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断たれたのは金正恩の逃げ道。米朝会談は「トランプ大勝利」で確定

署名された共同声明に何の具体性もなく、「北朝鮮の勝利」との報道も目立つ米朝首脳会談。しかし、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは「トランプ大勝利」と言って憚りません。その論拠はどこにあるのでしょうか。北野さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』に、そう判断するに至った理由を記しています。

なぜ米朝会談は、【トランプ大勝利】なのか???

米朝首脳会談について、ダイヤモンドオンラインさんに記事を書きました。

米朝首脳会談、「具体性なし」でも評価すべき理由

この記事で私は、「米朝首脳会談大成功」と書いたのです。そしたら、たくさんの読者さんからメールが届きました。多くの内容は、「北野さん、皆『大失敗』だったといってますよ。成功したという北野さんは、『超少数派』です!」というもの。

私はしばらく、「まあ、失敗したか、成功したかなんて、ある面『主観的問題』だしな」と思い、コメントしないでいました。

「主観的」とは、どういうことでしょうか? この件については、「客観的」つまり「事実」があります。トランプと金が、12日にシンガポールであった。共同声明に署名した。そこには、4つの項目が記されていた。これらは、「客観的事実」です。

一方、これらの事実を、「どう解釈するか」は、「主観的問題」です。実際、トランプや金は、「大成功だった」といい、世界の多くのマスコミは、「大失敗だった」といっている。もちろん「大失敗だった」というには、それなりの根拠がある。それでも「解釈なので、「主観的」なのです。

というわけで、私は「解釈は人それぞれでいい」と思い、しばらく無視していました。ところが、あまりにもたくさんメールが届くので、一応コメントすることにしました。

何が問題なのか?

基本から考えます。北朝鮮核問題は、何が問題なのでしょうか? 北朝鮮が核兵器を保有していることです。なぜ、それが問題?

一つは、北朝鮮が「世界秩序を破壊している」ことです。核拡散防止条約(NPT)によると、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアが核兵器を保有するのは、「合法」とされている。その他の国が保有するのは、「違法」とされている。メチャクチャ不平等な条約ですが、そう決まっています。

しかし、NPTを無視して、核を保有している国もあります。インド、パキスタン、イスラエル。この3国は、「NPTは不平等な条約だ」と主張し、NPTに加盟していない。イスラエルについては、自国が核を保有しているか「否定も肯定もしない」「でも全世界の人が、イスラエルは核兵器をもっていると知っている」という変な立場にあります。

北朝鮮は、唯一「NPT加盟国でありながら03年に脱退して核保有国になった」国。日本にも「核武装論者」がいますね。日本がそれを決意すると、「NPTを脱退して」ということになる。つまり、「北朝鮮と同じ道を行け!」ということになります。北朝鮮核、一つ目の問題は、「世界秩序を破壊している」でした。

二番目の問題は、もっと重要。北朝鮮が、日本、アメリカ、韓国を「核ミサイルで攻撃するかもしれない」。これ、ホント切実ですね。とはいえ、アメリカ、つい最近まで、北朝鮮を事実上放置してきた。

クリントン時代、北には核兵器がなかった。ブッシュ(子)時代、北は核保有を実現した。しかし、ブッシュは、アフガン、イラク戦争で忙しかった。オバマ時代、1期目は「100年に1度の大不況」で忙しかった。二期目は、シリア、ウクライナ、ロシア問題などで忙しかった。つまり、クリントン、ブッシュ(子)、オバマは、それぞれの理由で、北朝鮮問題を放置してきた

では、トランプになって、なぜ北問題が「最重要課題」になったのでしょうか? 皆さんご存知ですね。「北がICBMを完成させ、アメリカ本土を核攻撃できるようになったから」です。少なくとも、北はそう主張しています。アメリカ国防総省は、「まだ無理だが、後1年以内にできるようになる」としています。つまり、北核問題が、「自国の安保問題」になったので、トランプさんが、マジになった。

トランプ、金の狙い

17年は、ホント大変でした。私を含め、たくさんの人が、「米朝戦争あり得るよね」と考えていた。その理由は、北が、核実験、ミサイル実験を、狂ったようにくりかえしていたから。ところが、18年になると、金は180度立場を変えます。なぜ? 実をいうと、金正恩がやっていることは、父・金正日と同じなのです。

脅威を煽り支援を引き出し核はちゃっかり保有する」(金正日方式)

1994年、北朝鮮は「核開発凍結」を確約し、見返りに軽水炉、食料、毎年50万トンの重油を受け取りました。しかし、彼らは密かに核開発を継続していた。2005年9月、金正日は、「6ヵ国共同宣言」で「核兵器放棄」を宣言した。しかし、現状を見れば、それもウソだったことは明らかです。

