ウクライナ、ガザ、そしてイランの地でと、複数の戦争が同時に進行する国際社会。ことイラン戦争においては一度は合意されたかに見えた停戦も崩れつつあり、事態はむしろ不透明さを増しています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、これらの戦争の長期化と停戦交渉の脆弱性を鑑みつつ、その背後にある大国の誤算と戦略的思惑を分析。さらに現在進行系の戦争が新たな戦争を呼び込むという「世界大戦ドミノ」の危険性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:戦争は終わるのか?それとも戦争の連鎖が世界大戦を生むのか?
いくつもの戦争が同時進行する異常事態。“3大国の2つ”が戦時体制に置かれる国際社会の危機
複数の戦争が起きている毎日が日常化し、トランプ大統領の一言で株価が乱高下する日常にすっかり慣れてしまった私たち。
戦争当事国の国民を除けば、恐らくその他の大多数の私たちは、戦争がどこかで起きている日常を過ごしつつも、戦争の勃発当時よりは深刻に感じなくなってきているのではないでしょうか。
2022年2月24日に、ロシアによるウクライナ侵攻から始まったウクライナ戦争。
2023年10月7日から続くガザ地区における悲劇。
2026年2月28日にスタートした米とイスラエル、そしてイランの間での攻撃の応酬。
ガザにおける悲劇の連続はともかく、ウクライナ戦争とイラン情勢を受けて、私たちの日常生活の“当たり前”が脅かされると、「大変だ!」と騒ぎ立て、多くの傍論が飛び交うのですが、「世界が滅亡するのではないか?」とか「第3次世界大戦勃発前夜」といったように恐怖を掻き立てる声が聞かれるほどには、まだ世界は荒れていないと思われます(私が煽っている方であれば、申し訳ございません)。
どちらかというと、非常に皮肉な言い方になってしまいますが、トランプ大統領のシンプルかつ極端な、そして思い付きとも思われる発言や発信が作り出す混乱を、まるで私たちはショーを見るかのように楽しんでいるようにさえ、見えてしまいます。
ただ、私たちが見聞きしている“現実”は、実際にはどの程度“本当に起きていること”を伝えているでしょうか?(ゆえに、私のメルマガの内容も「ほんまかいな」と突っ込みながら読んでくださいね)
まず、最初に現状確認をしてみたいと思います。
一言で言うと、世界の三大国(米国、ロシア、中国)のうち、2つ(米国とロシア)が戦時体制に置かれている異常な事態です。もし、中国が台湾侵攻に踏み切ったり、他の場所で戦争に臨んだりするようなことになれば、3つの大国が同時に戦時体制に置かれるという状況になり得る危機的な状況です。
この3か国は軍事力を見れば圧倒的な力を誇りますが、軍事力が思うような結果をもたらしていないというジレンマに直面していることも事実です。
ロシアはウクライナ侵攻において、当初、数日あればキエフを陥落することができ、ウクライナ全土をロシアが支配するか、またはゼレンスキー大統領を失脚させて親ロ政権のウクライナを“ロシアの傀儡”としておくことができるという見立てをしていたようですが、結果は4年以上にわたる血生臭い膠着状態に陥っています。
軍事力ではウクライナに比べて優位に立っているとされ、かつ虎の子の核戦力もまだ温存していますが、戦争を遂行するにあたり、膨大な人的損失や経済的な犠牲を払っているにもかかわらず、領土獲得のペースは極めて遅く、当初立てた目的を何ら達成できていません。
アメリカでトランプ大統領が政権の座に就くと、彼の成果作りの材料として停戦協議の舞台が設定されましたが、大きな犠牲を払っているにもかかわらず、ロシア側には戦争を止めるモチベーションがなく、のらりくらりとトランプ大統領の要請をかわしつつ、ウクライナに対する攻撃の手を弱めることは無く、“いつかアメリカがウクライナを諦める”タイミングを待ち、ウクライナが孤立無援になって自ら(内的な要因で)崩壊することを待っているように見えます。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
「短期決戦で台湾制圧は可能」という楽観論を抑制する習近平
