アメリカファーストを貫くトランプ大統領のエゴ路線が、巡り巡って自国の首を締める可能性が大きくなってきました。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、7月のNATO首脳会議以降、ドイツがロシアや中国と米の保護主義に対抗する動きをみせている事実をあげ、このままではアメリカは深刻なダメージを受けかねないと記しています。
プーチンとメルケルが、反トランプで一体化
プーチンとメルケルが、反トランプで心を一つにしました。なんの話???
独ロ首脳が会談、トランプ氏への対抗で歩み寄りか-パイプライン推進
ブルームバーグ 8/20(月)3:56配信
ロシアのプーチン大統領とドイツのメルケル首相は18日にベルリン近郊で会談し、シリアやウクライナ、イランの情勢や米国の関税などについて長い時間をかけて詳細に話し合った。ロシア大統領府のペスコフ報道官が明らかにした。
プーチンとメルケルが、「シリア」「ウクライナ」「イラン」「アメリカの関税」などについて、長時間話しあったそうです。しかし、最大のテーマは、この4つではありません。
同報道官が記者団に語ったところによれば、両首脳は「ノルドストリーム2」ガスパイプライン・プロジェクトの推進でも合意した。トランプ米大統領は先月、ドイツが天然ガス供給をロシアに依存していることについて「ロシアに完全に支配されている」と批判したが、独ロ両首脳は「このプロジェクトを政治化するのは全く間違っている」とし、完成させるべきだとの考えで一致したという。
(同上)
これは、なんでしょうか? 7月11日、ブリュッセルで、NATO首脳会議が開かれた。ここでトランプは、他の加盟国を批判しました。理由は、「軍事費が少な過ぎる!」。特に、欧州最大の経済大国ドイツがターゲットにされた。ドイツの防衛費は、GDPで1.2%(アメリカは、GDP比2%を要求している)。
そして、トランプは、ロシアとドイツを直接結ぶ海底ガスパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画を激しく非難しました。「ドイツは、ロシアに完全に支配されている!」と。これは、何?
欧州は、ロシアにガスを依存しています(総消費量の約3割)。ロシアからのガスはこれまで、主にウクライナを経由するパイプラインで、欧州に送られていた。ところが、ロシアとウクライナは仲が悪く、しばしばケンカする。それで、ロシアと西欧は、「ウクライナを経由しないルートが必要」という認識で一致。ロシアードイツを直接結ぶ「ノルド・ストリーム」が作られた(2011年稼働)。
その後、ロシア、ウクライナ関係は、2014年のクリミア併合で、ますます悪くなった。それで現在、「ノルド・ストリーム2」計画が進んでいるのです。トランプは、このパイプライン完成で、欧州のロシア依存がさらに強まるとして、プロジェクトに反対しています。
他にも理由がある。一つは、パイプライン完成で、親米反ロ・ウクライナ政権にトランジット料が入らなくなる。二つ目は、アメリカ自身が欧州に液化天然ガスを売りたい(アメリカは、シェール革命で、世界一の石油・ガス大国になった)。
ところが、メルケルに脅しはききません。今回、仲よくプーチンと、「ノルド・ストリーム2は作るよ!」と宣言した。トランプが、ドイツ・西欧とロシアを結びつけた形です。
2014年のロシアによるクリミア併合以降、メルケル首相はプーチン大統領を厳しく批判してきたが、今回の訪独招請はプーチン氏の孤立を打破する動きだ。プーチン氏が独国内でメルケル氏と2国間会談を行ったのは13年以来。
(同上)
EU、中国にも接近
ちなみに、強気のトランプは、ドイツを中心とするEUと中国も一体化させています
<中国EU首脳会議>共同声明に「反保護主義」明記
毎日新聞 7/16(月)23:43配信
【北京・河津啓介】中国と欧州連合(EU)は16日、北京で首脳会議を開いた。会議後に発表した共同声明には「反保護主義」が明記された。共に米国との通商問題を抱える中国と欧州が連携強化を確認した形だ。
会議には中国の李克強首相とEUのトゥスク欧州理事会常任議長(EU大統領)、ユンケル欧州委員長が出席。会議後の共同会見で、トゥスク氏は同じ日に米露首脳会談も開かれることに言及し、欧州と米露中が「国際秩序の破壊や貿易戦争の開始を避ける義務がある」と訴えた。
(同上)
というわけで、強引なトランプのせいで、EU、ロシア、中国が、「反米で一体化」という愚かな結果になっています。
トランプは現在、アメリカのパワーを存分に使い、「アメリカ・ファースト路線」を突き進んでいます。アメリカは、なんやかんやいっても経済力、軍事力世界一の超大国。それで、成果が上がっているように見える。
トランプは、ブッシュ(子)の過ちを繰り返す
現在の状態は、ブッシュ(子)の時代とよく似ています。ブッシュは、国連安保理で、拒否権をもつ常任理事国3国、フランス、ロシア、中国が反対する中、イラク戦争を断行しました。「超大国アメリカは、国連など気にしない!」と。彼のこうした姿勢は、フランス、ドイツ、ロシア、中国を一体化させ、「多極主義陣営」が形成された。
ブッシュは、好き勝手にふるまっていましたが、アメリカはその後、見事に没落。08年からの危機で、「アメリカ一極時代」は終焉し、「米中二極時代」に移行した。要は、「アメリカ自滅」です。
トランプは、ブッシュの失敗から学ぶことなく、「エゴ路線」を驀進しています。アメリカは依然として最強なので、「トランプの思い通り事が進んでいる」ように見えるかもしれない。しかし、彼のエゴは、アメリカに深刻な長期的打撃を与えることでしょう。
「EU、ロシア、中国が、反トランプで一体化」とは…。すべてトランプさんの言動の結果です。
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