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金正恩の憂鬱。トランプの逆鱗に触れた「北朝鮮外交」の行く末

5月24日、予定されていた史上初の米朝首脳会談の「中止」を発表するもその翌日、「6月12日の開催もあり得る」と発言したトランプ大統領。北朝鮮は、「これまでのような脅しが通用する人物ではない」と見たのか異例の反応を示すなど、自国のお株を奪うトランプ氏の「瀬戸際外交」に翻弄されているようです。果たして首脳会談は実現するのでしょうか。そして金正恩委員長にはどのような決断が必要なのでしょうか。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者でロシア在住の国際関係ジャーナリスト・北野幸伯さんが分析します。

トランプ、「やっぱり米朝首脳会談やります!」なぜ??

先日、「6月12日の米朝首脳会談やめます!」と宣言し、世界を仰天させたトランプさん。今度は、「やっぱり6月12日に首脳会談します!」と宣言し、また世界の民を卒倒させました。なんか、トランプさんに振り回されていますね。どういう経緯でそういう話になったのでしょうか?

これ、そもそも北朝鮮が「中止する!」といっていたのですね。BBC NEWS 5月24日を見てみましょう。

北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は24日、マイク・ペンス米副大統領の言動を「愚か」と非難し、外交が失敗した場合には「核による最終決戦」の可能性を警告した。崔氏は、北朝鮮政府は米国に対話してほしいと「お願い」などしないし、会談に出席するよう説得もしないと述べた。米国と北朝鮮は両国ともここ数日、6月12日に予定されている米朝首脳会談が延期、あるいは中止となる可能性があると警告している。

北は、「別に会談しなくたっていいんだぜ!」という態度。そして、「核で最終決戦したっていいんだぜ!」と。なんで、北はキレまくっていたか? そう、ペンスさんが、「リビア方式に言及したから。

100万回書いているので、詳述しませんが。リビアのカダフィ大佐は、03年に核開発を止めた。そして11年、アメリカが支援する反体制派に殺された。北のイメージする「リビア方式」とは、「武装解除させて殺す」です。それで反発した。

そして、今度は、トランプさんが激怒。理由は、北高官の過激発言だけではないみたいです。AFP=時事5月25日、首脳会談中止宣言の理由は、「北朝鮮が不誠実だから」としています。

高官は北朝鮮側がシンガポールで行われる予定だった米国側との準備会合を無断欠席したことに言及し、「信義誠実の深刻な欠如」と指摘した。「米国側はひたすら待ったが北朝鮮側は姿を現さなかった。北朝鮮側は連絡すらよこさず、われわれに待ちぼうけを食らわせたのだ」

なるほど~。これは、ムカつきますね。

ホワイトハウスは北朝鮮の米韓合同軍事演習に対する抗議と、南北閣僚級会談を突然中止したことも、北朝鮮が米朝首脳会談に向けて約束したことの違反とみなしている。
(同上)

そういえば、北は以前、米韓軍事演習に理解を示していました。

高官は北朝鮮が核実験場の廃棄への国際監視団の立ち会いを認めなかったことで、さらに信頼が損なわれたと指摘している。「(国際監視団を立ち会わせる)約束はほごにされた。代わりに記者団が招待されたが、(核実験場の廃棄が)完了したという科学的証拠は大して得られなかった」「(核実験場の廃棄が)事実であれば良いが、真相は分からない」
(同上)

う~む。これは、結構決定的かもしれません。本気で核実験場を廃棄するなら、監視団がきてもまったく問題ないはずです。そんなこんなで、トランプさんは5月24日、「米朝首脳会談中止!」を宣言した。

なぜトランプは、考え直したの???

トランプは、「中止宣言」の中で、はっきりと北を脅しました

あなたは自分の核能力の話をしますが、我々のはあまりに巨大で強力なので、決して使わずに済むよう私は神に祈ります。

脅したうえで、逃げ道を用意します。

この首脳会談について、もし考えが変わるようでしたら、ぜひ遠慮なく私に電話するなり手紙を書くなりしてください。

この書簡を見た金さんは、どう思ったでしょうか?

