20世紀が世界人類にとってどんな時代だったのかを語る上で欠かせないのが「人類平等の理念が定着したこと」であり、それは日本が成し遂げたものであると主張する一冊の本が話題となっています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、その内容をレビューしています。
偏屈BOOK案内:『絶対、世界が「日本化」する15の理由』
日下公人 著/PHP研究所
20世紀の100年間は世界人類にとってどんな時代だったのか。著者がどうしてもこれしか思いつかなかったというのは、第一に「白人絶対の時代が終わって、人種平等の理念が国際社会にいちおう定着したこと」である。第二は、「それを日本がほとんど単独でなしとげた」ことである。日本とともに蹶起するような有色人種の国は、アジアだけでなく世界中のどこにもなかったからだ。
白人列強に伍する日本の国力を祝福、賛同を表明する他の有色人種の国はなく、またそれを笑顔で迎えた白人の国もなかった。前者からは嫉妬を買い、後者からは不快感と敵意を浴びせられた。大東亜戦争には「人種平等の実現」を目指した世界史的意味と事実があった。しかし戦勝国による東京裁判は、日本人の記憶からそれを消去するため、侵略国として断罪し、自己正当化を図った。
この100年のパワーゲームの主役は日本であった。中国も、ロシアも、イギリスも、日本と戦ったことで衰運に傾いた。ロシアは日露戦争に敗れて帝国を失い、ソビエト連邦として第二次大戦では勝者側についたが、中立条約違反、侵略による領土獲得という道徳的敗北を喫し、その後日本が同盟国として支えたアメリカとの経済戦争でも破れて連邦は解体し、ロシア連邦が成立した。
大陸では中華民国が毛沢東の共産党に破れて台湾に逃げた。イギリスは日本を敵に回したため、全アジアの植民地を失った。第二次大戦の勝者であるアメリカは、人類初の原爆使用で道徳的な疵を負った。大東亜戦争は不滅と思われた白人の世界支配というパラダイムを打破した。それを矮小化するために、彼らは東京裁判で日本を野蛮な侵略国家と烙印を押し、今も言い続けている。
日米がなぜ戦うことになったのか、人種問題を抜きにしては答えが出ないのだが、東京裁判はそれを捨象している。パリ講和会議で日本は人種差別の撤廃を主張し、最終的に採決を要求した。その結果、日本提案にフランス、イタリアなど賛成11、アメリカ、イギリスなど反対5だったが、議長ウィルソン(アメリカ)は、全会一致でないと提案は不成立だと強引に押し切った。
「人種平等規約」の提案は20世紀の世界史における日本の金星である。日本人は憶えておかなければいけない。アメリカで「公民権法」成立が1964年、国連で「人種差別撤廃条約」が成立するのが1965年。日本の提案を否決してから45年であった。日本人はもともと人種意識や差別意識が薄い。「国家として奴隷制度を持ったことがないのは、日本とユダヤだけだ」と山本七平が書いた。
- 白人は略奪主義だった
- キリスト教はそれを正当化する道具にされた
- 略奪主義の400年間にどんなことが行われたか
この3点を書き切るだけで、世界の人がイメージしている「世界史」とはまったく違ったものができあがるだろう。日本人は人種に対するこだわりが少なく、宗教による縛りもない。客観的で相互批判の可能な世界史を提供できるのは日本だけだ。
著者は、世界が「日本化」する理由を15挙げている。いささか強引である。それが「理由」といえるのか。本文の要点を抜き出しただけではないのか。ずいぶん安易な構成だと思う。たぶん編集者の思いつきで15の理由をひねり出したのであろう。タイトルで「絶対」と名乗るのも好ましくない。とは思うが、スルスル読めて「納得」はできる本だ。
編集長 柴田忠男
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