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70年続く北方領土問題を2島だけ返還で終結させたいロシアの本音

11月14日、日ソ首脳会談が行なわれ北方領土問題に新展開がありました。その「日ソ平和交渉条約をまとめた後、2島だけ先行返還」で合意という内容を受け、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、モスクワで28年間生活した経験から感じた「日ソの領土観」のズレを解説した上で、賛否両論が予想される今回の首相判断は現実的であるとの持論を展開しています。

安倍総理は北方領土【2島返還】の決断をした

皆さんご存知だと思いますが、非常に大きなできごとがありました。14日、シンガポールでプーチンと会った安倍総理が驚きの発言をしたのです。産経新聞11月14日に、総理の発言全文が載っています。

安倍晋三首相は14日夜、訪問先のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談した後、記者団に対し「平和条約交渉を加速させることでプーチン氏と合意した」と語った。発言の全文は次の通り。

 

「先ほどプーチン大統領と日露首脳会談を行いました。その中で通訳以外、私と大統領だけで、平和条約締結問題について相当突っ込んだ議論を行いました。2年前の(山口県)長門での日露首脳会談以降、新しいアプローチで問題を解決するとの方針の下、元島民の皆さんの航空機によるお墓参り、そして共同経済活動の実現に向けた現地調査の実施など、北方四島における日露のこれまでにない協力が実現しています」

 

「この信頼の積み重ねの上に、領土問題を解決をして平和条約を締結する。この戦後70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で終止符を打つ、必ずや終止符を打つというその強い意思を完全に大統領と完全に共有いたしました」

 

「そして1956(昭和31)年、(日ソ)共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことでプーチン大統領と合意いたしました。(大阪市で開かれる)来年(6月)のG20(=20カ国・地域首脳会議)においてプーチン大統領をお迎えいたしますが、その前に、年明けにも私がロシアを訪問して日露首脳会談を行います。今回の合意の上に私とプーチン大統領のリーダーシップの下、戦後残されてきた懸案、平和条約交渉を仕上げていく決意であります。ありがとうございました」

この中で、「驚きの発言」はなんでしょうか?こちらです。

そして1956(昭和31)年、(日ソ)共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことでプーチン大統領と合意いたしました。

日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」ことで、「プーチンと合意した」そうです。「日ソ共同宣言」とはなんぞや????毎日新聞11月14日に、説明が載っています。

◇ことば「日ソ共同宣言」

 

日本とソ連が戦争状態を終了し、国交を回復した宣言。1956年10月19日に鳩山一郎首相とソ連のブルガーニン首相がモスクワで調印。同年12月12日に発効した。平和条約交渉の継続を確認した上で

 

  1. ソ連は日本の要請に応えかつ日本の利益を考慮して、歯舞群島および色丹島を引き渡すことに同意
  2. ただし、これらの島は平和条約締結後に引き渡される

-と明記した。ソ連崩壊後の2001年、ロシアのプーチン大統領と森喜朗首相が署名したイルクーツク声明で宣言の有効性を確認した。

一言でいえば、「平和条約締結後に歯舞色丹島を返す」という宣言です。両国で批准されていて、法的効力があります。

安倍総理のこの発言がなぜ「驚き」なのでしょうか?そう、日本の立場はこれまで、「4島一括返還」だった。日ソ共同宣言は、「4島返還」に言及していない。「2島返還」なのです。

これ、日本側は「2島先行返還」といいます。つまり、「先に2島を返してもらい後で残りの2島を返してもらう」。一方ロシア側は、「2島返還で終わり」という立場。この辺は、これから調整するのでしょう。

何はともあれ、安倍総理が「2島返還」になったことで、批判されることが予想されます。

モスクワに28年住んでわかったこと

私は28年モスクワに住んでいましたが、わかったことがあります。それは、「ロシア政府には4島を返還する気が1ミリもない」ということ。なぜでしょうか?いろいろありますが、まず彼らは、日本のいう固有の領土という概念が理解できない。なぜ?ロシアの国の成り立ちと関係があります。

ロシア国の発祥地は、現在ウクライナの首都になっているキエフです。882年頃成立した「キエフ大公国」(ルーシ)といいました。そこから、どんどん東に勢力を伸ばし、19世紀半ばには極東地域を清(中国)から奪うまでになります。こんな歴史を持つロシアに、「あなたの国、固有の領土はどこですか?」と聞けば、「そりゃあキエフ周辺だよ」となるでしょう。ところがそのキエフは、ウクライナの首都になっている。

こう考えると、広大なロシア領の99%ぐらいは固有の領土ではなく、「征服した土地」といえる。だから、日本から「固有の領土だから返して」といわれても困ってしまうのです。そんなこといったら、国のほとんどを誰かに返さなければならなくなる。

というわけで、ロシアの領土観、「戦争で勝ったら自分の領土になる」というもの。たとえばケーニヒスベルク。これは、ドイツが「固有の領土」と主張できるかもしれません。しかし、第2次大戦の結果ソ連に奪われ、いまではロシア領カリーニングラードになっています。こういうと、私を含む日本側は、

などと、いろいろ反論したくなります。ところがロシア側は、「ソ連が対日参戦することは、ヤルタ協定でアメリカ、イギリスも合意している」などと反論します。「ああいえばこういう」で埒があきません。

なにはともあれ、「ロシア側に4島を返す気が1ミリもない」ことは確かなのです(2島返還は、日ソ共同宣言があるので、より現実的です)。私が28年モスクワに住んで得た結論は、「日本が4島返還にこだわりつづければおそらく永遠に1島も戻ってこないし、日ロの戦争状態も永遠ににつづく」ということ。

ここで、日本人は選択を迫られます。

  1. それでも4島返還を目指して、要求しつづけるのか?
  2. せめて2島を先に返してもらうのか?

今まで日本は、不可能な「4島一括返還」要求をつづけていた。安倍総理は、「2島返還に大きく転換された。おそらく賛成より反対の方が多いと思います。そして、反対なのは当然ともいえるでしょう。

しかし、私は総理を非難している人にお聞きしたいです。「批判するのは誰にでもできますが、では、4島一括返還を実現できる、具体的な方法を教えてください!」と。そんな方法があれば、いますぐ安倍総理に教えてあげてください。4島一括返還が可能であれば、もちろんそっちのほうがいいのです。

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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