菅首相の「推薦候補6人の任命拒否」により、にわかに注目を浴びることとなった日本学術会議。各界で同会議を擁護する動きが高まっていますが、彼らと中国の間の「不都合な関係」を疑う声もあるようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、「軍事目的のための研究を行わない」と宣言している同会議が、人民解放軍と無関係のはずがない中国の「千人計画」に積極的に協力しているとするリポートを紹介。さらに彼らを始めとする日本の学者たちが、他国の軍事技術や侵略に寛容な理由を明らかにしています。
【一部訂正のお知らせ】
※10月9日の記事初出以降の報道内容等を踏まえ、本文の一部を修正しました。具体的な修正内容につきましては記事本文最後に記載しております(2020年10月15日)
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年10月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【日本】なぜ日本の学者は中国の軍事的脅威をわざと無視するのか
日本学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人を菅首相が任命拒否したということが大きな話題となっていますが、同会議の問題点が次々とあぶり出されている点は、非常に意義があることでしょう。
マスコミなどは、この6人が安倍政権の安保法制などに反対していたから排除されたかのような報じ方ですが、菅首相はそのことを明確に否定していますし、日本学術会議が発表した新会員99人の名簿を見ても、平田オリザ氏など、安倍政権に批判的だった学者が含まれており、反安倍派を意図的に外したという説明には矛盾があります。
私は今年2月19日号のメルマガで、「軍事目的のための科学研究を行わない」と宣言している日本学術会議が、軍事目的の科学研究を行っている中国科学院と交流していることの危うさを指摘しました。
今回の任命拒否で、日本学術会議をはじめ、野党やマスコミ、芸能界などからも「学問の自由が犯される」といった批判が出されていますが、べつに日本学術会議の会員にならなければ学問ができなくなるわけでもなく、学問の自由の問題とはまったく無関係です。
彼らの主張はどことなく、日本の輸出管理において、アジアで唯一「ホワイト国」として優遇されていた韓国が、ホワイト国から除外されて他のアジア国と同じ扱いになったとたんに、「差別的措置だ」などと既得権死守に躍起となった姿と似ていると感じるのは、私だけでしょうか。
しかもかつて日本学術会議は、2016年に防衛省の安全保障技術研究推進制度に応募した北海道大学に対して、これを「軍事研究」と決めつけ、2017年3月24日付の「軍事的安全保障研究に関する声明」で批判、学術会議からの事実上の圧力で、北海道大学は研究を辞退せざるをえなかったことも明らかになっています。
その一方で、日本学術会議は軍事研究を行っている中国の科学機関と連携しており、海外の技術を中国に持ち込ませるために世界中の中国人科学者や外国人科学者を中国に呼び込む「千人計画」に実質的に協力しているといえます。
米国で次々と逮捕される「千人計画」に参加した学者
自民党における、国際的なルール形成を審議するルール形成戦略議員連盟の会長である甘利明氏は、2020年8月6日の「国会リポート第410号」で、以下のように書いています。
日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の「外国人研究者ヘッドハンティングプラン」である「千人計画」には間接的に協力しているように映ります。
他国の研究者を高額な年俸(報道によれば生活費と併せ年収8,000万円!)で招聘し、研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させるプランでその外国人研究者の本国のラボまでそっくり再現させているようです。そして研究者には千人計画への参加を厳秘にする事を条件付けています。
中国はかつての、研究の「軍民共同」から現在の「軍民融合」へと関係を深化させています。つまり民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体であると云う宣言です。軍事研究には与しないという学術会議の方針は一国二制度なんでしょうか。
そもそも民生を豊かにしたインターネットが軍事研究からの出自に象徴されるように、機微技術は現在では民生と軍事の線引きは不可能です。更に言えば、各国の学術会議は時の政府にシンクタンクとして都度適切なアドバイスをしています。
評価されたドイツのメルケル首相の会見もドイツアカデミーの適切な助言によるものと言われています。学術会議には日本の英知としての役割が期待されます。政権の為ではなく国家の為にです。
日本学術会議のホームページによれば、同会議は中国の「民間組織」だという中国科学技術協会とも協定を結んでいますが、中国には純粋な民間組織などありえません。実際、日本学術会議のレポートでも、中国科学技術院の経費の67%は政府からの支出、その他は事業収入だとしています。中国科学技術協会も当然、「千人計画」に関連していることは間違いありません。
今回任命拒否された学者の一人がテレビに出て、菅政権の批判を展開していましたが、「日本学術会議の学者が千人計画に協力しているなんて聞いたこともない、デマじゃないですか」と述べていました。