それで、日本もアメリカも、「金はウソをついている」と警戒する。当然です。

一方、金は金で、アメリカを信用できない。フセインは、大量破壊兵器を持たず、アルカイダを支援していなかった。しかし、アメリカは、イチャモンをつけ彼を殺しました。リビアのカダフィは、03年核開発をやめた。そして、欧米との関係が一時よくなった。制裁は解除され、「テロ支援国家リスト」からも外された。しかし2011年、カダフィは、アメリカと欧州が支援する「反体制派」に捕まり殺されています。

この二人から金が得た教訓は、

「核を持たない反米指導者は殺される」(フセイン)
「核開発を止めた反米指導者は、だまされ殺される」(カダフィ)

というわけで、金がアメリカを信用しない根拠はある。要するに、お互い信頼できないわけです。

CVIDってそんなに大事なの?

基本と背景を抑えたので、今回の会談内容に移ります。「失敗だ!」と主張する人の主な根拠は、「共同声明に、『CVIDの文字がないではないか!」とい
うもの。「CVID」ってなんでしょうか? 一種の流行語になっているので、皆さんご存知ですね。

Complete, Verifiable, and Irreversible Denuclearization=完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄

これ、だまされたくないアメリカが主張しているのです。ところが、共同声明には、「完全な非核化」とはあるけれど、「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」とはない。だから失敗だ!という

皆さん、これどうですか? 「そのとおりじゃないか!」と思う人も多いかもしれません。「失敗だ!」というのは、つまり、「だます」ということでしょう。

よく考えてください。よくよく考えてください。

「完全な非核化」と共同声明に書いてあっても、金はだませる。「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」と共同声明に書いてあれば、金はだませない?????????????

なんでそういう話になるのか、私にはさっぱりわかりません。金がだますつもりなら、「完全な非核化」と書いてあろうが、「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」と書いてあろうが、「だませるよね」と思いませんか?

そう、私たちは、「金は、お父さんの正日を見習ってだますつもりだ」と考えている。「だます」とは、具体的にどういうこと? 「非核化を約束しながら、実際には非核化せず、一方で制裁解除と経済支援を実現する」、こういうことです。それで、彼が共同声明で、「完全な非核化」を約束しようが、「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」を約束しようが、大差ない。

より重要なのは、「非核化が実現するまで、だまされて、金がほしいものを与えない」ということなのです。つまり、非核化がなるまで「制裁を解除しない」「経済支援しない」ということ。この点、6月12日の記者会見で、トランプさんは「制裁はつづける」と断言しました。そして、ポンぺオさんも14日、同じことを強調しています。

非核化完了まで対北朝鮮制裁の緩和行わず、ポンペオ氏

6/14(木)14:13配信

 

【AFP=時事】マイク・ポンペオ(Mike Pompeo)米国務長官は14日、ソウルで日韓外相との会談後に共同記者会見に臨み、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong Un)朝鮮労働党委員長は非核化が早急に行われる必要があると理解していると述べた一方、北朝鮮に対する制裁緩和は非核化のプロセスが完了するまで行わないと強調した。

北朝鮮に対する制裁緩和は非核化のプロセスが完了するまで行わないと強調した。

ここまでの話、よろしいでしょうか? まとめると、

となります。

「具体的でない」「タイムテーブルがない」

もう一つの主な批判は、共同声明が「具体的ではない」「タイムテーブルがない」というもの。これ、どうでしょうか? どちらも事実です。だから失敗???

常識的に考えてみましょう。アメリカと北朝鮮は、1950年から現在に至るまで戦争中です。この問題は、68年つづいている。そして、核問題は、少なくとも24年つづいている。こんな大問題を、トランプと金が1時間(朝10~11時)会談しただけで、解決できますか????? 1時間で解決し、「具体的なタイムテーブルも作れ!」。こんなことができる人がいれば、是非教えていただきたい。

「具体的でない」」「タイムテーブルがない」と批判する人は、「北方4島が返ってこなかったから安倍ープーチン会談は全失敗だ!」と批判する人に似ています。

もう一つ、そもそも「具体的」「タイムテーブル」というのは、「トランプの仕事ではない」ということもあります。

「非核化のタイムテーブル」というのは、核の専門家も参加して行われるものでしょう? トランプは、核の専門家でしょうか? 違いますね。トランプと金が会った。ポンぺオさん、ボルトンさんなどが参加して、拡大会談がおこなわれた。さらに、人数を増やしてワーキングランチがあった。それでも、核の専門家はいないわけで、それで「非核化のためのタイムテーブルなどつくれるはずがない

