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のらりくらりの金正恩。トランプの北朝鮮外交は「正解」なのか

トランプ外交は各国に喧嘩腰とも思えるごとき姿勢で交渉している観がありますが、その「最重要課題」はいったい何なのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、読者から届いた質問に返答する形で、アメリカ外交は2013年迄は石油利権の「戦争」が中心だったが、2017年以降の北朝鮮問題は「交渉」の比重を独占すべきだと分析した上で、時系列に即した解説を試みています。

トランプにとって、北朝鮮問題とイラン問題、どっちが大事?

読者のSさまから、こんなメールをいただきました。

北野様

 

Sと申します。いつも拝読の上、勉強させて頂いています。機会があれば北野様の見解を伺いたい事があります。

 

私は、辻本貴一様のブログ「中韓を知りすぎた男」も拝読させていただいています。2018/5/16の配信「なりすまし日本人」において、トランプがアメリカの本気度を金正恩に見せつけるためにイラン核合意離脱表明を利用した? と読めるような記載があります。

 

私は、北野様が度々記載される、金正恩の思惑(制裁解除等を手に入れた上、核兵器はちゃっかり保持)はトランプには通用しないと分からせる効果が北朝鮮に及ぶことを見越して、トランプが核合意離脱表明をした可能性も確かにあるな、と思いました。

 

真偽のほどはトランプと側近にしか分かりませんが、私の印象ではイラン核合意離脱はイスラエルとのお付き合いであり、米本土に実害が及ぶかもしれない核弾頭ICBM保持の可能性がある北朝鮮対応の方が本気で取り組んでいるように見えます。

 

北野様にお伺いしたいのは、トランプにとってイランと北朝鮮何れの問題が深刻と考えられますか? です(そもそもなぜトランプがこんなにユダヤべったりなのか分からないのですが)。何かの機会にご回答いただければ幸甚です。今後とも、より良い日本に導いて下さる北野様のメルマガの継続を期待しております。

お答えします。

ブッシュは、なぜ北朝鮮を放置したのか???

ブッシュの時代からお話しましょう。ブッシュが大統領になったのは01年。この年に「9.11」があり、アメリカは、アフガン戦争を開始しています。さらに、03年イラク戦争を開始しました。実に不可解な戦争でした。開戦の理由は、「イラクは大量破壊兵器を保有している」「イラクはアルカイダを支援している」でしたが、どちらも「大ウソ」だったことがわかっています。証拠はこちら。

米上院報告書、イラク開戦前の機密情報を全面否定

[ワシントン=貞広貴志]

 

米上院情報特別委員会は8日、イラク戦争の開戦前に米政府が持っていたフセイン政権の大量破壊兵器計画や、国際テロ組織アル・カーイダとの関係についての情報を検証した報告書を発表した。

(読売新聞2006年9月9日)

報告書は『フセイン政権が(アル・カーイダ指導者)ウサマ・ビンラーディンと関係を築こうとした証拠はない』と断定、大量破壊兵器計画についても、少なくとも1996年以降、存在しなかったと結論付けた。
(同前)

では、なぜアメリカはイラクを攻めたのでしょうか? その本当の理由は? 諸説ありますが、FRBのカリスマ・グリーンスパン元議長は、こんな衝撃的発言をしています。

「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長、回顧録で暴露

 

[ワシントン17日時事]18年間にわたって世界経済のかじ取りを担ったグリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で、2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露し、ブッシュ政権を慌てさせている。

(2007年9月17日時事通信)

グリーンスパン元議長が、「米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露」した。なぜこういう話になるのか? 実をいうと、プッシュが大統領に就任した時、アメリカ・エネルギー情報庁は、「アメリカの石油は2016年で枯渇すると予測していたのです。それで、ブッシュは、「中東を支配しなければならない!」と考えた。

もう一つ、フセインが2000年10月、「原油の決済通貨を、ドルからユーロにかえた」という衝撃的事件も起こっていた。いずれにしても、ブッシュにとっては中東征服が最重要課題。それで、北朝鮮は事実上放置された。北は、アメリカを気にすることなく核開発にまい進。05年2月には、「核兵器保有宣言」をしています。そして、同年9月、北は「核兵器を廃棄する!」とウソをつきました。

いずれにしてもブッシュの時代、アメリカの優先順位は、

だったのです。北は、その状況を、うまく利用しました。

オバマは、なぜ北朝鮮を放置したのか?

