MAG2 NEWS MENU

金正恩はなぜ、これほどわかりやすく手のひらを返したのか?

4月27日、板門店で行われた南北首脳会談。朝鮮戦争の年内終戦、朝鮮半島の非核化推進合意などまさに歴史的な会談となりましたが、懐疑的なスタンスを取るのは無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんはこれまでの北朝鮮の歴代指導者が行なってきた外交手段を分析した上で「金正恩委員長は容易には核放棄に応じない」との見方を示しています。

南北首脳会談、金正恩の戦略は?

皆さんご存知のように、4月27日、南北首脳会談が行われました。全世界が注目する歴史的会談だったといえるでしょう。

「冷麺を持ってきた」
「南北境界線を、両首脳が手をつないで往復した」

などなど、細かいところは皆さん、テレビでご覧になったことと思います。そこで今回は、金正恩の戦略今後の動きについて考えてみましょう。

金正恩の戦略は、祖父、父と同じ

去年1年、核兵器実験とICBM実験を繰り返し、世界を恐怖させていた金正恩。今年になって一転、「対話路線」「平和路線に転換しました。彼は、何を狙っているのでしょうか?

これ、彼の祖父・金日成、父・金正日の成功(?)例を見ればわかります。1994年6月、北朝鮮は国際原子力機関(IAEA)からの脱退を宣言しました。同年10月、アメリカと北は、「枠組み合意」を締結。内容は、

でした。しかし、北朝鮮は、米朝合意後も、着々と核開発をつづけたのです。

2003年1月、北は、再度NPTからの脱退を宣言。米朝合意は、破棄されました。同年8月、六か国協議開始。2005年2月、北「核兵器保有を宣言。同年6月、金正日、「北朝鮮には、核兵器を持つ理由がない」と「非核化の意思」を示す。同年9月、北朝鮮が「核放棄」を約束する、「六か国共同宣言」が採択される。

ところがその後どうなったか、私たちは知っています。これらの経験から、何がわかるでしょうか?

こう考えると、金正恩の戦略は、規模が大きくなっているものの、金日成、金正日と変わらないことがわかります。彼の戦略は、

・核実験、ICBM実験によって脅威を高める
・一転、「対話路線」に転し、「非核化宣言」もする
・「非核化」を条件に、「制裁を解除させる」「経済支援を受け取る」

ことだとわかります。もちろん、「本当に非核化する意志」などないのでしょう。

それでも米韓は、「対話」せざるを得ない

では、米韓は、北と対話するべきではないのでしょうか? これは、「せざるを得ない」のですね。なぜ? 北朝鮮問題については、

にわかれていました。中ロは、「前提条件なしの対話」を求め、日米韓は、「前提条件あり=非核化前提の対話」を求めていた。そして、金正恩は、「非核化前提の対話に応じる」といった。彼は、「圧力派」の要求をのんだので、対話するしかないのです。

日本では、「だまされるから対話するな!」という意見が強い。これまでの経緯をみれば、理解できます。しかし、「非核化前提の対話に応じろ!」と圧力を強化して、むこうが「わかりました。応じます」ときた。それで対話に応じないのは、論理的ではありません。

日本の理屈は、論理的でないので日本は孤立し蚊帳の外に置かれたのです。

北朝鮮問題のこれから

では、北朝鮮問題は、これからどうなるのでしょうか?

各国の思惑を見てみましょう。この問題に関わっているのは、日本、アメリカ、韓国、中国、ロシア、北朝鮮です。そして6か国すべてが、「朝鮮半島の非核化をのぞむ」としている。しかし、温度差があります

日本アメリカ韓国は、「北朝鮮に核攻撃されるかもしれないから」反対している。切実です。しかし韓国は、「金正恩と仲よくすることで戦争を回避すること」を第一に考えている。だから、「金正恩のいいなり」になる可能性が強い。トランプは、歴史的「米朝会談」で「核放棄を実現する」決意を示しています。

一方、金正恩は、「核兵器を破棄すれば、フセインやカダフィのように殺される」と確信しているでしょうから、容易に応じないでしょう。「段階的な非核化」などを主張し、見返りに「制裁緩和」「経済支援を求めてくると思われます。

日本の今後の役割は、「非核化が実現するまで、制裁を解除したり、経済支援をしてはいけない」とアメリカを説得することです。これに関して二つの注意点は、

この二番目は何でしょうか? 世界中のメディアを見ていると、どこでも今回の「南北会談」「大歓迎!」なのです。ですから、日本だけ大声で「だまされるな!」と騒げば、「国際的 KY国のレッテルを貼られてしまいます。「日本は、『非核化前提』の対話を歓迎します!」といい、トランプには、「過去のこんな例もありますから、十分気をつけてください」というのです。

中国、ロシアはどう動くのでしょうか? この二国も、一応北朝鮮の核に反対しています。しかし、「攻撃される可能性がある」日米韓とは、切実度が全然違います。中ロは、両国を「合法的核保有国」と認めているNPT体制が崩壊することを恐れている。北朝鮮がOKとなれば、日本や韓国が核保有国になるのを止めるのが難しくなります。

もう一つは、戦争になって「緩衝国家北朝鮮が消滅することを恐れている。「緩衝国家」というのは、両国の主敵アメリカに対する「緩衝国家」という意味です。

というわけで、中ロは、「北朝鮮を守るために行動すると予想されます。具体的には、「北が歩みよってきたのだから、制裁を緩めよう!」という運動を開始する。

日本は、アメリカ経由でこの動きを封じる必要があります。「トランプさん、また北にだまされて、ピエロになりますか?」と。負けず嫌いのトランプさんは、「俺は絶対ピエロにはならない!」ということでしょう。

 

北野幸伯この著者の記事一覧

日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝のメルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。まぐまぐ殿堂入り!まぐまぐ大賞2015年・総合大賞一位の実力!

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ロシア政治経済ジャーナル 』

【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け