アメリカとイスラエルについては、2月28日に、まだ調停努力が進められる中で強行したイランへの全面的な攻撃の実施は、大きなショックを与えることになりましたが、当初狙ったようなイランの体制転換には繋がらず、次々と政治指導者を暗殺してみても、一向にイランの報復能力と意欲が削がれることなく、アラブ諸国に散らばるアメリカ軍部隊も、イスラエルも、イランからの報復の波状攻撃に晒され、大きな被害を受けています。
またイランがホルムズ海峡の封鎖という手段に打って出たことと、親米とされる周辺のアラブ諸国のエネルギー施設を破壊したことで(これらの破壊攻撃については、イスラエルによる仕業とされるものも多数あり、すべてをイランの責任にすることはできませんが)、世界経済に対する大きな打撃と懸念を与えたことで、その非難の矛先が巡り巡ってアメリカに向けられています。
アメリカはこの作戦において、イランの施設を破壊したとはいえ、イランに“エネルギー”という世界経済の潤滑油を人質として握られる“非対称戦術”を取られたことで、苦戦する羽目になっています。
4月8日にパキスタンの仲介で米とイランが2週間の戦闘停止に合意したと報じられ、かつイランが「2週間の停戦が守られる限りは、ホルムズ海峡の封鎖を解く」と発言したことを受け、世界の株価は上昇し、歓迎ムードが漂っていますが、4月10日にパキスタンの首都・イスラマバードで予定されている本格的な戦闘終結・停戦に向けた協議が果たして成功裏に終わるかは、非常に不透明な状況です。
ただ、アメリカとイランの主張にはまだ隔たりが多く、“レバノンに対するイスラエルの攻撃の停止”を合意に含むか否かについても、米・イスラエルとイランとの間の解釈・認識がズレていることからも分かるように、合意と恒久的な停戦の実現は、極めて困難だろうと、個人的には考えています。
米イラン間の停戦・戦闘停止合意については、また後程、触れたいと思います。
ではもう一つの大国・中国はどうでしょうか?
中国については、就任後、とりたてて目立った成果を挙げることが出来ていない習近平国家主席が、台湾(中華民国)を中国人民共和国に併合して大中華帝国を作り上げることを宿願に挙げているため、定期的に“いつ台湾への武力侵攻に踏み切るか”という問いが上がってきて、今年や来年あたりがXデーと言われているものの、米ロの失敗例を冷静に分析し、人民解放軍内に根強い「短期決戦で台湾を制圧できる」という楽観論を抑制して、今はウクライナ戦争とイラン情勢の行方を見守っているのが実情かと考えます。
ただ怖いのが、習近平国家主席が抱く個人的な宿願である“中華民族の偉大なる復興”を掲げて台湾侵攻を命じる場合ですが、これは失敗した暁には習近平国家主席の態勢は終焉し、恐らく人民解放軍が暴発して体制崩壊に向かうか、またはミサイル攻撃で台湾を壊滅させるという暴挙に出て1,000万人以上の虐殺を行って国際社会での威厳を失って孤立無援の状態になるか、というワーストシナリオしかありません。
ゆえに、中国は慎重にならざるを得ず、武力侵攻を控えて、“戦わずして勝つ”ハイブリッド戦争を行おうとするものと推測します。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
大国といえども「思うように戦いを進められない」という現実
三大国に共通する“現実”は、20世紀型の“電撃侵攻”と“短期戦”という方程式が通用せず、代わりに精密誘導ミサイルや安価の無人ドローンが戦場に投入され、ハードコアな戦争に加えて、サイバー攻撃やSNS、およびグローバルネットメディアによる世論形成、そしてそれを支える衛星および情報コミュニケーション技術を用いたリアルタイムでの情報共有と提供というソフトな戦争も加わったハイブリッド型の戦争が21世紀の特徴となる今、すべての戦争が長期的な消耗戦となり、かつ厭戦機運から起因する支持率低下という政治的なコストが増大するという図式になり、大国といえども思うように戦いを進め、欲望を現実のものにするのが困難になっていることでしょう。
どのような形であったとしても、仮に三大国が同時進行で戦争を遂行するような状態になれば、全世界を巻き込む戦争ドミノが生まれかねません。
中国に対しては在アジア米軍のみならず、日韓も参戦を余儀なくされるでしょうし、ロシアについては、もしNATOやEU諸国が積極的にウクライナ支援にコミットするか、または地上部隊の派遣を行った場合には、欧州全域を舞台にした大規模地上戦をはじめ、想像できないような地獄絵図が広がることになるかもしれません。
今のところ、その悲劇は起こっていませんが、そのトリガーとなりかねないのが、現在のイラン情勢を巡る刮目です。