09年、オバマの時代がはじまりました。世界は、「100年に1度の大不況」の真っ最中。オバマ、一期目はこれの克服に全力投球することになった。そして、見事に成功します。

二期目がはじまった13年。危機を克服したアメリカでは、大きな変化が起こっていました。シェール革命です。これは本当の革命。おかげでアメリカは今や世界一の石油・ガス超大国に浮上した。それで、何が変わったか? アメリカにとって、中東の重要性が減ったのです。オバマは、露骨にイスラエル、サウジアラビアを冷遇しはじめ、アメリカと両国の関係が、著しく悪化します。

一方で、彼はイスラエル、サウジの宿敵、イランと和解。2015年7月に「イラン核合意」。そして2016年1月に対イラン制裁を解除してしまいます。北はどうだったのでしょうか?

オバマは、中東を軽視しはじめていましたが、それでも北問題が「最重要課題」になることはありませんでした。金正恩は、2013年に1度、2016年に2度、核実験をしたにもかかわらず、です。

トランプの、中東、北朝鮮観

2017年、トランプ時代がはじまりました。彼は、イスラエル・ネタニヤフ首相の親友。娘のイバンカさんは、ユダヤ人クシュナーさんに嫁いでいる。彼女は、「ユダヤ教」に回収し、「ユダヤ人」になっている(ユダヤ人の定義は、「ユダヤ教徒」であること。もし皆さんが、「ユダヤ人」になりたければ、なることができます)。

そしてイバンカさんの子供たち、つまりトランプの孫たちは、「ユダヤ人」。それで、トランプは親イスラエルなのです。この「親戚ファクター」、「大国の大統領がそんなことで?」と思いますか? 実をいうと、この「親戚友達ファクター」は、非常に重要なのです。ヒラリーだって、ファミリービジネス「クリントン財団」の資金集めに奔走していた。

「ハエもトラも」で汚職追放運動を進めてきた習近平。そんな彼でも「身内のトラ」は、放置しています。プーチンは、昔からの友達にガスプロムとロスネフチの経営を任せている。だから、トランプが、親イスラエルなのもわかります。そんなトランプは、イラン核合意から離脱しイランとの対決姿勢を強めています。

では、北朝鮮問題はどうなのでしょうか? 2017年はじめて北朝鮮核問題が、「最重要」になりました。理由は、金がこの年、狂ったように核実験ミサイル実験を繰り返したからです。そして、「米本土に届くICBMが間もなく完成する」という情報がアメリカを恐怖させました。

質問の答えにいきましょう。

北野様にお伺いしたいのは、トランプにとってイランと北朝鮮何れの問題が深刻と考えられますか?、です。

これは、もちろん北朝鮮でしょう。金は「米本土を核攻撃できるICBMを完成させた!」と宣言している。そして、米国防総省は、「まだできていないが、年内には完成するだろう」と予測している。つまり、北朝鮮は、アメリカにとって「ホンマモンの脅威」である。

一方、イランには核兵器がない。IAEAは、「イランは、合意内容を順守している」と宣言していて、正直いえば、まったくアメリカの脅威ではありません。しかし、イランは、イスラエルにとっては最大の脅威である(数人の読者さんから、「イランは、ドル基軸通貨体制に挑戦しているので叩かれるのでは?」というメールをいただきました。この件は、長くなりますので、別の機会にします)。

トランプにとっても、アメリカにとっても、北朝鮮は最重要課題。しかし、相手は、核をすでにもっているので、慎重にいかざるを得ない。

日本にも強気な人たちがいて、「北朝鮮なんて攻撃してつぶしてしまえ!」などと主張しています。そんな人たちにききたいのは、「その時、日本はどうするの?」ということ。全部アメリカにやらせて、日本は何もしないつもりなのでしょうか? それとも、集団的自衛権を発動させて、全力で米軍をサポートするのでしょうか(私は、戦争反対ですが、それでも戦争になったら、全力で米軍をサポートすべきだと考えます。同盟国なので、当然ですね)? それに、金がヤケッパチになって、日本に核ミサイル、化学兵器ミサイルを撃ってきたらどうするのでしょうか?

どう考えても、戦争よりも外交で解決した方がいいのです。経済制裁を強化しつづけ、最終的には外交、交渉で解決する。うまくいくいかないはともかく、行けるところまで行くべきです。つまり、トランプのやり方は、北朝鮮に限っていえば正解なのです。

image by: shutterstock

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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