「ヤバ! トランプ、マジで怒ってるよ…。戦争になったら100%殺される!

というわけで、北は急いで関係修復に乗り出しました。金桂寛(キムゲグァン)第1外務次官は25日、談話を出します。一部抜粋。

歴史的な朝米首脳対面について言うなら、我々はトランプ大統領が過去のどの大統領も下せなかった勇断を下して首脳対面という重大な出来事をもたらすために努力したことを依然として内心高く評価してきた。ところが、突然、一方的に会談の取り消しを発表したのは、我々としては予想外なことであり、極めて遺憾に思わざるを得ない。

「トランプ式」が双方の懸念を共に解消し、我々の要求条件にも合致し、問題解決の実質的な作用をする賢明な方案になることをひそかに期待したりもした。我々の国務委員長(金正恩〈キムジョンウン〉朝鮮労働党委員長)も、トランプ大統領と会えば良いスタートを切ることができると述べ、そのための準備に全力を傾けてきた。

我々は、いつでも、いかなる方式であれ対座して問題を解決する用意があることを米国側に改めて明らかにする。

数日前まで、「核による最終決戦を警告してきた国とは思えない談話ですね。これを受けてトランプは25日(=中止発表の翌日)、「6月12日の開催もあり得る」と発言しました。

翌26日、電撃的に2回目の南北首脳会談が開催されました。AFP=時事5月27日。

【AFP=時事】韓国の文在寅(ムン・ジェイン、Moon Jae-in)大統領は26日、北朝鮮との軍事境界線にある板門店(Panmunjom)で、同国の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong Un)朝鮮労働党委員長と2回目の首脳会談を行った。ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領と金委員長による歴史的会談の実現を目指す動き。

この会談で金は、

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と26日に急きょ行った南北首脳会談で、米朝首脳会談をシンガポールで予定通りに実現することについて、確固たる意思を示した。

これで、当初の予定通り、6月12日に首脳会談が行われる可能性がでてきました。

トランプの脅しがきいた

北はこれまで、うまく世界を欺いてきました。94年、「核開発をやめる!」と宣言した。2005年、「核兵器をすべて放棄する!」と宣言した。そして、経済援助を受けながら、核兵器の数をちゃっかり増やしつづけてきた。

しかし、こういうウソがうまくいったのは、「アメリカ側の事情も大きかった。90年代、北にはまだ核兵器がなかった。2000年代、ブッシュ政権は、アフガン、イラク戦争で忙しかった。09年にはじまったオバマ政権は、まず「100年に1度の大不況克服」で忙しかった。その後は、シリア問題、ウクライナーロシア問題、IS問題などで忙しかった。

トランプの時代になって、北の異常なペースの核実験、ミサイル実験で、ようやくアメリカは、真剣に北と向き合うようになった。そして、安倍さんやボルトンさんのアドバイスで、トランプは、「クリントンやブッシュのようにだまされないぞ!」と固く決意しているようです。

金は今回の一件で、「トランプに脅しは通用しない」ことを思い知ったでしょう。彼はどうするのでしょうか? とても難しい局面です。

何度も書いていますが、世界にとって一番いいのは、「核兵器放棄」「体制保証」、その後に制裁解除」です。しかしトランプはこれまで、「TPP離脱」「パリ協定離脱」「イラン核合意離脱」などで、合意を遠慮なく破ってきました。トランプにいわせると、「オバマがやったこと」ということなのでしょうが。そういうことであれば、トランプが北とディールすれば、金、トランプ時代は生きるかもしれない。

しかし、「次のアメリカ大統領は変心するのではないか?」という恐怖もある。

「トランプは、俺をだますのではないか?」
「次の大統領は、俺を殺すのではないか?」

こういう疑念は、決して消えることはないでしょう。もちろん、アメリカはアメリカで、「北はまた俺たちをだますのではないか?」と疑っているわけですが…。

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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