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なぜ、京セラ稲盛和夫氏は「不利な買収条件」でも応じたのか?

京セラの稲盛和夫氏が、ビジネスにおいて大切にしている「利他の心」。利他とは「他人に利益を与えること、自分のことよりも他人の幸福を願うこと」ですが、それで本当にビジネスがうまくいくのでしょうか。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、京セラによるアメリカ企業の吸収合併の際のエピソードを紹介し、「利他」がビジネスにどのような影響を及ぼすかについて解説しています。

成果を得ることが目的

京セラの稲盛和夫さんは利他の心について「ビジネスの世界においても一番大切であると思っています」と言い、そしてそのようにすることによって「短期的には多少の犠牲を払っても長期的には必ず報われる」としています。その意味するところは「ほとんどの人の“心の深層”」が「利他」に同調して、「納得感」と「共感」を呼び起こすからなのでしょうか。

稲盛さんは、その事例としてアメリカのAVX社のM&A(吸収合併)が「好感」をもって受け入れられて、それがために「京セラフィロソフィーが抵抗少なく浸透されて興隆が成されたことをあげています。

少し長くなるですが紹介します。AVX社との関係は、積層コンデンサの将来性を確信して同社の前身であるエアロボックス社とライセンス契約を交わしたことに始まります。同社は分裂してAVX社に事業が受け継がれたのですが、その同社から「日本での独占販売権について契約破棄の申し出でがなされました。その時に稲盛さんは、公正さから判断し日本での独占販売権を放棄しました

後に、業績が悪くなったAVX社から買収の申し出がありました。買収方法を株式交換とし、その時のAVX社の株価は当初20ドルだったのですが5割増しで評価してほしいとのことで30ドルとしました。すると、それでも安すぎるから1割増しの32ドルにしてほしいとの要望があり、それも受け入れて一応両社の了解が成立することとなりました。

しかし、要望はこれで収まらなかったのです。いざこの条件で交換をしようとなった時にニューヨークの証券取引所のダウ平均の株価か下落したため82ドルが72ドルになってしまいました。当初82ドル対32ドルで交換することに決まっていたのが72ドル対32ドルで変更してほしい要望がまたもやなされたのです。

そのときに至っては内部の関係者は皆こぞって大反対で「突っぱねるべきだ」となったのでしたが、しかし稲盛さんは相手側の株主に配慮する心情を汲み取り、さらに採算が合うか再度検討した後になんとかなると確信して買収に踏み切りました

「相手を思いやる」としてなされた決定は、結果としては、異なる企業文化の従業員や株主の好感と信頼を勝ち得ることとなり、その後の業績の回復のためになさえた経営哲学や経営システムの転換が抵抗少なくなく受け入れられて、それが好業績へとつながって行きました。やがて、5年後にはAVX社は証券取引所へ再上場することとなりました。

穿った見方をするなら、たまたまに「京セラ式の経営」が実行されたことで「JAL」と同じように業績が急回復したのだと言えそうですが、それでも、後付けかもしれませんが「利他」と称する行為が「異文化」を同化させるための「コア・コンピタンス(独自の強み)」として作用して、“効用”として機能できたその事実は否定できないものです。

image by: Mizantroop / Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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