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トランプの「顔を立てるため」に切り捨てられる台湾。米中が関税協議の席に着く裏で進みかねぬ最悪シナリオ

今月10日から2日間、スイスで貿易問題について会談を行うこととなったアメリカと中国。「トランプ関税」を巡る両国高官の初協議となりますが、識者は米中貿易戦争の行方をどう見ているのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、この問題について中国が何を基準にどのような判断を下そうとしているのかを考察。その上で、習近平政権が長期戦を覚悟する目的を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:米中関税戦争、中国が長期戦で目指す本当の狙い

中国はなぜ「長期戦」を目指すのか。米中関税戦争の行方

「(関税問題で)中国側は我々と話したがっている。近いうちに(両国間で)協議は行われるだろう」(マルコ・ルビオ米国務長官 5月1日のFOXニュース出演で)

「アメリカ側が最近、関係ルートを通じて交渉を求めるメッセージを何度も伝えてきた。(中略)戦うならとことん付き合う。ただし交渉するなら扉は常に開かれている」(中国外交部報道官)

トランプ政権が相互関税を発表し、株価や債券市場が混乱するなか、世界は米中の動向を固唾を飲んで見守ってきた。2大国はこれまで協議をめぐり、互いに矛盾する情報を発信し続けてきた。

ドナルド・トランプ大統領は「毎日中国側と協議している」と語り、会見中に「今朝も(中国から)電話があった」と述べて、記者たちを驚かせたこともあった。

だが、いずれも中国側が接触を否定。逆にそうした情報を「フェイクニュース」と切り捨ててきた。中国は、両国間の反目を隠そうともしなかった。

そんななか発せられたルビオの発言は、米中が話し合う舞台が整いつつあることを予感させた。

接触を否定してきた中国も、今回は「(アメリカからの協議の提案)の評価を進めている」(新華社北京 5月2日)と、従来とは違った反応を示している。

ルビオ発言のように「中国が望んだ」か否かはさておき、トランプ政権側には中国との対話を求める動機があった。

4月23日には、首都ワシントンで行われた国際金融協会(IIF)で講演したスコット・ベッセント財務長官が、対中強硬一辺倒だった過去の姿勢を修正、関与に言及した。

それ以前にもベッセントは「関税を巡る中国との対立は米中にとって持続不可能で、緊張緩和の道筋を見つけなければならない」と語っている。かつて「同盟国と貿易協定を結び、その基盤を築いてから、中国に対して不均衡な貿易構造を是正する」(4月9日 米銀行協会(ABA)と、まるで中国包囲網の構築が最終目的であるかのように語っていた4月上旬と比べれば大きな変化だ。

こうした動きが文字通りトランプ政権側の軟化なのか否かは判然としない。しかし、中国側が「評価する」と表明した以上、ボールは中国側に渡ったと見て間違いない。

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トランプ関税を警戒し準備を進めてきた中国の自信

では、中国は何を基準にどんな判断を下そうとしているのか。

それを考える意味で示唆的だったのは、4月16日の『ブルームバーグ・ニュース』の記事、「中国、協議に応じる用意─米国が敬意示し交渉責任者指名なら」である。

記事では「中国がトランプ政権との話し合いに応じる前提」として「(トランプ政権の高官が)無礼な発言を慎み、中国に対して敬意を示す」ことや、「アメリカがより一貫した立場を取ること」、また「制裁及び台湾に関する中国の懸念に対処する意思をアメリカが示す」ことも指摘されている。

一つ一つ見ていこう。

まず無礼な発言や敬意の不在については、J・D・バンス副大統領の「アメリカは中国の小作農から借金している」という発言が想起されるが、これに中国外交部報道官が、「無知で無礼」と強烈に反応したことは記憶に新しい。

中国軽視の姿勢は、習政権が「対等な立場で交渉のテーブルに」と繰り返し求めていることにも通じることだ。

次に「アメリカの一貫した立場」と「台湾問題」への配慮だ。

前者の「一貫した」は、要するに「一貫しない」アメリカの各政権への不満であり、実はバイデン政権時代から中国を悩ませてきた「言行不一致」の問題だ。

具体的には、中国の体制転換は求めないといいながら「自由主義VS専制主義」の戦いと中国を攻撃し、中国包囲網を形成しないといいながら「AUKUSやQUADで中国の国内問題に言及する」ことなどだ。

さらに「台湾問題」だ。

台湾独立勢力をアメリカが支援し、中国を挑発し続けていることへの習政権の不満は深い。いわゆる「台湾カード問題」だが、関税の協議の席に着く条件として、台湾でアメリカに譲歩を迫る可能性が高いという。

実際、トランプ政権の面子を保ちながら米中が交渉を行う裏側で、台湾が切り捨てられるというのは、考えられるシナリオだ。

だが、中国が解決しておきたい問題はこれだけではない。長期戦を覚悟する目的はおそらく、関税や制裁がルーズルーズしか生まないことを徹底的に思い知らせることだ。

以前、このメルマガでも触れたように、中国は早くからトランプ関税を警戒し、準備を進めてきた。そのため関税戦争では、中国が受けるダメージよりアメリカが被るダメージがはるかに大きいことを計算し、自信を持っている。

【関連】トランプ関税が中国の人民を本気で怒らせ団結させる。米大統領の“オウンゴール”が習近平政権に吹かせた最大の追い風

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中国が予見する“第2、第3のトランプ”の出現

そもそもベッセントが言及したように、「米中が互いに高関税を賦課する現状は持続可能ではない」のだ。

中国はそうした現実をアメリカ国民が広く実感するまで、耐え抜こうとしているのかもしれない。

その理由は簡単だ。

単に相殺関税が解消されても、アメリカ国民が広く米中対立のデメリットに気が付かなければ、第二、第三のトランプが今後も現れ、無駄な米中対立が繰り返されると中国は見ているのだ。

実際、訪欧したJ・D・バンス副大統領は、トランプよりも強硬な姿勢で欧州を突き放した。バンスらの世代の政治家を支えるブレーンたちの考え方にも、対外強行の傾向が顕著だとされる。

つまり、いま多少の返り血を浴びたとしても、彼らにルーズルーズを学ばせること方がはるかに重要だと中国は考えているのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年5月4日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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image by: miss.cabul / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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