偵察気球、自衛隊の対応は 撃墜可能も過去に例なく―武器使用にハードル、技術的問題も

2023.02.12
0
by 時事通信


仙台市上空を浮遊する気球状の物体=2020年6月17日、同市青葉区

仙台市上空を浮遊する気球状の物体=2020年6月17日、同市青葉区

 米軍の戦闘機が中国の偵察気球を撃墜して11日で1週間。国内上空でも近年、似た飛行物体の確認が相次ぐ。防衛省は「気球でも領空侵犯に当たり、必要な対処をする」と撃墜を含めた対応があり得るとの立場を取るが、武器使用のハードルの高さや技術的な問題から実際には難しいとの見方が多い。
 類似の飛行物体は2020年6月と21年9月、宮城県など東北地方で目撃された。浜田靖一防衛相は10日の定例会見で、昨年1月にも九州西方の公海上を飛行する所属不明の気球を、自衛隊の哨戒機が確認していたことを明らかにした。
 自衛隊法は領空侵犯した航空機などに対し、強制着陸や退去をさせるため必要な措置が取れると規定。緊急避難や正当防衛に該当する場合は武器使用も可能だ。航空自衛隊は同法に基づき、戦闘機の緊急発進(スクランブル)で警戒監視に当たっている。通常は領空外側の防空識別圏で進路変更を求め、従わず領空に侵入すれば警告射撃など強制的な措置を取るという流れで対応。相手が無人でも同様の手順という。
 スクランブル回数は21年度で1004回に上り、大半は中国やロシアの軍用機やドローンが対象だ。国際法上は気球も航空機に相当するが、気球に対するスクランブルの公表例はこれまでない。高度や速度からレーダーで判別できるため、脅威が少ないと判断していたとみられる。
 浜田防衛相は7日の定例会見で気球撃墜について聞かれ「可能で、必要なら実施する」と話した。ただ、過去に自衛隊が領空侵犯で対象を撃墜した例はなく、20年6月に今回と似た物体が確認された際、当時の河野太郎防衛相は「安全保障に影響はない」とし、自衛隊はレーダーで監視したが撃墜などの対応は取らなかった。
 現場からは対応の難しさを指摘する声が上がる。ある空自関係者は「気球は戦闘機の巡航高度よりかなり高い所を飛んでおり、速度差も大きい。対応には高度な技術や特別な装備が求められる」と話す。防衛省幹部は「気球に対して緊急避難や正当防衛が成立するのか。ハードルは高い」と指摘。「外交情勢にも左右される。政治的な判断が不可欠だ」と強調した。(2023/02/12-07:03)

print

人気のオススメ記事