4月8日にパキスタン政府の仲介の下、アメリカ、イスラエルとイランの間で2週間の戦闘停止が合意され、それを受けてイラン政府はホルムズ海峡の封鎖を解くことに合意しました。
4月10日に(アメリカ政府によると11日に)イスラマバードで本格的な協議を行うことで合意されたとのことですが、4月9日現在、すでに停戦・戦闘停止は有名無実化したようです。
その原因は、“戦闘合意”の中に【レバノンなどを含む戦闘停止】が含まれるか否かについての当事者間での認識の違いなのですが、「レバノンに関する合意をイランとした覚えはない」と主張するイスラエルは(米国の同意を受けて)、4月9日にレバノンへの大規模攻撃を加えたことで、イラン政府は「これは明らかな停戦合意違反だ」と反発し、ホルムズ海峡の封鎖をイラン政府が宣言する事態に発展しています。
停戦・戦闘停止合意については、多方面で解説がされていますので、敢えて深堀しませんが、私が大きく懸念しているのは、合意のベースとなった“イラン側が提示した10条件・項目”を巡る解釈のズレです。
このズレですが、2つのアングルがあります。1つは双方(アメリカとイスラエルvs.イラン)が互いに勝利宣言をしていますが、全く真逆の主張をしていることです。
例えば“ウラン濃縮継続の可否や濃縮ウランの引き渡し”については、イラン側は継続が認められたとしていますが、アメリカ側の発表では「濃縮ウランの引き渡しに合意」と主張されています。
他には“ホルムズ海峡の統治”については、イランは“イランによるホルムズ海峡の支配が認められた”としていますが、アメリカ側はホルムズ海峡の扱いについては詳細を語らず、ただ「ホルムズ海峡が解放される」とだけ述べています。
さらにはイランが“勝利”の一因として挙げているのが【地域内のすべての基地から米軍を撤収すること】が合意されたという主張ですが、これについてアメリカ政府は言及をしていません。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
すでに露見してきた「認識のずれ」からくる合意の崩壊
2つ目のズレは【10項目の内容】です。これについては、日本のメディアが伝えているアメリカと英国のメディアの解釈での10項目と、アルジャジーラなどのアラブ系メディアや、イランの国営放送が伝え、英BBCが英訳した10項目が異なるため、【10項目とは本当はどのような内容なのか?】が明らかでないところです。
これについては、パキスタン政府のコンタクト先にも確かめてみましたが、【10日、11日に協議が行われるにあたり、イランの10項目が具体的に何を指すのかは明かせないが、印象としては解釈が分かれるものであり、協議においてはそれぞれの定義と内容・詳細について話し合うものと理解している】とのことで、ズレが生じていることを暗に示していると考えます。
創造的な曖昧さ(Constructive Ambiguity)は紛争調停の場などではよく用いる手法でありますが、多くの場合、まずは【何をすべきか】を決め、そのための具体的な条件と合意内容の実施方法・時期などの詳細を協議で詰めていくというスタイルを取ります。
つまり、今回の“停戦・戦闘停止合意”においては、アメリカ・イラン双方とも戦闘終結・戦闘の停止を優先し、恒久的な停戦・解決に向けての諸条件についての交渉を後回しにしたということになります。
それはアメリカもイランも、この紛争の根本的な解決よりも、まずは両国内向けのメッセージと捉えることが出来ます。
アメリカの場合、何とかガソリン価格の高騰を押さえたいという、秋の中間選挙向けのニーズがあり、イランについては現体制を維持するための停戦(時間稼ぎのための停戦)を最優先したと考えられます。
ただ、トランプ大統領が今回の合意に対して【完全勝利宣言】を出した以上、米軍の早期撤退が行われることも意味し得ますが、それがこの合意の継続と効力発生を担保するものであるにも関わらず、その有無と可否については不透明です。
また一応、イスラエルも今回の合意の当事者で、同じく2週間の停戦には合意したものの、「この合意内容にレバノンは含まれない」と明言し、かつ「アメリカがイランの核の脅威を除去すると約束した」と述べるなど、すでに認識のずれからくる合意の崩壊が見えてきます。
