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Wheat grains on the hands of a farmer near a sack, food or grain for bread, global hunger crisis concept due to war, close up. Food and Agriculture Organization

ロシアが「穀物合意」から離脱。世界中を敵に回す“一人負け”状態のワケ

ロシアがウクライナなどとの黒海穀物合意から離脱を宣言しました。これについて、メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは「ロシアの一人負け」と語っています。その理由とは!?

なぜ「穀物合意離脱」はロシアの「一人負け」なのか?

ロシアは7月17日、いわゆる「穀物合意」からの離脱を宣言しました。日経新聞7月17日。

ロシアのペスコフ大統領報道官は17日、同日が期限だったウクライナなどとの黒海穀物合意について「停止する」と述べ、延長に応じない考えを示した。合意を仲介したトルコ、国連にも18日からの停止を通告した。

これは、何でしょうか?

2022年2月24日、ウクライナ戦争がはじまりました。ロシア軍は黒海を封鎖。これで、ウクライナは小麦輸出が出来なくなってしまった。ちなみにウクライナは、小麦輸出で世界5位です。

ロシアのターゲットはウクライナですが、被害はそこにとどまりません。ウクライナ産の小麦を食べていた人たちが飢えることになる。国連世界食糧計画(WFP)によると、ウクライナは世界4億人に食糧を供給しているそうです。

ロシアによって世界中の食料価格が高騰するだけでなく、世界的な飢餓問題が起こる。そこで、国連、トルコが仲介し2022年7月、ウクライナとロシアを含む「穀物合意」が成立しました。ところが、ロシアは1年経った今年7月17日、穀物合意からの離脱を宣言したのです。

なぜロシアは離脱したのでしょうか?「条件が満たされていないから」としています。

ペスコフ氏はロシアが求める「条件」が満たされればただちに再開するとも付け加えた。条件の詳細は明らかにしなかったが、欧米による金融制裁の緩和を求めているとみられる。ロシアは自国の銀行が国際決済網から締め出されていることや保険の制限が自国産の食料・肥料輸出を妨げていると主張している。
(同上)

条件の詳細は明らかになっていませんが、要するに、「制裁緩和」を求めているのでしょう。これ、今後どうなるのでしょうか?4億人が飢える事態になるのでしょうか?

穀物合意離脱は、「ロシア一人負け」の理由

「穀物合意離脱」、冷静に考えるとロシアの一人負けです。なぜでしょうか?まず、国連を敵に回してしまう。産経新聞7月18日。

ロシアが黒海を経由してウクライナ産穀物を輸出する「穀物合意」の一時離脱を決めたことについて、国連のグテレス事務総長は17日、世界の食料価格が高騰し「人的被害が増える」と述べ、深い遺憾を表明した。

「ロシアは孤立していない」という人がいます。というのも、対ロシア制裁をしているのは、主に欧米と日本だからです。

現状、ロシアに制裁を科しているのは、40か国ほどだそうです。それでも、欧米と日本で、世界GDPの約半分ですから効果はあります。

一方、ロシアとしては、「残りの国々を取り込んでいく」のが基本戦略になるでしょう。

ところで、黒海封鎖は、世界に迷惑をかける行為です。まず、穀物の供給量が減り、世界的に食糧価格が上がる。それだけでなく、飢餓人口が劇的に増える。黒海封鎖は、ロシアが味方につけたい、中東、アフリカなどにおけるロシアの評判を大いに下げる結果になります。

もう一つの理由。とはいえ、「そもそもロシアは、もう黒海を封鎖できない」可能性がある。どういうことでしょうか?共同7月18日を見てみましょう。

ウクライナのゼレンスキー大統領は17日の動画声明で、ウクライナからの黒海を通じた穀物輸出は「ロシア抜きでも機能する」と述べ、合意当事者のトルコと国連に継続を要請したと明らかにした。ゼレンスキー氏はトルコのエルドアン大統領と国連のグテレス事務総長に、黒海経由での穀物輸出か、それと同等の活動をウクライナ、トルコ、国連の3者で続ける提案をしたと表明。輸出継続は「世界中の全ての人に必要だ」と強調した。

ゼレンスキーは、「穀物輸出は、ロシア抜きでも機能する」といっています。これは、どういうことでしょうか?

要するに、トルコ軍にウクライナの穀物輸出用の船を守ってもらう。ロシアは、トルコ軍が護衛するウクライナ船を攻撃するでしょうか?ウクライナに勝てないロシアが、トルコと戦争を開始する?ちなみに、トルコはNATO加盟国。ロシアがトルコと戦争をはじめれば、全NATOとの戦争になります。

そして、国際社会は「トルコは、世界の人を飢餓から救うために動いていた。それを攻撃したのはロシアだ!」となります。つまりこの件で、トルコのエルドアンは、「100%善人」であり、世界の人を飢えさせるプーチンは、「100%悪」になってしまいます。つまり、「穀物合意離脱」は、どう転んでもロシアが一人負けなのです。

なぜ、このようなバカげたことをするのでしょうか?ロシアのトップが「戦術脳」だからでしょう。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2023年7月18日号より一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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