3月17日の投開票まであと一月余りとなったロシア大統領選挙。世界中のほぼすべてのメディアがプーチン大統領の圧勝を予測していますが、プーチン氏はいかにしてここまでの「一強体制」を築いたのでしょうか。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、その2つの理由を詳しく解説。さらにロシアを「なんちゃって民主主義」の国とした上で、日本がそのような国家に陥らないために「国民が見極めるべきこと」を提示しています。
【悪用厳禁】なぜプーチンは選挙で勝つのか?
全世界のRPE読者の皆様、こんにちは!北野です。
今年は、重要な選挙がいくつかあります。一つは、1月に実施された台湾総統選挙。親日、親米、反中、独立派の民進党・頼清徳さんが勝ちました。二つ目は、3月17日に予定されているロシアの大統領選挙。三つ目は、11月5日に予定されているアメリカ大統領選挙。
台湾総統選、頼清徳さんが勝つと思っていましたが、100%の確信はありませんでした。アメリカ大統領選、トランプさん、バイデンさん、ヘイリーさん、誰が勝つのでしょうか?
トランプさんは、司法の問題がある。バイデンさんは、認知症らしい。ヘイリーさんは、若くて認知症の問題も司法との問題もないけれど、トランプに勝てていない。いずれにしても、「誰が勝つか、100%予測するのは難しい」でしょう。
ところがロシアでは、「プーチンが勝つ」といえます。もちろん、「病死」とか「暗殺」とかの可能性が全然ないわけではありません。しかし、このまま選挙が行われば100%プーチンが勝ちます。この結論、皆さんも同意してくださるでしょう。
でも、なぜプーチンが勝つのでしょうか?この辺り、明らかにしていきましょう。
プーチンは、メディアを完全支配している
プーチンは2000年に大統領に就任した時、すぐにテレビ支配を目指しました。そして、それを実現したのです。
ロシアの3大テレビ局といえば、1カナル、ロシア1、NTVです。最初の二つは国営で、NTVは民放最大手です。この3大テレビ局をプーチンは完全支配しています。さらに他のテレビ局でもプーチン批判は、一切ありません。
3大テレビ局は、「プーチンの支持率を上げるためのプロパガンダマシーン」と言えるでしょう。それで、「テレビ世代」は洗脳され、「親プーチン」「戦争支持」になっているのです。
一方、年齢が下になるほど、テレビを見ないネット世代になっていきます。彼らは概して「反プーチン」で「反戦」です。しかし、それを公言すると逮捕されるので黙っています。
有力な対抗馬は、あらかじめ排除する
プーチンは、メディアを支配しているおかげで、高い支持率を保っています。それでも時々、有力な対抗馬が出てくることがあります。いえ、「ごくまれに」というのが正確な表現でしょう。
プーチンの権力闘争。ほとんどは、彼が大統領になってから3年間で終わりました。2000年から2003年にかけて、プーチンは、90年代ロシアの政治経済を支配してきた3人のユダヤ系新興財閥を打倒したのです。
「3人のユダヤ系新興財閥」とは、
- 「クレムリンのゴッドファーザー」と呼ばれたベレゾフスキー
- 「ロシアのメディア王」と呼ばれ、「世界ユダヤ人会議」の副議長を務めたグシンスキー
- 「ロシアの石油王」と呼ばれた元ユコスCEOホドルコフスキー
です。この3人を倒した後、プーチンの権力基盤は盤石となり、ほとんど無風できました。
しかし、細かく見ていくと、後2回危機があったことがわかります。
1回目は、2008年から2012年まで大統領を務めたメドベージェフが、プーチンを裏切って再選を目指したことです。しかし、メドはプーチンとの権力闘争に敗れて、再選を断念しました。メドはその後プーチンに冷遇され、アル中になり過激な発言を繰り返していると言われています。
2回目は、ロシア1の政治系ユーチューバー、「反汚職基金」(FBK)の創設者ナワリヌイの台頭です。ナワリヌイは、ロシア政府高官の汚職を次々と暴露して大人気になりました。
二つ代表作があります。一つは、メドベージェフ前大統領が複数の超巨大別荘を所有していることを暴露した動画。
この動画によって2017年、ロシア全土で大規模デモが起こりました。クレムリンは、デモを武力で鎮圧しましたが。プーチンは、「ネットってそんなにパワーがあるのか!?」と驚き、規制を加速させたのです。それで私の仕事にも支障がではじめ、「完全帰国を決めた」という流れです。だからナワリヌイは、私の人生にも「大きな影響を与えた」
といえるでしょう。
ナワリヌイ、二つ目の代表作は、「プーチンのための宮殿」です。
● Дворец для Путина. История самой большой взятки
すでに1億2,900万以上再生されています。ロシア語の動画なので、見たのはほとんどロシア人でしょう。そして、ロシアの人口は、約1億4,600万人。この動画の影響力の大きさがわかるでしょう。
この動画で、「プーチンは、民によりそって質素な暮らしをしている」という神話は完全に破壊されました。正直言うと、プーチンがウクライナに侵攻する遠因になった気もします。プーチンは、第2次チェチェン戦争、ロシアーグルジア戦争、シリア内戦介入、クリミア併合、ウクライナ内戦介入などなど、戦争によって高支持率を維持してきたからです。
ナワリヌイは、プーチンにとって「ほんまもんの脅威」なので2021年1月に逮捕され、今も牢屋にいます。ちなみにナワリヌイは2018年の大統領選挙に立候補する予定でした。しかし、中央選挙管理委員会に出馬を拒否されています。
プーチンが投票前に排除した「潜在的ライバル」
「有力な対抗馬は、事前に排除する」
今回も同じことが起こりました。ボリス・ナジェージュジン(60歳)は、1999年から2003年まで下院議員でした。リベラル系ですが、ロシア人的には「顔は見たことあるけど、何している人か知らない」といった感じの人です。
クレムリンとしては、「ロシアにも民主主義があることを宣伝するために、反戦候補も一人出しておこう」ということだったのでしょう。
ところが、海外にいる「反プーチン派」が結束してナジェージュジン支持を表明した。その結果、意外なことにナジェージュジンは、大人気になってしまったのです。そして、予想通りというか、中央選挙管理委員会が、彼の出馬を拒否しました。参考動画。
● 「変化を求める数千万人の国民の存在をどうするのか」 ロシア大統領選“反戦候補”の出馬認めず 署名に「不備」で|TBS NEWS DIG
プーチンは、投票前に潜在的ライバルを排除したのです。
というわけで、ロシアの選挙は、台湾やアメリカ、あるいは日本と違い、最初から結果がわかっています。だから私はロシアの制度のことを【 なんちゃって民主主義 】と呼んでいるのです。
大統領がいて、首相がいて、上院、下院がある。選挙も定期的に行われる。しかし、最初から結果が決まっているので、【 なんちゃって民主主義 】なのです。
なんちゃって民主主義だと、支配層がやり放題になり、腐敗がものすごいことになります。
日本の自民党もずいぶん腐敗しているようですが、それでも野党、マスコミ、国民に追及されてピンチに陥っています。ロシアの場合、追及したら逮捕されてしまう。日本の民主主義は、「まだマシ」と言えるでしょう。
ところで皆さんが支持している政党は、「ロシア型」ではないですか?是非熟考してみてください。
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