しかし、アメリカで「千人計画」に参加した学者が次々と逮捕されていることは、メディアでも大きく報じています。アメリカ政府から補助金をもらっている学者が、中国のために研究を行い報酬を得て、それを隠していたということで、詐欺罪で逮捕されるケースが多いのです。
- 1月28日 ハーバード大学科学・科学生物学部の学部長チャールズ・リーバー氏が「千人計画」に参加、多額の報酬を得ていたにも関わらず、これを隠蔽した詐欺の容疑で逮捕。
● ハーバード大の研究者を逮捕、中国との関係巡り虚偽の説明-米当局
- 3月10日、ウェストバージニア大学の物理学科の教授を務めていたジェームズ・パトリック・ルイス博士が虚偽の申請で有給休暇を不正取得して「千人計画」に参加していた詐欺の容疑で逮捕。
● 米司法省、千人計画に参加の米教授を起訴 偽りの休暇取得で
- 5月12日 アメリカ司法省は、元エモリー大学教授で中国系アメリカ人生物学者の李暁江が、「千人計画」に参加し中国の大学に所属していたが、連邦税申告書で海外所得を申告しなかった虚偽の収入申告を提出した罪で有罪判決を受けたと発表。
● 米エモリー大教授、中国「千人計画」参加 虚偽申告で有罪
- 7月30日 「千人計画」に参加し、夫と共謀して勤務先の研究所から企業機密情報を盗み出して中国で会社を設立していた中国出身の科学者の陳莉が、米地方裁判所で行われたビデオ会議で罪を認めた。
● 米企業機密盗んだ中国人女性科学者、千人計画参加を認める
その他、まだまだ逮捕事例はたくさんあります。また、オーストラリアや台湾でも中国による学術界への浸透工作、技術盗窃は数多く暴かれています。
日本の学会が他国の軍事技術や侵略に寛容な理由
日本学術会議のメンバーに推薦される人物が、そのような国際状況を知らないはずがありません。「自分のまわりでは聞いたことはない」というのは、よほど危機感のない能天気な人物か、あるいは中国が無視するようなつまらない研究しかしていないということなのでしょう。どちらにしても、日本の科学技術を守り、発展させるような人物ではないということです。
あるいは「軍事研究をしない」と宣言している以上、たとえ軍事関係であっても、「軍事とは関係ない」という脳内変換が起こるのかもしれません。
私の新刊『親中派の崩壊』にも書きましたが、アメリカの国務省関連のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、2020年7月末に「日本における中国の影響力」という報告書を発表、そのなかで中国が世界各国で展開する孔子学院をスパイ活動の拠点だと示唆しています。
そのためアメリカでは孔子学院を閉鎖する動きが加速していますが、日本では全国で15校開設されており、ほとんど問題視されていません。これも、孔子学院をスパイ拠点だと考えることが「軍事研究」につながるということで、日本の学者や学会は「考えないようにしている」のではないかと思うのです。
だから日本の学者や学会は「他国によるスパイの危険性」「他国からの侵略」ということに思いが及ぶことがないのでしょう。たぶん彼らは、中国からミサイルから飛んできても「人工衛星ではないか」「一発なら誤射だろう」と考え、軍事行動だとは考えないようにするのではないでしょうか。軍事行動だとみなして中国の意図や戦略を考えることは軍事研究にあたりますから、「考えないようにする」わけです。
もっとも、日本にはスパイ防止法もないわけですから、学者のみならず政治家の怠慢も批判されるべきでしょう。
日本は戦後、GHQの公職追放によって、国立大学からマスコミのトップまで首がすげ替えられました。当然、東京裁判を支持するような人たちが社会の中心になったわけです。法曹界もアメリカ謹製の日本国憲法を敬うような学者ばかりになりました。
私も一時、大学で教える立場にいましたからわかるのですが、学会はムラ組織であり、代々、そこで通用してきた論理を弟子たちが継承し続けなくてはならず、異論を掲げるものはメインストリームから排除されます。だから憲法学者のほとんどが護憲論者なのです。
こうして戦後の各学会は東京裁判史観を代々受け継ぐかたちで既得権益化していったのです。渡部昇一氏は、このように日本の敗戦によって得た利益を既得権益化する者たちを「敗戦利得者」と呼びました。
日本学術会議をはじめとする日本の学会が日本の軍事技術には絶対協力しないと宣言し、戦前の日本を侵略国と定義したがる一方、他国の軍事技術や侵略に寛容なのは、そういうわけなのです。
【訂正箇所について】
- 当初の原稿では『「日本学術会議の幹部が北大総長室に押しかけて圧力をかけ、研究を辞退させたことも明らかになっています』としていましたが、そのソース元である奈良林直氏が、「日本学術会議の幹部が北大総長室に押しかけたという事実がなかった」として訂正されていますので、 『これを「軍事研究」と決めつけ、2017年3月24日付の「軍事的安全保障研究に関する声明」で批判、学術会議からの事実上の圧力で、北海道大学は研究を辞退せざるをえなかったことも明らかになっています』に訂正し、ソース元の文章へのリンクを張りました。
- 引用した甘利氏のブログを、甘利氏が『「千人計画」には積極的に協力しています』→ 『「千人計画」には間接的に協力しているように映ります』と修正したことを受け、引用文もそのように修正しました。また、本文も『 「千人計画」に協力しているのです』を『「千人計画」に実質的に協力しているといえます」と修正しました。
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image by: Hanonimas / CC BY 3.0
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