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医学生を増員しても美容医療に流れる問題をカナダがズバッと斬った

前回の記事で韓国の医師会が政府の提唱する医師増員に反対しているという話をしてくれた、無料メルマガ『キムチパワー』の著者で韓国在住歴30年を超え教育関係の仕事に従事している日本人著者。今回は、韓国以外の国での医師増員への対策を紹介しています。

むしろ医師会が「医師増員」を要求するドイツの事例

先月19日午前、ドイツ・ハンブルク市のアスクレピオス病院の救急室。発作の症状を見せながら倒れた50代の男性患者が救急車に運ばれると、救急医学科専門医を含む医療スタッフ4人が入り口に駆けつけた。 医療スタッフは一糸乱れぬ応急処置をした後、わずか5分で患者を入院病棟に送った。

海外でも厳しく危険な必須医療分野は、医師が忌避する分野だ。しかし記者が訪れたドイツでは、救急患者が治療を受ける病院を探してさまよう「漂流」は見られなかった。トビアス・シェファー救急室副課長は「当院は近くの圏域で最も危篤な患者を主に収容しているが人手が足りなくて重症患者を受けられなかったことはほとんどない」と述べた。「そのようなことはドイツのどこでも起こらない」とも述べた。

韓国より先んじて高齢化を経験したドイツは、早くから医学部の入学定員を増やしたおかげだ。2021年基準でドイツ人口1000人当り臨床医師が4.5人で、韓国(2.6人)の1.7倍だ。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で3番目に多い。それでもドイツ医師協議会は今も「医学部の定員をさらに増やせ」と政府に要求している。医師の労働時間が短くなり、実際の診療余力はむしろ減り、これを重症救急患者の治療に優先配置し、軽症手術などは待機が長くなっているためだ。ダニエル・ロルマン・ギュタスロシ保健諮問委員は「ドイツ人は依然としてより多くの医師が必要だと考えている」と述べた。

日本も状況が似ている。日本政府は2030年前後に医師不足が深刻になると2006年に予測した。以後、07年7625人だった医学部の定員を2019年9420人に増やした。しかし、必須医療医師は「病床当たりの医師数は依然として不足している」とし、追加拡大を要求している。

先月13日、大阪大学医学部付属病院の高度救急救命センターで会ったオ・ダジュン救急医学科教授は「医師が増えたが、必須医療分野の人材不足問題は依然として残っている。医師の増員だけではなく、必須医療を生かす対策を並行しなければならない」と述べた。

東亜日報の取材チームは重症・救急患者の「漂流」という国内必須医療問題の解決策を探すため、今年8月から10月まで日本とドイツ、カナダ、オーストラリア、米国の5か国の病院と救急隊など現場15か所を訪問した。その過程で現地の専門家44人にインタビューした。海外では事前に医師を拡充しながら重症・応急患者と医師をリアルタイムで連結するシステムを開発するなど患者を生かすために奮闘していた。

尹錫悦大統領は19日、医学部の入学定員を拡大し、地域の国立大学病院の診療力量を育てる「必須医療革新戦略」を発表した。拙速推進でさらに大きな副作用をもたらした歴代政府の医療改革の失敗を踏襲しないためにはどうすればいいのか。各国の医療現場で会った医師と政策当局者は「重要なのは実行意志と細かい設計」と述べた。

政府が2025学年度から医大入学定員を増やすという意志を19日明らかにした。しかし増えた医師が地域・必須医療分野で働ける環境を作るのが本当の課題だ。彼らがソウルに集中したり、エステ分野に抜け出せば、重症救急患者の「漂流」が解決されるどころか、国家医療費の支出だけが増える可能性があるからだ。取材チームが訪問したドイツと日本、カナダなどでは必須医療で医師を誘引するための各種政策的な支援があった。

ドイツは「開院の総量制」を通じて診療科目ごとに該当地域でオープンできる個人病院の数を決めている。無分別な「開院ラッシュ」で大型病院の必須医療医師が不足することを防ぐための措置だ。実際、ドイツは人口1000人当たりの手術専門医は1.47人で、韓国(0.71人)の2倍を超えた。先月19日、ハンブルク市のエッペンドルフ病院の小児青少年科専門医モナ・リントシャウは「大型病院必須医療分野専門医は開院医より通常より多くの補償を受けるため、むしろ開院の許可証があまり売れない」と述べた。反面、韓国は町内医院を開いて皮膚美容施術や理学療法などをした方が収入がはるかに良い。手術医師が不足している理由の一つだ。

このような政策にもかかわらず、ドイツ内で医師の必須医療分野忌避現象は少しずつ広がっているという。「ワークライフバランス」(仕事と生活のバランス)が重要な話題だからだ。アスクレピオス病院のトビアス・シェファー副課長は「特に脳を手術する神経外科専門医は仕事が大変で当直も頻繁で若い医師たちが敬遠する」と話した。このため、政府は不足している手術医師を海外から誘致している。韓国系ドイツ人である腎臓内科専門医のハン・ソングク氏は「移民医師のための専門語学試験と資格試験を別に運営している」と話した。

日本は医学部の定員を大幅に拡大し「地域医療確保奨学金」を導入した。医大定員の一部を別途選考で選抜し奨学金を与えるが、通常10年内外の病院・医院が不足した地域で義務勤務させる制度だ。これは2020年7月文在寅政府が発表したが、医療界の激しい反発に直面して保留した「地域医師制」と類似している。

制度導入初年度の2007年には地域医療確保奨学金を受ける医大生が183人で、全体医大生の2.4%に過ぎなかった。しかし2020年には1679人(全体の18.2%)と大幅に増えた。急激に減っていた農村地域の医師も2010年から反騰し、2018年には8年前より12.1%増加した。

しかし現地の専門家たちは、この制度が「地域医療崩壊」の急場しのぎの火を消すのに役立ったとしても、必須医療科目の忌避問題まで解決できなかったと指摘した。国士舘大学医学部の田中秀治救急医学科教授は、「日本でも皮膚科、整形外科が大きな人気を集めているのに対し、救急医学科、産婦人科などは『4K』(日本語で『きつい・汚い・危険・かっこ悪い』の略語)職業とされ、医師が忌避する」とし「必須医療分野に対する待遇を高めなければ解決しにくい問題」と述べた。

これは医学部定員拡大の「落水効果」だけでは必須医療問題を完全に解決できないことを示唆する。必須医療分野の勤務条件を改善する一方、救急患者から診療を受けるようにしなければならない。

オーストラリアは情報通信技術(ICT)を積極的に活用している。オーストラリアのウェスタンオーストラリア州のアンドリュー・ジェイミソン地域医療局長は「私たちも医師たちが小都市勤務を敬遠している。代わりに大型病院の熟練した医師が「遠隔協力」を通じて不足している地域の医療人材を補完している」と述べた。

医学部入学時の成績だけでなく、医師になろうとする理由やボランティア経歴など、人間性評価を実施するカナダの事例も参考になるという指摘が出ている。

カナダ・アルバータ州カルガリー圏域急性期分野の責任者スコット・バンクスは「カナダでも皮膚美容分野の医師がお金をより多く稼ぐことはできるが、このため必須医療分野が人手不足を経験することはない」とし「もし医大卒業生の大多数が所得のために非必須医療分野を選ぶならば、それは医大入学生選別の失敗だ」と話した。(東亜日報ベース)

image by: Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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