11月26日、ロシアとウクライナが領海を巡り海上衝突する事態が発生しました。2015年以降落ち着きを見せたかのように思われた両国の対立が何故今、再燃したのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』でその原因を探っています。
ロシア、ウクライナ軍艦を拿捕!!!
世の中には、「あの話って、いったどうなったんだっけ~?」というテーマがありますね。たとえば、シリア内戦。たとえば、IS。たとえば、ウクライナ問題。大いに盛り上がり、その後まったく話を聞かなくなった。
たとえば、ウクライナ問題は、今どうなっているのでしょうか?先日、久しぶりに大きな動きがありました。
露、ウクライナ艦船に発砲・拿捕 クリミア近海
産経新聞 11/26(月)16:15配信
【モスクワ=小野田雄一】2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島近くの黒海北部海域で25日夜(日本時間26日未明)、ロシアの沿岸警備艇がウクライナ海軍の艦艇に発砲し、3隻を拿捕(だほ)した。これに対し、ウクライナは同国東部の親ロシア派武装勢力が実効支配する地域に大規模砲撃を実施。両国間の緊張が一気に高まった。
ロシアが、ウクライナの軍艦に発砲し、3隻を拿捕した。ウクライナは、親ロシア派支配地域に大規模砲撃し、報復した。これだけだと、なんのこっちゃわかりませんね。
ロシアーウクライナ関係の流れ
簡単にこれまでの流れを振り返っておきましょう。
2014年2月、ウクライナでクーデターが起こりました。そして、「親ロシア」ヤヌコビッチ政権が倒れた。クーデターによって誕生した新政権は、親欧米、反ロシア。彼らは、「クリミアからロシア黒海艦隊を追放し、(ロシアの敵)NATO軍を入れる!」などと主張しはじめた。
それで、プーチンは激怒。2014年3月、クリミアをサクッと併合しました(住民投票が実施され、97%が、ロシアへの併合を支持したとされている)。これで、欧米+日本は、ロシア制裁を発動。制裁は、今もつづいています。
2014年4月、ロシア系住民が多いウクライナ東部ルガンスク、ドネツクが独立を宣言。ウクライナ新政権は、当然これを認めず、内戦が勃発しました。
ここまでは皆さんご存知ですね。その後、いつの間にか話を聞かなくなりましたが。どうなったの?
クーデターから1年後の2015年2月、「ミンスク合意2」が成立しています。これは、ロシア・プーチン、ウクライナポロシェンコ大統領、ドイツ・メルケル、フランス・オランドによる「停戦合意」です。これで、一応ウクライナ内戦は、落ち着きました。
その後もゴタゴタはつづいていますが、大規模な内戦は再開されていません。ところが…。
ロシア、ウクライナ軍艦を拿捕
もう一度、こちらの記事を。
露、ウクライナ艦船に発砲・拿捕 クリミア近海
産経新聞 11/26(月)16:15配信
【モスクワ=小野田雄一】2014年にロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミア半島近くの黒海北部海域で25日夜(日本時間26日未明)、ロシアの沿岸警備艇がウクライナ海軍の艦艇に発砲し、3隻を拿捕(だほ)した。これに対し、ウクライナは同国東部の親ロシア派武装勢力が実効支配する地域に大規模砲撃を実施。両国間の緊張が一気に高まった。
つづきをみていきましょう。
複数の露メディアによると、ロシア側は「ウクライナが領海侵入し、停船命令に従わなかった」と主張。ウクライナは同海域をロシア領海とは認めておらず、不当性を否定した。ウクライナ側の乗組員に数人の負傷者が出たが、命に別条はない。拿捕された艦船は、小型砲艦2隻と曳航(えいこう)船。
(同上)
まあ、こういうことですね。
ロシアは、「住民投票でクリミア住民の97%がロシアへの編入を望んだ」「クリミアは合法的にロシア領になった」と主張している。しかしウクライナは、もちろん「クリミアは今もウクライナ領」と確信している。当然「領海」の範囲も、ロシアとウクライナで異なっている。
たとえば、尖閣付近に中国船がいれば、日本にとっては領海侵犯です。ところが中国は、「尖閣はわが国固有の領土で、核心的利益である」としている。だから、「尖閣付近の海は、わが国の領海だ」と主張する。
この事件について、ロシア側の主張はどうなのでしょうか?
