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米中戦争の開戦は秒読み段階。南シナ人工島をアメリカが先制攻撃へ

先日掲載の『先の大戦前夜に酷似。米中が加速させる分断と「一触即発」の危機』等の記事でもお伝えしている通り、米中関係が緊迫しています。領土を拡大しようとする中国と、それを許さないアメリカ。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、米中の対立は日を追うごとに先鋭化しているとし、いつ開戦してもおかしくない状態だと語っています。

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今度こそ開戦不可避。ルビコン川を渡った米国の本気度

ここ数週間にわたって、【米中対立がついにPoint of No Returnを越えてしまったのではないか】とお話ししてきました。

これまでは、米中貿易戦争や報復関税措置の応酬といった経済的な覇権争いや、南シナ海における米中の制海権を巡る安全保障上の動き(特にアメリカによる中国の太平洋進出の阻止と、中国の南シナ海における領有権主張と軍事拠点化)というように【ピンポイントでかつフォーカスが絞られた覇権争い】という印象で、ほとんどの場合、政治・外交的な解決を図るべく、互いに妥協を引き出すという性格のものでした。

しかし、ここ1か月ほどのアメリカからの中国攻撃は、ついに中国政府、特に【中国共産党を悪とみなすイデオロギー戦争】に発展してきた様相を呈しており、それはアメリカのトランプ政権のみならず、議会両院も巻き込んだ『中国の全否定』にまで発展していて、まさに2国の覇権争いは、一線を越えたと言わざるを得ない状況です。

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中国政府もこれまで通りに真っ向から対立し、一歩も退かない姿勢を貫いていますが、実際にはこれまでにないほど北京の指導部と人民解放軍の緊張感と警戒レベルが上がっているようです。

このメルマガの読者でもおられる方から情報をいただいたのを機に、いろいろと調べてみたのですが、いくつか非日常的な異常状態が起こっているようです。

臨戦態勢に入った中国は、南シナ海域に全軍を集中

例えば、中国ではこの時期、官僚たちも長期の夏季休暇に入るのですが、今年は夏休み返上で対米有事に備えて北京に留め置かれており、政府内では臨戦態勢を取っているようです。

また北京の情報筋によると、同じ動き(命令)が人民解放軍にも出されており、隊員には一切の休暇が許可されず、全軍による最高レベルでの警戒態勢に入っているようです。表面的には『アメリカに対して一歩も退かない』と強気の姿勢を保っていますが、内心ではアメリカの出方に対して気が気ではないようです。

もう一点気になる点が、110日以上連続していた中国艦船による尖閣諸島周辺海域への侵入が8月4日に止まりました。これまでは日本からの抗議に対しても真っ向から反論し、日米同盟の連携とアメリカのコミットメントの強度を見極めていたように思われますが(実際にそのような発言をする政府の幹部も多くおりました)、アメリカの対中強硬度が予想以上に急激にぐんと上がってきていることを受けて、戦略的な見直しが中国政府内および人民解放軍内で行われた模様です。

これまでは【南シナ海】、【東シナ海(尖閣諸島海域と沖ノ鳥島周辺)】、【台湾海峡域】というように少なくとも3方面でアメリカへの安全保障上の対決姿勢を強めていましたが、ここ数週間のトランプ政権とアメリカ政府による【南シナ海における中国の領有権主張への全面的な否定】と【中国共産党の全面否定】の本気度が明らかになってきたことを受け、『恐らく攻撃のターゲットは南シナ海ではないか』との理解から、現時点では全軍の注意を南シナ海域に向けているようです。

以前の習近平国家主席の『南シナ海における中国の領有権は中国にとって不可分の国家的利益』(中国のリーダーシップによるOne Asiaの実現)という“指導”を受けた戦略的な配置転換ではないかとも思えます。

しかし、私は習近平政権にとっての外交安全保障上の最重要事項は、香港と台湾を対象にしたOne Chinaの一日も早い実現(中国共産党によるリーダーシップの確立)だと見ているため、香港(と台湾)問題への対応が米中、そして欧米と中国間でどのような形で“発展”していくかによって、南シナ海情勢の喫緊度は変わってくると考えます。

「南シナ海人工島攻防戦」に向け防御を固める中国

米欧諸国の出方を探る目的でしょうか。習近平国家主席とその政権は、9月に予定されていた香港議会の選挙を“コロナ理由”で1年間延期するという決定を行いました。

実際には、以前にも触れたように、民主派勢力への弾圧のための時間稼ぎというのが本当の目的だと思われますが、同時にアメリカの太平洋艦隊との戦端が開かれるのではないかと予想される南シナ海からアメリカの目をそらす狙いもあるのではないかと考えます。

