は要求していた量のわずか10%だ、我々はだまされた」、「国はどうすればいい?戦争にどうやって勝てばいいのか?」などと不満をあらわにし、11日は、「バフムトでウクライナ軍の攻勢が激しくなっており、ウクライナ軍の作戦が一部で成功している」と自らの劣勢を認め、ウクライナ軍幹部もワグネルの部隊が疲弊し、ロシア軍も戦闘で敗北し撤退していると自らの優勢を主張した。

プーチンがロシア軍やワグネルよりも恐れる内からの脅威

こういった“ロシア内”からのプレッシャーに、今日プーチンは直面している。むしろ、今日、プーチンにとってはウクライナや欧米以上に内からの脅威の方が身の安全にとって危ないと認識しているかもしれない。それを如実に示すのが、クレムリンを狙ったドローン騒動だ。

5月3日、ロシア政府はクレムリンを狙ったドローン2機を撃墜したと発表した。ロシア政府はプーチンを暗殺しようとしたものだと強く非難し、公開された映像では小型の物体がクレムリン上空を飛行した後、小規模の爆発を起こす様子が映っていた。これを巡っては、ロシアはウクライナや米国が関与していると主張しているが、ウクライナなどはそれを全面的に否定しており、既にお蔵入り状態となっている。

しかし、政治的に考え、これはロシアによる自作自演の可能性が極めて高い。上述のとおり、ウクライナ戦争ではウクライナ軍が優勢で、今後大規模な攻勢を強めるとみられ、今日ゼレンスキー大統領にそれ以上ロシアに軍事的攻撃やけん制を強める政治的意義はない。仮に、ウクライナ軍がドローン攻撃を実施したとなれば、今後はウクライナへの非難の声が国際社会から拡がる可能性(非欧米諸国が中心)もあり、それを実施する意味もない。

一方、ロシアにはメリットがある。上述のようにプーチンとワグネルの関係にも摩擦が顕著となり、ロシア軍は劣勢に立っており、それはロシア国民のプーチンに対する疑念に直結する。今日、プーチンは間違いなく焦っている。要は、自作自演策でも、「俺が暗殺されそうになった。ロシア国民よ敵はひどいのだ。よって我々は戦争に勝利しなければならない」などと国民向けにアピールしなかったのだ。

プーチンが最も恐れる内からの脅威はロシア軍でもワグネルでもない、国民だ。この可能性以外に答えはない。

image by: Naga11 / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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