今回の事件をめぐっては、支持率低迷に悩むポロシェンコ氏が来年3月の大統領選を前に、ロシア側を「挑発」して国民の反露機運を高め、支持率回復を図ったとの見方が出ている。
(同上)
ウクライナでは、来年3月に大統領選挙があるのですね。時の流れるのは速いものです。ところがポロシェンコさん、人気がない。それでロシアとケンカして、支持率を上げようとしたと。
これ、韓国の例を考えると、しっくりきますね。韓国の大統領は、人気が下がってくると、反日になる。それで支持率アップを目指す。ポロシェンコさんもそんな感じだと。
ポロシェンコさんは、「拿捕」を受けて、ウクライナを「戦時体制」に移行させました。
ウクライナ、対ロ国境で30日間の戒厳令=侵略「新たな段階」と非難
11/27(火)5:17配信
モスクワ時事】ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島周辺の黒海海域で、ロシア警備艇がウクライナ艦船に発砲、拿捕(だほ)したことを受け、ウクライナ最高会議(議会)は26日、対ロシア国境地域などで28日から30日間の戒厳令を導入することを承認した。戒厳令導入で両国間の軍事的緊張が一層高まりそうだ。ウクライナのメディアによると、戒厳令が導入されるのは、ロシアと国境を接し、親ロシア派武装勢力が実効支配する東部のドネツク州やルガンスク州のほか、東部ハリコフ州、南部オデッサ州など10州。
国際社会の反応
国際社会の反応はどうでしょうか?
欧州では、「完全にロシアが悪い」という話になっています。「ロシア制裁を強化せよ!」と主張する政治家が多い。この件で、国連安保理が招集され、米ロが激しくやりあいました。
米大使、ウクライナ情勢でロシア警告=国連安保理で緊急会合
11/27(火)7:04配信
【ニューヨーク時事】ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島沖で、ロシア当局が「領海侵犯」があったとしてウクライナ艦船に発砲、拿捕(だほ)した問題を受け、国連安全保障理事会は26日、緊急会合を開いた。ヘイリー米国連大使は会合で「ウクライナの主権領域に対する言語道断な侵害」とロシアを批判。こうした行為は「米国や他国と、ロシアの関係をさらに悪くする」とロシアに警告した。
ロシア側の主張はどうでしょうか?
一方、ロシアのポリャンスキー国連次席大使はこれに先立ち「(ウクライナが)挑発を計画し、すべてロシアのせいにして、(ウクライナのポロシェンコ大統領が)架空のロシアの侵略から国を救う救世主になって支持率を上げようとしている」と主張。緊急会合でも、クリミア半島の帰属問題は解決済みとし「制裁や追加制裁でわれわれの考えは変わらない」と述べた。
(同上)
これは、「支持率アップ説」ですね。トランプは、こんな対応。
米、会談中止警告で強硬姿勢か
11/28(水)17:11配信
【ワシントン共同】トランプ米大統領は27日、20カ国・地域(G20)首脳会合出席に合わせて予定していたロシアのプーチン大統領との会談を中止すると警告した。直前に起きたウクライナ艦船銃撃事件を受け対ロ強硬姿勢を示す狙いがあるとみられるが、その効果には疑問符も付く。
トランプは、プーチンに「会談やめるぞ!」と警告したと。プーチンとしては、「別に…」ということでしょう。
アメリカは、ウクライナを守らない
私は、アメリカはウクライナをそれほど守らないと思います。なぜ?アメリカは今年、中国との覇権戦争をはじめたのでしょう?それで、中国、ロシア2大国を同時に敵にしたくないはずなのです。もちろん、立場上トランプさん、ポンぺオさん、ヘイリ─さんはロシアを非難するでしょう。しかし、ロシアを止めるための大きな動きは出てこないでしょう。
困るのはポロシェンコさんです。東部親ロシア派支配地域に大攻勢をかける?しかし、アメリカからの支援なしで、勝つことは難しいでしょう。
ウクライナの悲劇はなんでしょうか?アメリカの変化に気づいていないところです。2014年3月、アメリカの主敵はロシアだった。ところが2015年3月のAIIB事件以降、アメリカの主敵は中国になった。それで、アメリカは、ウクライナ支援の情熱を失ったのです。
日本の政治家さんもウクライナを笑えません。米中戦争がはじまった途端に中国に大接近するぐらいですから。世界情勢の変化をしっかり学び、「勝てる道」を進んでいきましょう。
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