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冬季オリンピック開催地のなかで最も“悲劇に満ち足りた”場所。サラエボという「喜」と「悲」の舞台

過去の五輪開催地の中には、競技の熱狂とは対照的に、深い悲劇と暴力の記憶を抱え続けている場所もあります。メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは、ミラノ・コルティナの祝祭と、サラエボに刻まれた記憶を対比させながら、五輪が映し出す歓喜と悲嘆の両義性について思いをはせています。

冬季オリンピックの歓喜と悲嘆、コルティナとサラエボ

イタリアで行われたミラノ・コルティナ冬季五輪が閉幕した。

アスリートのパフォーマンスに感動すると同時に、その健闘や演技を称え合う競技者の姿が印象的だった。

それは現場を映し出すカメラがアスリートに近づき、緊張する面持ちや競技後の弛緩する表情が協議をめぐるドラマを演出してくれたようにも思う。

五輪期間中、インドに滞在していた私にはインドのメディアを通じて得られた情報は1つもなかった。

インドのスポーツニュースは冬季五輪には無関心で、クリケットの話題ばかりやっていたから、五輪情報は日本経由のネットでのニュースに頼るしかなかったが。

結果として、日本選手団は金5、銀7、銅12のメダル計24個を獲得し、高いレベルでの競技の観賞という楽しみも感動につながっており、それはメダルという期待と表裏にあるもので、アスリートには重圧にもなったことだろう。

冬季五輪の重圧を考える時に思い出すのが1984年のサラエボ冬季五輪だ。

1980年に社会主義国として初めての五輪開催となったモスクワ大会は、ソ連のアフガニスタン侵攻への抗議を名目として米国はじめ日本がボイコット。

サラエボ大会も社会主義国であるユーゴスラビア社会主義連邦共和国のサラエボで行われたものの、日本はじめ西側諸国も出場し、東西陣営が混ざり合う大会となった。

この大会はメディアの発達により、協議の模様も衛星中継され、日本でも注目も高まり、特に男子スピードスケートの黒岩彰選手への日本人初の同種目でのメダル獲得にマスメディアの報道は集中した。

結果、黒岩選手はメダルに届かず、「失速」という言葉がメディアに踊った。

テレビの前で期待を胸に競技を見ていた私も失望したのを覚えている。

黒岩選手はその後、メディアに追い回されるストレスを語っているが、この出来事は五輪報道における事例としても刻まれている。

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メディアによってもたらされたサラエボ冬季五輪の記憶は、その後のユーゴスラビアの解体と内戦、殺戮、虐殺というおぞましい言葉と共に、遠い過去へと消え去ってしまったように儚い夢物語に思えてくる。

五輪開催当時、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国は6つの構成共和国で構成されたが、現在はスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、北マケドニアにそれぞれ独立している。

この過程での内戦に伴う悲劇は数えきれないが、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でのサラエボ包囲は、近代の戦争において最も長期にわたる都市包囲とされる。

盆地に位置するサラエボは周囲の山から、セルビア人勢力(スルプスカ共和国)のスルプスカ共和国軍 (VRS) と、ユーゴスラビア人民軍 (JNA) に包囲され、その期間は1992年4月5日から1996年2月29日まで続いた。

この間、市民は山からの銃撃にさらされ、無防備の人たちが路上で撃たれ、死んでいった。その数は12,000人、85%は一般市民だったとされる。

冬季五輪の開会式が行われたスタジアムは墓場となり、トラックには墓標がひしめくようにたてられている。

町の中心部は通ると丘から狙撃される「スナイパー通り」があり、市民は命がけで通勤した。

最近になって、このスナイパーの中には、セルビア人勢力の案内で高額なお金を払って人を狙撃するために招き入れられた外国からの観光客がいたことも、調査によって伝えられた。

五輪開催地でこれほどまでに悲劇に満ち足りた場所はない。

ミラノ・コルティナの眩さに目を細めながら、サラエボの現実に目を向けてみる。

その記憶は同じく地続きのウクライナでの戦闘も想像させる。

今、私がちょうどサラエボに向かっている往路にあることが、こんな思いをさせているのは言うまでもない。

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image by: Shutterstock.com

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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