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東京オリンピック便乗予算を許すな。会計検査院という「目付役」

いよいよ来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックですが、昨年末に発表された予算の高額さは世間を驚愕させました。その抑制に大きな役割を果たすのが、会計検査院。今回の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では著者の嶌さんが、そんな会計検査院について詳しく紹介するとともに、これからの時代に彼らが担うべき重要な役割について論じています。

地味な会計検査院でなく─予算のムダ使いにビシバシ注文を─

2020年の東京五輪・パラリンピックの費用は一体いくらかかるのだろうか。2018年12月に大会組織委員会と東京都が公表した第二弾予算の発表では1兆3,500億円が経費の全体像を強調した。しかし、会計検査院では関連経費まで含めると2兆8,255億円になると指摘し世間を驚かせた。オリンピックの経費は東京都と組織委員会、国が中心となって負担し、さらに関係する地方自治体なども出資することになっている。

オリンピックと万博に要注意を

しかし大会経費とは国際オリンピック委員会IOCが直接大会開催にかかる経費と限定している。このため大会後のレガシー遺産となる経費や沿道整備既存の体育施設の改修などは行政サービスとして扱われ、大会経費とは別に大会関連経費として区別されることになっている。会計検査院も、「予算は大会の開催に関連して行なわれる全ての業務に関わる経費を示すものではない」とクギを刺しており、膨張しがちな便乗予算に歯止めをかけたい意向を示している。

現在の予算には東京都以外に会場がある8道県の関連経費を含んでいないので最終的にかかる経費は3兆円を超えるのではないかと懸念されている。14年のソチ冬季五輪では5兆円に達したといわれ、欧米などから「カネをかけすぎている」という批判が猛然と起こった。いまやオリンピックといえば、予算が大目にみられる時代ではなくなっているのだ。

会計検査院では、今後オリンピック予算について

  1. 直接関係する費用
  2. 直接は関係しない費用
  3. 関係性の低い予算

の3つに分類して関係の役所などに区分して審査してゆくとしているがどこまで抑制できるかが焦点だ。

少子高齢化で予算が様変わり

現在、国の予算は少子高齢化の進展で余裕のある予算編成が出来ない状況が毎年の悩みとなっている。大半は福祉関連・社会保障費、公共事業費、国債費(借金の返済)などにとられ、新しい施設費にまわせるおカネはほとんどなくなってきているのだ。それだけに国際的な行事とはいえ、オリンピックにかこつけて多くの予算をとられることに警戒心が強いのである。さらに2025年には大阪万博が日本で開催されることになり、そこでも大幅な予算要求が出てくることが予想される。

関係する自治体は一般の予算要求でははねられる可能性が強いため、オリンピックや万博など国の行事がある時に関連予算として大きく要求しがちになるわけだ。

財政検査・監視の誇りを

これらをチェックし、予算を効率的に意義ある使い方を促すため、ここ10年ぐらいで国の予算などをチェックする会計検査院は国会や裁判所に属さず内閣からも独立した憲法上の機関である。国や法律で定められた各省庁などの機関の会計を検査し監督する役割を担っている。毎年度1,000ページを超す決算検査報告を出し、各省庁などの予算、決算が適正に行なわれているかどうかを審査、報告し、不適正な内容については指摘し、国の予算の効率的使用に目を光らせているわけだ。

会計検査院長以下、1,244人(2018年1月現在)の検査員が各省庁や自治体へ出かけて行き相当の日数をかけて予算が無駄に使われていなかったか、などについて精査し、国会にその内容を報告している。

会計検査院は1869明治2年に財政監督機関として誕生し天皇に直属する独立の官庁として存在してきた。戦後の規定を受け内閣に対し独立の地位を有し、検査の結果を直ちに行政に反映させることが定められている。

会計という言葉で過小評価?

ただ会計検査院は他の省庁に比べ「会計」という言葉がついており、おカネの出し入れをみるといったニュアンスが強く、家庭や企業の金銭の支出入を帳簿につける概念を思い浮かべ勝ちだ。しかし、国の会計検査院は単なるおカネの出し入れを帳簿につけることではなく、国の財政が適正に効率的に使用されているかどうかを監視することに目を光らせている監視機関なのだ。

「会計」という言葉のせいで、検査院が任じている大きな役割が国民から過小評価されてきたのではないかと危惧される。本来なら会計検査院というより“財務検査・監視院”といった名称にし、国民の税金の使い方を正しく導く官庁と理解されるべきなのである。

もっとモノ申す機関に

これまでは地味な存在とみられてきたせいか、検査院の重要な指摘に国民はあまり注目してこなかった気がするし、会計検査院自体もあまり積極的に自らの役割をアピールしてこなかったようにも見受けられる。しかしここ10年位で検査院の指摘が大いに注目されるようになってきた。また各省庁、自治体なども検査院の指摘に神経をとがらせるようになってきたようだ。

高度成長時代は予算も豊富にあり、各省庁などのおカネのムダ使いに寛容な側面もあったが、少子高齢化、低成長の時代になる一方で、予算のあり方に国民の目も厳しくなってきた。時代の変化に合わせ、検査院も遠慮せずに大いに予算の執行や問題に大いに注文をつけ、国会と国民に警鐘を鳴らして欲しいと思う。そのことが、時代の変化に合わせた会計検査院の新たな、重要な役割なのではなかろうか。

image by: StreetVJ / Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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