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心理学者も騙される「現品限り」「今日だけ」販売手法の甘い罠

ブラックフライデーやサイバーマンデーに続き、年末年始は、クリスマスセールに福袋に新春バーゲンと、次から次へと襲ってくる「今日限り」と「○割引き」と「おまけ」の惹句につられ、しっかり検討もせず買ってしまうなんてことになりがち。今回のメルマガ『富田隆のお気楽心理学』では、自らが「騙され上手」と語る心理学者の富田隆さんが、買い手の心理を巧みに操る売り手のテクニックを解説。裁判にまで発展し身を持って理解した騙されやすい人の性格についても綴っています。

騙され上手

「心理学を研究しているくせに、こんな簡単なトリックに引っかかるなんて…」学生時代に、私の友人は、よく呆れて言ったものです。実際、彼の言う通りで、私は当時からよく騙されていました。

たまたま、彼と一緒に青山通りを散歩していて、自転車屋の前を通りかかりました。すると、折り畳み式の自転車が「現品限り」ということで、3割引きで売られていたのです。元の値段が赤線で訂正されていて、割引した価格が赤い字で大きく書かれています。私は、素直に「安い!」と思い飛びついてしまいました。

友人は「これ、本当にこの元値で売られていたの?」と訊きます。そう言えば、何ヶ月ぶりかでこの辺りを歩いたので、この自転車が元値で売られていたのを見た記憶はありません。それでも、ちょうど自転車が欲しかったので、有り金をはたいてそれを買ってしまいました。

それからまた数か月が経ち、私はその自転車に乗って、それを買った店の前を通りかかりました。すると、「現品限り」だったはずの私がその時乗っていた自転車と全く同じ自転車が、当時と同じ「3割引き」の値段で売られていたのです。友人の言う通りでした。

【デッドライン・テクニック 】

まあ、自転車の場合は、もともと自分の側にちょうど「自転車が欲しい」という購買動機があったわけで、「現品限り」は「最後の一押し」として働いただけのことですから、被害に遭ったわけでもなく、その後しばらくはその自転車を愛用していたので、何の問題もなかったわけです。

しかし、「現品限り」というのは典型的な「デッドライン・テクニック」と呼ばれる手法です。「本日限り」とか「タイムセール」といった具合に、商品や特典を得られる「デッドライン」を設定して、消費者に「今買わなければ」という焦りを引き起こすのです。実際、私はその自転車が「最後の一台」だと思っていたわけで、まんまと引っかかってしまいました。

付け加えれば、赤字の「3割引き」という特典も、買おうかどうしようかと迷っている人に、「おまけに、今なら3割引き!」というプラスアルファを示すことで決断を促す、「ザッツ・ノット・オール」と呼ばれるテクニックです。テレビショッピングなどで、割引きや先着何名様限りとさんざん購買欲を煽った後で、さらにプラスアルファの「おまけ」をつけるのも、このテクニックです。

そんなわけですから、確かに、友人の言う通りで、こんな典型的な詐欺?(販売テクニック)にひっかかる心理学者なんて、笑えますよね。

【裁判沙汰】

その後も、私の「騙され上手」ぶりは、続いています。最悪だったのは、「映画や雑誌を製作するから」という甘い言葉に誘われて、某会社の社長に祭り上げられたことです。さすがにこれは危なかったです。社長になってみると、その会社の経済状態は滅茶滅茶、家賃の支払いも滞っている始末。さすがに、これは負債を私に背負わせるのが目的だったのかと気づきました。

ところが、私が社長を辞めると言い出すと、前社長やらその取り巻きの役員やらの態度が豹変しました。辞職は認めないと大騒ぎ。挙句の果てに、前社長の愛人が映画の脚本家をそそのかし、訴訟まで引き起こす始末。世の中怖いですね。テレビドラマのようなことが本当に起るのです。

幸いなことに、私を引き受けた弁護士事務所の先生方がしっかりした人たちで、私の辞職を法的に認めさせ、裁判でも勝つことができました。民事訴訟の場合、現在、およそ8割がいわゆる「和解」という形で決着するのだそうです。なんとなく、「訴えた者勝ち」「ごね得」という感じがしませんか?実際に有罪無罪の判決が出されるケースは、ごく少ないのです。

しかし、私は弁護士さんたちを信頼していました。場合によっては最高裁までもつれても構わないと腹をくくりました。それが良かったのでしょう。異例の無罪を勝ち取ることができました。第一審の無罪判決が出た時点で、私たちの弁護団の迫力に負けた相手側の弁護士は、結局、上告を諦めたのです。

【信じ込みやすさ】

私が「騙され上手」である原因のひとつは、人を信じやすいことにあります。というよりは「信じたくてしょうがない」のかもしれません。

前述の裁判沙汰でも、私は弁護士さんたちを信じました。もちろん、彼らは、裁判の厳しい現実についても隠すことなく私に教えてくれました。民事では前述のような判例の現状があり、完全に無罪を勝ち取ることが難しい以上、和解に持ち込むことも覚悟するようにと告げられました。しかし、私は、彼らが示すわずかな可能性を信じたのです。

こうした体験を通して私が理解したことは、確かに私は「騙され上手」で、これまで何回も懲りずに騙され続けて来ました。しかし、その一方で、私の「信じ込みやすさ」が幸いして、永年に渡る友人を得たり、思いもよらぬ成功を勝ち取ったりしたことも事実なのです。

騙されることも、信じることも、どちらも一種の能力?!で、両者はコインの表と裏なのかもしれません。確かに、物事にはポジティブな面もあればネガティブな面もあります。全てを合算すれば、プラス・マイナス・ゼロなのかもしれません。

そして、そんな欠陥を抱えた私が、どうにかこの歳まで生き延びて来れたのは、ひとえに周りの人たちのおかげです。先ほどの弁護士さんたちはもちろんですが、家族や友人たち、彼らがいなければ私のような者はどうなってしまったか、分かったものではありません。皆々様に、ひたすら感謝の今日この頃です。「ありがたや、ありがたや」

image by: Shutterstock.com

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