実際にイスラエルは合意の次の日に、自国の主張を通しレバノンに対する攻撃を強め、イスラエルとレバノン南部との間に緩衝地を拡大しようとしていますが、「レバノンにおける停戦も合意の条件」と主張するイランはそれを“合意違反”として、ホルムズ海峡を再度武器として用いる宣言をおこなったというのが、現状です。
11日のイスラマバードでの本格協議(アメリカはバンス副大統領がヘッド)を前に、早くもこの合意の脆弱性が明らかになった格好ですが、仮に今回の停戦合意およびその内容を詰めるイスラマバードでの協議が不発に終わり、それを理由にアメリカとイスラエルが「文明が一夜で滅ぶ」ような攻撃をイランに対して行った場合には、トランプ大統領もネタニエフ首相もコントロールできない【筋書きのないドラマ】がスタートすることになりますが、本人たちがその危険性を理解しているかどうかは不明です。
そのような場合には、アメリカの中東介入は確実に泥沼化し、特にアメリカの地上軍が派遣されて地上戦が行われた場合には、イランの革命防衛隊の言葉を借りるのであれば、イランがアメリカ軍の墓場になることになるかもしれません。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
米国内でも激しさを増すトランプの前時代的な発言への非難
イスラエルについては、合意不発の暁には、それを口実にイランへの攻撃を正当化し、まさに待っていましたとばかりに、イラン攻撃を本格化し、イランによるテルアビブなどへの苛烈な攻撃の仕返しをすることになるでしょう。そしてそのような場合には、イランによる対イスラエル攻撃がレベルアップし、かつアラブの周辺諸国への攻撃(特に米軍基地周辺)が激化することが予想されますので、中東全体を巻き込んだ終わりのない戦争が繰り広げられることが懸念されます。
そのような最悪の事態を予想しているのでしょうか。イランのペゼシュキアン大統領は、アメリカからのさらなる攻撃を見据えて以下のように述べています。
「イラン国民がアメリカの不法な侵略に屈服することは絶対にない。国土がどんなに破壊されようとも、わが国民はより立派に祖国を再建してみせる。イランは数千年の歴史と豊かなペルシャ文化をもつ誇りある国。わが祖国は必ず見事に再建されるが、国際法を蹂躙して侵略を行った戦争国家のアメリカが失った信用は決して未来にわたり回復することは無いだろう」
この発言、宣言は、合意締結前にトランプ大統領が「イランを石器時代に戻してやる」と言い放ったことを受けてのものですが(ちなみにこの最悪な表現は、第2次世界大戦時に東京大空襲の実施や広島と長崎への原爆投下という非戦闘員の大量殺戮、つまりジェノサイドを強硬に主張し、その後、朝鮮戦争やキューバミサイル危機時に核兵器の使用を主張したカーティス・メイ氏の発言をパクったもの)、イランは今回の合意が、イスラエルの邪魔によってダメになりそうなことを受け、再度、トランプ発言を非難し、ペゼシュキアン大統領の声明を世界に向けて発信しています。
トランプ大統領の前時代的な発言に対し、アメリカ国内でも非難が激しさを増しており、ワシントンポストやニューヨークタイムズなどは「トランプはアメリカ史上、最悪の大統領として記憶されることになるだろう」とこき下ろし、さらには「彼はもはや自分が何をやってしまったかさえ、分からなくなっている」と非難していますが、アメリカの連邦議会でも憲法修正25条を適用してトランプ氏を罷免しなくてはならないという声が増えてきているようです(ちなみに、実際の発動には現政権内の閣僚からの要請が必要になりますが、罷免ラッシュが起きている今、関係悪化が囁かれる閣僚から声が上がる可能性が否定できない状況になってきました)。
余談ですが、これに対して欧州各国は、NATO脱退を仄めかし、あからさまに法の支配を否定するトランプ大統領に愛想を尽かせ、NATO終焉の場合に備えたシナリオを考えつつあるようですが、ロシアの脅威に晒される立場としてNATOの対ロ抑止力に勝る防衛体制を構築できるかは懐疑的と言わざるを得ません。
環大西洋の軍事同盟の消滅は、即座に欧州地域の安全保障の衰退を意味し、再び世界大戦が欧州発で勃発する危険性が高まることを意味しかねない状況ですが、そのことにアメリカは気づかず、恐らく欧州もまだそこまで深刻に捉えていない感じがしています。
正直なところ、現在の混沌とし、危機に溢れた国際情勢は【アメリカの外交・安全保障政策の大きな誤り】に起因すると考えますが、その元凶は何でしょうか?
