自宅にお風呂があるのが当たり前のこのご時世、町からは公衆浴場が急速なスピードで姿を消しつつあります。そんな時代に「逆行」するかのように、都内で人気となっているのが銭湯「久松湯」。今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』では著者でMBAホルダーの青山烈士さんが、確固たる信念とユニークな取り組みで人を集め続ける練馬区桜台の「久松湯」の戦術・戦略を分析しています。
企業の哲学
今号は、人気の銭湯を分析します。
● 「久松湯(銭湯)」
戦略ショートストーリー
お風呂が好きな方をターゲットに「まるで自然の中での入浴感を楽しめる」「安い、コスパが高い」「光の演出を楽しめる」等の強みで差別化しています。
銭湯の価格で、天然温泉の露天風呂や充実した施設、プロジェクションマッピングなど他の銭湯では味わえない価値を提供することで、顧客の支持を得ています。
■分析のポイント
家の近所に銭湯がありますが、煙突があって、瓦屋根で歴史を感じる外観で、屋内は浴槽と洗い場、脱衣所だけのシンプルな作りです。恐らく既存の多くの銭湯が近いイメージだと思います。
「久松湯」はそういった既存の銭湯のイメージとは大きく異なります。グッドデザイン賞を受賞するような銭湯ですし、プロジェクションマッピングまでありますからね。
実は「公衆浴場」には区分がありまして「普通公衆浴場」と「その他の公衆浴場」に分類されます。「普通公衆浴場」は一般的な銭湯のことです。「その他の公衆浴場」は、スーパー銭湯などが該当します。
「普通公衆浴場(銭湯)」の料金は都内一律となっていますので、料金を変えることはできませんが、「その他の公衆浴場」は料金の規制を受けません。つまり、「普通公衆浴場」である銭湯はデザインや設備に投資をしても入浴の料金を上げることができないのです。
普通に考えれば、「久松湯」も料金の規制を受けないスーパー銭湯として運営すれば良いように感じますよね。ですが、「久松湯」は公衆浴場は「地域のコミュニティの場」であるという創設者の一貫した考え(原点)をしっかりと受け継いでいて、「普通公衆浴場」への強いこだわりを持っているのです。そのこだわりがあることが、低価格で入浴できる銭湯として運営していることにつながっているのです。
そして自分たちを「地域のコミュニティの場」として位置付けているからこそ、自然の中での入浴感を楽しめることや休憩所に床暖房を入れることなどで、顧客がゆっくりと過ごせる環境づくりに力を入れていると言えるでしょう。
「久松湯」のように企業の哲学といえるような価値観が明確で、その価値観を実際のアクションに反映できていることは素晴らしいと思います。
現代は、家庭にお風呂があるのが当たり前の時代ですから、銭湯としても、銭湯に行く理由を創り出す必要があると思いますが、「久松湯」は原点に立ち返ることで、これからの銭湯の一つの形を示した好事例だと思います。
今後の「久松湯」に注目していきたいです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):天然温泉を楽しめる公衆浴場(銭湯)
- 競合(お客様の選択肢):天然温泉やスーパー銭湯、他エリアの公衆浴場(銭湯) など
- 状況:公衆浴場(銭湯)は減少傾向のようです
■強み
1.まるで自然の中での入浴感を楽しめる
- 明るい空間
→トップライト(天窓)がある - 露天風呂がある
2.安い、コスパが高い
- 露天風呂は天然温泉
- 施設がきれいでスタイリッシュ
- ゆっくり過ごせる(休憩所には床暖房あり)
3.プロジェクションマッピングによる光の演出を楽しめる
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
- 公衆浴場は「地域のコミュニティの場」であるという創設者の一貫した考え
- プロジェクションマッピングを手掛けたのは、著名なアーティストであるアトリエオモヤ
上記のような、考え方(企業としての哲学)やオリジナリティなどが強みを支えています。
■顧客ターゲット
- 温泉が好きな方
- 露天風呂が好きな方
- 銭湯が好きな方
- コスパを重視する方
- 自然が好きな方
◆戦術分析
■売り物
「銭湯(公衆浴場)」
- 「光と風、雑木林の中の銭湯」がテーマ
- 天然温泉の露天風呂、炭酸泉と入替え季節風呂、ジェット、電子マッサージ等の機能風呂を設置
- フロントと休憩所が床暖房付き
- 待合いロビーにはリラクゼーションコーナーも併設している
→ボディマッサージ、アロマセラピー、足底リフレ、スカルプ頭皮マッサージ、タイ古式マッサージ - 業界初のプロジェクションマッピングを使った光の演出
→日没~22:45頃までの間、1回15分×4パターンを連続再生
■売り値
- 都内一律の公衆浴場料金である460円(大人1名料金)
→大人(12歳以上)460円、中人(小学生)180円、小人(未就学児)80円、サウナ別料金400円
■売り方
- 2015年度グッドデザイン賞を受賞
■売り場
- 東京都練馬区桜台(西武池袋線 桜台駅 徒歩約5分)
- 営業時間11:00 – 23:00
- 定休日毎週火曜日
※ 売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: Kim.Long / Shutterstock.com