その表れに選挙実施の延期を発表してすぐに、香港国家安全維持法に即した民主派と目される活動家たちの逮捕が相次ぎ、欧米諸国からの非難が“予定通り”に高まり、メディアも香港の問題を大きく取り上げています。

しかし、その反面、南シナ海での中国軍の実戦的な演習の内容についてはあまり取り上げられていませんが、可能性が高まっていると“認識”されているアメリカによる南シナ海に位置する中国の人工島と軍事拠点への攻撃に備え、それらの防衛と徹底抗戦に備えた準備を進めているようです。

例えば、尖閣諸島海域への侵入にも用いられた空母・遼寧を中心とする攻撃群もすでに南シナ海海域に派遣されているとの情報もありますし、朝鮮半島有事による北朝鮮からの難民流入を防ぐための中朝国境に配備されていた部隊も近く南シナ海周辺への配置転換が行われる予定とのことです。

もしここで北朝鮮が何らかの挑発的な動きを再開し、それにアメリカや韓国などが反応を迫られるような事態になったら、さらに事態は複雑化しますが、この話題はまたにしましょう。

中国政府と人民解放軍内では対米開戦(アメリカからの攻撃)の可能性について準備が始まり、緊張感も高まっているとのことですが、アメリカ国内はどうでしょうか。

バイデンが次期大統領になっても戦争は避けられない

結論から申し上げると、南シナ海における中国の人工島への攻撃は政策上のオプションにhigh priority matterの一つとして加えられているとのことですが、なかなか欧州や日本といった同盟国や、南シナ海に位置する関係国であるフィリピンやインドネシア、ベトナム、マレーシアなどからの同意を取り付けるのに苦慮しているため、実行するか否かは【中国の出方】と【トランプ大統領の“思いきり”】次第とされています。

ゆえにポンペオ国務長官をはじめとするトランプ政権幹部が毎日のように『対中強硬派としてのステートメント』を発し、これまで行ってこなかった【中国共産党が悪の根源】とするイデオロギー戦争をはじめ、そして【これまでの“寄り添い”型の政策では中国は民主化されなかったため、今、中国共産党による民主主義への暴挙を止めるためには我々が行動しなくてはならない】とのコメントを連日発することで、『アメリカは本気で中国と対峙する用意があるぞ』というメッセージを中国に投げかけ、【自主的な変革へのラストチャンス】というメッセージを送っているものと思われます。

ちなみに、この論調について、『11月の大統領選挙でバイデン氏が次の大統領に選ばれたら状況は変わるだろう』という非常に楽観的な意見を耳にしますが、気候変動問題や国際機関への対応は反転すると予想されますが、対中強硬論と強硬策については、現在の路線が踏襲されるか、強化されるというのが現実だと考えています。

ですので、トランプ政権の幹部が繰り返す対中強硬論はすでにアメリカの政治のコンセンサスとなっており、今後も変わることはないでしょう。

中国の側からすれば、非常に勝手でかつ一方的な主張だと考え、逆にアメリカの帝国主義的な思考を批判したくなるところでしょうが、あえて王毅外相などの外交的なチャンネルを通じた受動的な反応と反論に止めて、中国の側から武力衝突を誘発しないようにしたいとの思惑が透けて見えます。

その背後で軍事的な攻撃に備える姿勢を整えつつ、欧州各国を何とかアメリカとの緩衝材に使いたいと考えて、フランスやドイツ、英国に対する外交的な働きかけを強めています

ヨーロッパや各国は米中どちらにつくのか?

フランスについては、比較的、中国の主張も取り入れ、中国との経済関係の維持・強化に重きを置いた対応をしていますが、英国については、中国への遠慮はありつつも、香港問題と絡めて、中国に対しては強硬的な態度を示さざるを得なくなっています。

英国は南シナ海における米中の軍事的な衝突は望まないが、究極的には香港やインド・パキスタンなどのcommonwealth諸国(旧英国領諸国)に火の粉が降りかからなければ良しとするという態度を取っているように思われます。

ドイツについては、これまで比較的親中国とされてきましたが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて政権内や国民感情が反中国になってきていることを踏まえ、米中両国に自制を促しつつも、積極的にアメリカも中国も支持しないという立場を取っています。

ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルなどの南欧諸国もそうでしょう。そして、中国からのアプローチが激しい中東欧諸国については、中国への“恩義”はあるものの、本件にはあえてコミットしていません。

見ての通り、欧州は一枚岩ではなく、【アメリカとUnited Europeによる中国攻撃】という最大の脅威を防ぐことが出来そうだという点では、中国政府にとってはある程度、目的は達成しているのかもしれません。

では、実際の開戦の可能性についてはどうでしょうか。

アメリカが人工島を攻撃。そのとき中国側の作戦は?

