前回掲載の「身の危険は?ロシア大統領選でプーチンに反旗を翻す2人のクセ者」では、今回の選挙に立ったプーチン大統領以外の候補者について詳しくお伝えしましたが、大方の予想通り、結果は現職・プーチン氏の圧勝。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者でロシア在住の北野幸伯さんが、大統領4期目を迎えるプーチン氏がロシア国内、そして世界にもたらす影響について詳しく記しています。
プーチンが大統領選で勝利、4期目はどうなる???
ロシアで3月18日、大統領選挙が行われました。結果は、以下のとおり(モスクワ時間22時50分時点)。
1位:プーチン 74.43%
2位:グルディニン(ロシア共産党)13.84%
3位:ジリノフスキー(ロシア自民党)6.47%
4位:サプチャク(市民イニシアティブ)1.41%
ま、「すべての人の予想通り」ということなのですが。
ちなみに、「ロシア大統領選がらみ」で、これまで2本記事を書いています。
● 絶対権力者プーチンの再選が決して「楽勝」とは言えない理由
● 身の危険は?ロシア大統領選でプーチンに反旗を翻す2人のクセ者
今回は、ざっくり「プーチン4期目はどうなる?」を考えてみましょう。
これまでのプーチン
少しプーチンの過去を振り返ってみます。
1期目 2000年5月~04年5月
プーチンは1期目、90年代ロシアを牛耳っていた新興財閥の大物3人を征伐しました。
- ベレゾフスキー(クレムリンのゴッドファーザーと呼ばれた)
- グシンスキー(ロシアのメディア王)
- ホドルコフスキー(ロシアの石油王、ユコス元社長)
ベレゾフスキーは、イギリスに逃げ、グシンスキーは、イスラエルに逃げ、ホドルコフスキーは、シベリア送りになった。
1期目、プーチンは、早くもアメリカと対立しています。例えば、
- プーチンは、イラク戦争に反対
- ユコス事件(米エクソン・モービルとシェブロン・テキサコは、ロシアの石油最大手ユコスを買収しようとした。しかし、プーチンが介入し、これを阻止した)
- 03年、旧ソ連国グルジア(現ジョージア)で革命が起こり「親米反ロシア」のサアカシビリが大統領になる
- 04年、旧ソ連国ウクライナで革命が起こり、「親米反ロシア」のユーシェンコが大統領になる
2期目(04年5月~08年5月)
ロシア経済は、プーチンの1期2期、驚異的成長を果たしました、何と、年平均7%です。ロシアは、「イケイケ状態」になり、メドベージェフは、「ルーブルを世界通貨にする!!!」などと宣言していたものです。この好景気は、言うまでもなく「原油高」のおかげ(08年、原油はバレル140ドル台まで暴騰していた)。
プーチンは、2期目も引き続きアメリカと戦っていました。
- 05年、旧ソ連国キルギスで革命が起こる
- プーチンは、中国と共に「上海協力機構」(SCO)を強化することで、「反米一極世界崩壊」を画策する
- プーチンは、中国と組み、「ドル外し」の流れをつくる
2期目の終わり、ロシアでプーチンは、まさに「神のごとき存在」になっていました。
プーチン「首相」の時代(08年5月~12年5月)
08年5月、プーチンは、「1期4年」「連続2期まで」という憲法の規定に従い、引退(習近平とは違いますね…)。そして、メドベージェフが大統領になった。プーチンは、名目上のナンバー2である首相になりました。
08年8月、アメリカの傀儡国家グルジアとロシアの戦争があった。しかし、その後は「米ロ再起動時代」が始まり、両国関係は概して良好だったのです。ちなみに、メドは、憲法を改定。大統領任期は、4年から6年に延ばされています。
3期目(2012年5月~18年5月)
プーチンは、大統領に復帰すると、すぐアメリカとの戦いを再開しました。
- 2013年8月~9月、オバマのシリア(アサド)攻撃を阻止
- 2014年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ失脚
- 2014年3月、クリミア併合
- 2014年4月、ウクライナ内戦ぼっ発
ロシアは、ウクライナ東部「親ロシア派」を支援。ウクライナ新政府を支援する欧米と「代理戦争」になる。どうも「クリミア併合」は、欧米にとって、「越えてはならない一線」だったようです。これで、欧米日の「対ロシア制裁」が始まった。制裁は今も続き、ますます強化され、ロシアをじわじわ窒息死させようとしています。
2016年11月、「大いなる希望」が現れました。そう、アメリカ大統領選で「プーチン愛」を公言するトランプが勝った。ロシア政府も、ロシア国民も、「これで制裁は解除される!」とワクワクしたものです。
しかし、実際彼が大統領になると、「意外と大統領は何もできない」ことがわかってきた。トランプは、「親ロシア」「親プーチン」なのに、民主党、共和党の「反プーチン派」が強く、関係を改善することができない。それどころか、米ロ関係は、ますます悪化しています。最近も
- 米財務省、ロシア人ブラックリスト「クレムリン・レポート」を発表
- 米財務省、「米大統領選への介入」を理由に、24団体・個人に新たな制裁を発動
- トランプ、イギリスでロシア人元スパイ・スクリパリが殺された件で、「ロシアがやったのだろう」と発言
印象では、ロシアと欧米の関係は、「修復できないほど悪化している」ように見えます。それが原因で、ロシア経済は低迷しているのですね。
思い出してください。プーチンの1期目、2期目は年平均7%の成長だった。では、プーチン3期目は?
- 2012年:3.66%
- 2013年:1.79%
- 2014年:0.74%(この年、クリミア併合、対ロ制裁発動)
- 2015年:-2.83%
- 2016年:-0.23%
- 2017年:1.8%(原油価格は30ドル台から60ドル台に回復)
ドルベースの名目GDPを見ると、さら驚愕です。プーチンが大統領に返り咲いた2012年=2兆2102億ドル。2017年=1兆4693億ドル。約34%減少(!)しています。私がしばしば、「制裁で、ロシア経済はボロボロになった」と書く理由がわかることでしょう。
というわけで、プーチン4期目は、「苦難の船出」になります。「欧米と和解して、制裁を解除してもらうこと」が国の発展には不可欠。しかし、「クリミア併合」は、「プーチンの歴史的偉業」になっているので、絶対返せない。結局プーチンは、「クリミアを返還せずに、制裁を解除してもらう」という「神業」を成し遂げなければならない。
しかし、逆に「俺たちは何も悪いことをしていないのに、不当な制裁を続ける欧米が悪い!」という、ロジックを強化しながら進んでいく可能性が強い。世界は、ますます不安定化していきます。
image by: Free Wind 2014 / Shutterstock.com