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トランプ「中国とロシアは、米国の国益を損なう」宣言で再び窮地に

前回掲載の「中国は米国を経済侵略している。来日したトランプ元側近が衝撃発言」で、アメリカ国内の会社が安い賃金で人を大量に雇える中国に工場を建てるようになったことで雇用が奪われ、今や米中の立場が逆転したとの見方を示したトランプ大統領元側近のバノン氏。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際政治に詳しい北野幸伯さんは「さらなるアメリカの失態で、味方につけなければいけないロシアも中国と接近している」と警鐘を鳴らしています。

トランプの国家安全保障戦略はどうですか?

トランプさんは18日、「国家安全保障戦略」を発表しました。どんな内容だったのでしょうか?

トランプ氏「米国第一」の新安保戦略 中ロに強硬姿勢

12/19(火)6:16配信

 

【AFP=時事】米ドナルド・トランプ(Donald Trump)政権は18日、同政権初の「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」を発表した。中国とロシアを、米国の国益を損なうことを狙う「修正主義の大国」として強く非難する内容となっている。

中国とロシアは、「修正主義の大国」だそうです。アメリカから見ると、そうなるのでしょう。日本でも、アメリカがつくった「東京裁判史観」に内心反対している安倍さんは、「修正主義者」と呼ばれていました。

同戦略はトランプ政権の外交政策の指針となるもので、同氏が掲げてきた「米国第一」のスローガンに基づいて策定された。中国とロシアを世界における競争相手と位置づけ、「米国の権力、影響力、そして利益に挑み、米国の安全保障と繁栄をむしばもうとしている」と明言しており、中国の習近平(Xi Jinping)国家主席やロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領に対するトランプ氏の友好的な姿勢とは一線を画した内容だ。
(同上)

「米国の権力、影響力、そして利益に挑み、米国の安全保障と繁栄をむしばもうとしている」そうです。確かに、アメリカから見ると、その通りですね。この二国は、「アメリカ一極世界に反対し、「多極世界を目指しています。(とはいえ、中国は多極世界ではなく、「中国一極世界」を目指していると思いますが…。)

中国については、アジア地域での「米国の排除」を狙っていると非難。データを盗み出したり、「同国が持つ権威主義体制の特徴」を広めようとしたりしているなど、さまざまな苦言を呈している。
(同上)

中国はアメリカをアジアから排除」しようとしている。実に正しい現状認識です。

ロシアについては、同国が保有する核兵器は「米国存続に対する最も重大な脅威」だと明言。ロシア政府の狙いは「大国としての地位を回復し、国境付近での影響力が及ぶ領域を確保すること」にあると指摘している。
(同上)

ロシアの核はアメリカ最大の脅威だそうです。ロシアの核戦力は、アメリカに匹敵する。ですから、「そのとおり」でしょう。

勝てない国家安全保障戦略

この国家安全保障戦略ですが、「表向き」はこれでいいかもしれません。しかし、本気で、「これがアメリカの戦略だ」と考えているのなら、かなりヤバいです。なぜでしょうか?

この戦略は、要するに「中国とロシアはアメリカの敵だ!」ということでしょう。そう言われた中国とロシアは、どうするでしょうか? そう、「アメリカに敵視される者同士一体化していこう」となるでしょう。いくらアメリカとはいえ、中国とロシアを同時に敵にまわして勝てるはずありません

今よりずっとパワーがあった、戦後のアメリカ。それでも、1960年~70年代は、「ソ連に勝つのは難しい」と考えられていた。それでどうしたかというと、中国と組むことにした。1970年代初めの話です。

1991年末にソ連は崩壊しました。その後、しばらくアメリカ一極時代が続いた。しかし、08年以降、中国のパワーが強大になってきた。中国、いまではGDPでも軍事費でも世界2位になっています。

もしアメリカが中国に勝ちたいのなら、「ロシアと組むこと」「中ロを分裂させること」が必要です。しかし、「国家安全保障戦略」で、「中国も敵」「ロシアも敵」と宣言した。それで、中ロの仲はますます良くなるでしょう。

アメリカが、中ロを分断すべき理由

以前書きましたが、中国にも弱点はあります。そう、中国は、石油を主に中東から入れている。しかし、中東と中国を結ぶ海は、事実上アメリカの支配下にある。もし米中対立が激化すれば、アメリカは、中国が中東から石油を買えない状況をつくりだすことができる。

ところが、中国は、陸続きの大国ロシア、あるいは中央アジアから石油ガスを買うことができる。このルート、いくらアメリカでも、止めることはできません。だから、アメリカは中ロを分裂させなければならない。しかし実際は、逆に「中ロを一体化」させています。

戦略なきトランプ政権

さらに、実際のトランプさんの動きを見ていると、「全然戦略がないのだな」と思います。なぜ? アメリカ、現状最大の課題は北朝鮮でしょう?「いつ戦争が起きても不思議ではない」状態が続いている。それで、他の地域での問題は解決し、新たな問題は起こさず、パワーを東アジアに集結させる必要がある。

こんな状況で、トランプさんは、エルサレムをイスラエルの首都と認めた。これが原因で、中東戦争が起これば、アメリカはイスラエル側に立って戦うことになります。つまり、「東アジアで戦争」「中東でも戦争」???? こういうバカげた状況を引き起こしたのは、トランプさんの宣言。つまり「自業自得」。戦略がある人は、このようなことはしないでしょう。

実際、トランプ政権の運営は、かなり「行き当たりばったり」な感じがします。中国、ロシアは、はっきり敵。「パリ協定離脱」「イラン核合意見直し」「首都宣言」で、欧州と対立。「首都宣言」で、世界16億人のイスラム教徒を敵にまわしてしまった。イラク戦争が始まったのは03年。翌04年、ソロスは、こんなことを書いています。

アメリカがその地位を失うとすれば、自らの誤りによってだろう。ところが、アメリカは今まさに、そうした誤りを犯しているのである。
(「ブッシュへの宣戦布告」ジョージ・ソロス 2p)

つまり、ソロスは、「イラク戦争は誤りで、この戦争が原因で、アメリカは没落する」と予言した。そして、実際そうなりました。今、トランプさんはブッシュ(子)同様の過ちを犯しています。頼りないアメリカ。「日本に沖縄の領有権はない!」と宣言している中国に、どう対応すればいいのでしょうか?

image by: plavevski / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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