そもそも「非核化のタイムテーブルをつくる」のはトランプの仕事ではない。それは専門家の仕事である。そして、今回の首脳会談、トランプにそんなミッションはなかったのです。

では、トランプのミッションは、なんだったのでしょうか? 金と、「ディールの概要について話し合うことです。「ディール」の中身はなんでしょうか? 「北が非核化すれば、アメリカは北の体制を保証する」です。共同声明には、「ディールの概要」が記されています。具体的な話は、ポンぺオさんが、これから詰めていく。

皆さんの会社が小さければ、細かなところまで、社長が詰めるかもしれない。しかし、大企業の社長の仕事は「方針を定めること」ではないですか? 具体的な方法は下の仕事です。

米韓軍事演習の中止について

トランプさん、記者会見で「米韓軍事演習の中止に言及して世界を仰天させました。「金に譲歩した!」と大いに批判されています。しかし、これにも意味があるのです。

トランプと金は、「非核化」「体制保証」で合意しました。具体的なタイムテーブルは、これから詰めていく。ところが、金はおそらく「お父さんのようにうまくウソをつき、制裁を解除させ経済支援を受け取り核はちゃっかり保有しつづけよう」と考えている。

アメリカは、体制保証を約束したが、制裁解除には合意しなかった。それで、金は今、「うれし悲し」という感じでしょう。今度は、「安倍さんにあって、金をふんだくろう」と考えているに違いありません。

ところがトランプは、「米韓軍事演習を中止する!」といった。実際、そっちの方向に話が進んでいます。そして、「核戦争をしたくないので、人権問題をうるさくいわない」といっている。つまり、トランプサイドはディールの内容を履行しはじめてている。

トランプは、当然、金に「アメリカは約束をはたしている。おまえも約束をはたせ」と迫るでしょう。金も、何らかの行動をとらざるを得なくなります。でなければ、「ウソ」がバレてしまう。おそらく金は、何らかの行動を起こすことでしょう。起こさなかったらどうなりますか? トランプは、「金はやはりウソつきだった! ディールは終わりだ」と主張することができます。

しかし、「ウソつきだ!」と証明するためには、最初に「約束」させる必要がある。私たちが「北朝鮮はウソつきだ!」というとき、実をいうと、「金“正日”はウソつきだった」といっているのです。

金正恩は、「ウソつき男の子供」です。ところが、彼は、文さんとトランプに「非核化する」と約束した。これで、ようやく金がウソつきかどうか検証することができるようになる

米朝首脳会談は、何が成功なのか?

というわけで、「CVIDの文字がない」「具体的でない」「タイムテーブルがない」というのは、じっくり考えてみると、「的外れな批判」であること、ご理解いただけるでしょう。

では、なぜ米朝首脳会談は、「成功だった」といえるのでしょうか? トランプは、「実質何も与えずに金に完全非核化をやると約束させた」からです。繰り返しますが、トランプは、「制裁解除は非核化の後」といっています。一方、金は、アメリカ大統領に、「完全非核化します」と約束しました。これから彼がアクションを起こさなければ、「ウソつきであることが世界にバレます

彼は、「非核化しない原因」を見つけようとしますが、米韓軍事演習は中止になっているし、トランプは人権問題批判もしない。極めて友好的な態度をとっている。

金は今、「制裁解除」という結果を得ることができず、「非核化しない言い訳」がなくなって困っていることでしょう。「ウソつきと批判する前に、まず約束をさせなければならない」

金が得たもの

とはいえ、金が得たものもあります。それは、米朝関係が見かけよくなったことで、制裁が実質ゆるくなるであろうこと。これまでも中国、ロシアは、こっそり北を支援していました。これからは、両国から北への制裁破り支援が増えることでしょう。この点指摘する人も多いです。

しかし、大局的に見ると、「とても重要」とはいえません。重要なのは、「一歩前進したこと」です。金は「完全な非核化」を、トランプは「体制保証」を約束した。これから、ポンぺオさんと北朝鮮が、具体的タイムテーブルを定めていく。トランプは、米韓軍事演習中止を発表し、人権問題批判をやめた。そして、「俺は約束を守っているおまえはどうなんだ?!!」と迫ることができる。

さて、金は自分がウソつきであることを、証明するのでしょうか? それとも、イヤイヤ非核化のアクションを起こしていくのでしょうか?

世界中の人が、「金が勝った!」「金が勝った!」といいます。しかし、「制裁解除なし」「経済支援なし」で「完全非核化を約束した男」がなぜ「勝った」といえるのでしょうか?

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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