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
「皆が中国を捨ててアメリカになびく」という大きな誤算
それはアメリカ政府内の強硬派の誤算ではないかと思います。
「年初の対ベネズエラ攻撃が思いのほか、成功裏に執り行われ、アメリカ軍側の犠牲をゼロに抑えられたことに照らし合わせて、イランに対する戦争によって、ベネズエラのケースで成功したように、台頭する中国を抑え込み、世界の力関係を再び米国有利に変える」ことを目論み、「石油の流れを握るアメリカの優位性が中国の脆弱性を浮き彫りにし、中国に傾いた国々を取り戻せる」と考え、さらには「アメリカの軍事的な優位性・優越の協調と共に、中国が(ベネズエラの時のように)友好国を救えないか、または救おうとしない姿勢が際立ち、皆が中国を捨ててアメリカになびく」という大きな誤算です。
実際のイラン情勢は、攻撃からすでに1か月以上が経過し、“完全に破壊した”はずのイランの軍事力がイスラエルおよび地域内に展開する米軍を脅かし、実際に大きな被害を与えたのみならず、ホルムズ海峡を掌握することで世界経済の流れを止めて、非軍事的な武器も活用して、イランに主導権を握らせてしまったと分析できるかと思います。
軍事力ではアメリカとイスラエルには及ばないものの、世界経済の喉を掴み、じりじりと締め上げていく術をもつことで、イランが情勢の主導権を握っています。
停戦については、あくまでも国内の疲弊への対応のための時間稼ぎであり、イランとしては今、生存のための戦争を止めるインセンティブはないため、停戦のための条件があからさまにアメリカとイスラエルに破られる場合には、レベルアップした攻撃を行うものと考えられます。
ロシアの苦悩を眺めつつ、今回のアメリカによるイランへの攻撃をみて「この戦争は明らかにアメリカの重大な過ちであり、アメリカの衰退を確証させるもの」と捉える中国は、自国の利益のためにも、イランを持ちこたえさせることに専念しているようです。
今回の停戦合意の背後に中国政府の影・影響力があったというトランプ大統領の発言がありましたが、それは5月の米中首脳会談に向けたジャブのみならず、中国をイランから引き剥がしたいとの意図が見えていますが、中国政府は停戦合意への関与については明言せず、あくまでも【敵が過ちを犯している時は、決して邪魔をするな。】というナポレオン・ボナパルトの言葉をモットーとして用い、今回のアメリカ主導のショーとは距離を置いています(中国はイラン問題解決のための仲介には関心があるようですが、他人のショーにゲスト出演する気はないようです)。
トランプ大統領によるイランへの固執ゆえに、世界における米軍のプレゼンスが偏り、そして同盟国を守るための部隊や装備も中東地域に集中投入される中、アメリカによる軍事的な抑止力が各地で低下しています。
アジアにおいては、それこそが中国にとっての利益であり、もしかしたらそれが習近平国家主席と人民解放軍に“よからぬこと”を考えさえることに繋がってしまうかもしれませんが、中国が、アメリカとロシアがそれぞれに戦時体制に入り、各地で終わりなき戦争に足止めを食らう中、台湾併合を強行するようなことになれば、大きな戦争がドミノ現象のように繋がり、それが核保有国をフルに巻き込んだ第三次世界大戦を勃発させることになってしまうのではないかと恐れています。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
戦争が連鎖的に終結する「奇跡のシナリオ」は始まるのか
このメルマガが皆さんに届く頃に、イラン情勢はどうなっているか?何らかのハレーションが起きているのか否か?私たちを取り巻く環境が一変したり、停戦の一報を受けて過熱した楽観を一気に冷まし、先行きに向けて非常に悲観的になったりしているのか?
または、懸念に反し、戦争たちが連鎖的に終結する奇跡のシナリオが始まるのか?
先行きの見えない国際情勢に翻弄されながら、何とか希望を見出そうとしています。
今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年4月10日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ
image by: Robert V Schwemmer / Shutterstock.com