トランプ政権としては、退くに退けない状況を自ら作り出しています。(私がよく使う“振り上げた拳を下す術を失った状態”です)政権内の反中強硬姿勢もそうですが、それに加えて、議会上下院の超党派的な中国強硬論にも後押しされ、そこに大統領選を戦うバイデン氏も加わり、このままいけば何らかの形で習近平国家主席と中国共産党の中国と衝突しなくてはならなくなるかもしれません。

そこに【大統領と政権への支持率浮上のきっかけとして戦争が有効】というこれまでの例もあり、現在、11月の大統領選に向けて支持率回復に苦慮しているトランプ大統領としては、“やらざるを得ない”という判断に傾くかもしれません。

その場合、あまりcivilian causalitiesを出したくないトランプ大統領としては、最も民間人の被害が出づらく、またアジア・太平洋地域の主導権を取り戻すにあたり、最も有効な対象が南シナ海における中国の人工島と軍事拠点だと言えます。

もしフィリピンやベトナムからの“同意”が得られたら、規模については議論の余地がありますが、南シナ海を舞台に戦闘がおこるかもしれません。

そこで有事の場合、中国はどう反応するか。南シナ海海域は【不可分の国家的利益】とさえ習近平国家主席が呼んだエリアですので、“何もしない“という選択肢はないものと思われますが、全面的な戦争に発展することもないでしょう。

仮にアメリカから”中国が領有権を主張する“南沙諸島海域と西沙諸島海域の人工島に対して攻撃が行われた場合、その攻撃に対する反撃は行わざるを得ないでしょうが、もし私が中国のアドバイザーならば、反撃はそこで止めておき、『米国が覇権主義に則って、アジアに一方的に刃を向けた。これは明らかな国際法違反だ!』と外交的に非難をして、武力対立をエスカレートさせる代わりに外交的な争いに持ち込み、周辺国はもちろん、世界各国をこの外交的な戦いに引きずり込むことを進言します。

それが全面戦争を回避し、そこから波及して始まる他の火種への引火を防ぐ唯一の手段だと考えるからです。

仮にアメリカが攻撃を以て南シナ海の人工島と軍事拠点を破壊した場合、その“落とし前”をどこでつけるかはその後の外交的なやり取り次第ですが、米ソ間では起こらなかった超大国間での武力衝突が与える国際秩序への影響は、かなり大きくなるものと思われます。

米中の狭間で、日本はどう対応するべきか?

南シナ海を舞台にした米中の軍事的な衝突の恐れは高まっていると思われますが、願わくは、かつてのキューバ危機のように、両超大国が交戦の寸前で思いとどまることができるように祈っています。

しかし、トランプ大統領とその周辺、そして習近平国家主席とその周辺に、ケネディー・フルシチョフ両首脳のような駆け引きが、まだ出来るかどうかは分かりませんが。

あとは、個人的な願いですが、米中の直接対決が激化した場合、彼らのミサイルが上空を行きかうことになってしまう我が国日本が、両国にまだ顔が効くという特殊な状況を最大限生かして、悲劇が現実化する前に、何とか仲裁・調停のために奔走してほしいと切に思います。

新型コロナウイルス感染拡大が続き、国内でも対応に追われる中、日本がこのような重責を果たすのは困難にも思えますが、米中両国に振り上げた拳を下させるきっかけを作るmediatorの役割を果たせるのは、私は日本しかないと考えています。

アメリカ大統領選挙は予定通り11月3日に開催されることになりそうですが、それまでにあまり時間が残されておらず、何としても再選のために支持率浮上のウルトラCが欲しいトランプ大統領としては、対中開戦の指示書に署名する一歩手前まで来ているかもしれません

中国政府と人民解放軍もその事態に備えているようです。緊張は間違いなく高まる一方です。

国連にも、欧州各国にも果たすことが出来ない非常に重要な国際的な役割を、ぜひこの機会に、日本には果たしてほしいと願います。皆さんはどうお考えになりますか?

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image by : Evan El-Amin / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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