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笛吹けど踊るは日本だけ?トランプのイラン制裁に欧州はどう動く

トランプ大統領が11月から開始するイラン産原油に対する制裁に、日本の石油元売り大手各社も従うことが明らかになりました。これを受け無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、「トランプ外交」となってからイラン再制裁に至った経緯を詳しく解説、イランと米国の戦争の可能性に言及するとともに、「欧州の動向次第でアメリカの没落速度は加速するだろう」とも記しています。

日本は、イラン原油の輸入を停止する

日本は、イラン原油の輸入を禁止するそうです。

イラン原油の輸入、大手3社が停止の意向通知

読売新聞 9/6(木)0:19配信

 

米国がイラン産原油に対する制裁を11月に再開することを受け、石油元売り大手のJXTGホールディングス(HD)、昭和シェル石油、富士石油がイラン側に対し、原油の輸入停止の意向を通知したことが5日、わかった。

後述しますが、トランプさんは、全世界にイラン産原油を買うな!と要求しています。無視して原油輸入をつづけると、どうなるのでしょうか?

輸入制限に反して調達を続けると、米国内で企業活動ができなくなる恐れがあるためだ。各社は今後、増産の余地があるサウジアラビアなどから原油を代替調達する方針。ガソリンなど石油製品の価格に対する影響は軽微とみられる。

「輸入制限に反して調達を続けると、米国内で企業活動ができなくなる恐れがあるためだ」

これが、アメリカの制裁の怖さですね。アメリカは、国連安保理を通さずイランに制裁する。しかし、他のすべての国に、「あなた方もイランとの取引をやめろ! さもないと、あなたの国、あなたの会社にも制裁を科すぞ!」と脅す。それで、結構な影響力があるのです。

ちなみに、ロシアへの制裁もそうです。アメリカがロシアに科している制裁ですが、他国も従うよう強要される。そのせいで、ロシア経済は、ボロボロになっています。

ところで、イラン原油を停止すると、日本はどうなるのでしょうか? イラン原油が日本の原油輸入量に占める割合は5%ほど。他国からの輸入量を増やすことでカバーできるので、大きな問題は起こらないだろうといわれています。

なんで、こうなった???

少し、この問題を復習しておきましょう。イラン核問題は、イラク問題が騒がれていた2002年頃登場しました。ちなみにイラクには、ブッシュが主張していた大量破壊兵器はなかった。「イランが核兵器を開発している疑惑」ついても、国際原子力機関(IAEA)は、09年時点で「いや、イランは核開発してませんよ!」と宣言していました。

イランが核開発目指している証拠ない=IAEA次期事務局長

 

[ウィーン 3日 ロイター] 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥次期事務局長は3日、イランが核兵器開発能力の取得を目指していることを示す確固たる証拠はみられないとの見解を示した。ロイターに対して述べた。天野氏は、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いに対し「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答えた。

(ロイター2009年7月4日)

イラク、イランに対するアメリカの言いがかり」は、何なのでしょうか? いろいろ理由があります。大きな理由の一つは、当時「アメリカの石油は2016年に枯渇する」と予測されていた。それで、アメリカにとっては、資源が豊富な中東を完全支配することが最重要課題だった。

ところが、オバマの時代になると、状況が変わります。そう、「シェール革命」で、アメリカは、世界一の原油、ガス大国に浮上した。それで、オバマは、中東への関心を失いました

中東を見ると、ロシアイランがシリアアサド政権を支援している。一方、アメリカは、「反アサドを支援している。ところが、オバマはやる気がないので、アサドは生き残り、中東におけるロシア、イランの影響力が増してしまったのです。これで、アメリカと、伝統的な中東の同盟国であるイスラエルサウジアラビアとの関係が、決定的に悪化しました。しかし、オバマは、気にしない。

2015年7月、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、イランは、いわゆる「イラン核合意」に達します。2016年1月、IAEAが、「イランは合意を守っている」と宣言。これで、イラン制裁は、解除されていきました。

ところが2017年1月、娘、娘婿、孫は「ユダヤ人」「ユダヤ教徒」、イスラエル・ネタニヤフ首相の親友トランプが大統領になった。彼は、2018年5月、「イラン核合意からの離脱」を宣言。

「対イラン制裁を復活させる!」
「イラン原油が輸出できないようにする!」
「世界の国々は、イラン原油の輸入をやめよ!」

と号令しました。

今後注目すべき点は?

これから注目すべき点について考えてみましょう。トランプは、「世界の国々よ、イラン原油の輸入をやめよ!」と要求している。ところが、この「イラン核合意」。アメリカ以外の参加国、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国、イランは、「維持」を宣言しているのです。さらに重要なことに、IAEAは、「イランは合意内容を守っていて、何の問題もない」としている。つまり、この件では、明らかにトランプが孤立している。

トランプの要求に日本は従う方向です。しかし、中国ロシアは、おそらく完全無視でしょう。問題は欧州の動向です。欧州の国々は、アメリカからの嫌がらせを恐れて、「イラン原油輸入禁止」に踏み切るのでしょうか? それとも、「シカト」するのでしょうか? もし「シカト」すると、アメリカの権威は大いに失墜します。この辺が、もっとも注目されるべき点ですね。

もう一つ。もしアメリカ―イラン戦争になれば、イラク戦争時同様国連安保理の「お墨付き」は得られないでしょう。アメリカは、再び国際法違反の戦争をすることになる。そうなると、イラク戦争の時同様、アメリカの没落が加速することになります。

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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