日本スポーツ界の「鬼コーチ」として名高い井村雅代さん。厳しいだけではないその指導は結果をもたらし、日本のアーティスティックスイミングを牽引してきました。今回のメルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、井村さんのインタビューから彼女の叱るコツについて紹介しています。
叱るとは、信じること。低迷していた日本のアーティスティックスイミングを牽引した井村雅代さんの教え
低迷していた日本のアーティスティックスイミングを牽引し、選手たちを表彰台へと導き続けてこられた井村雅代さん。
「鬼コーチ」の異名と共に有名な「三つの叱るコツ」を交え、選手たちを鼓舞した体験的指導哲学を語られています。
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〈井村〉
いま、スポーツ界で叱る教育の代表といえば、すぐに私の名前が挙がります。でも、私の中では叱っているという意識は全くありません。下手だから下手、ダメだからダメ。本当のことを言っているだけなんです。
そして本当のことを言ったら、私は必ず直す方法を言います。一つの方法だけでは直りませんから、今度はこうやってごらんと、どんどん次の直し方を言う。そして直ったと思ったら、「それでいいよ」とちゃんとOKを出すんです。でも取材に来られるマスコミの方は、私が怒っているところばかり撮るから、ああいう恐ろしい映像になるんです(笑)。
きょうの演題は「愛があるなら叱りなさい」ですが、叱っている時の私は、あなたをいまよりも絶対によくしてやる、よくなるまではあなたの傍を離れない。ただそれだけを思っています。それが私の本心なんです。
だから、選手にダメって言ったら、必ず直す方法を言うこと。こう直しなさいとちゃんと指示してあげることが大事です。
直す方法って簡単そうですが、冷静にならないと上手く言えません。いまの若い子に、相手の気持ちを察するとか、人の背中を見て学ぶとかいうことを期待するのは難しいので、こう直しなさいとちゃんと言ってあげなければいけないんです。
ここで皆さんに叱るコツをお教えするならば、叱る時はまず現行犯で叱ってください。いまのそれがダメなんだって言われたら、人間は反省します。「君、この前も同じことを言ったよ」と古いことを持ち出してはいけません。これをやられると、いまやったことへの反省が薄れてしまうんです。
もう一つしてはいけないのは、しつこく叱ること。それは本人の自己満足で、聞いている人は「もう分かったよ」って嫌気が差してくるんです。現行犯で叱ること、古いことを持ち出さないこと、しつこく叱らないこと。この三つの叱るコツをぜひ覚えてください。
そして、叱る時は本気でかかってください。相手がどんなに小さなお子さんでも、自分に本気でぶつかってくれているかどうかは分かるんです。中途半端に叱るくらいなら、最初から知らん顔をしているほうがましです。
叱るとは、いま自分の目の前にいるこの人は、絶対にこのままでは終わらないんだ。いまの状態よりも必ずよくなるんだと、その人の可能性を信じることなんです。
だから本気でぶつかり、よくなるまであの手、この手で引き上げようとする。叱るとは、その子の可能性を信じるということなんです。
(本記事は月刊『致知』2018年1月号 特集「仕事と人生」より、井村雅代さんの特別講話「人を育てる──愛があるなら叱りなさい」の一部を抜粋・編集したものです)
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