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NVIDIAの「Groq買収」は賢い選択だったのか?中島聡が読み解く「GoogleのTPUを挟み撃ち」する戦略的意図

NVIDIAがAIチップベンチャーのGroqを買収しました。Groqは元Google初代TPU(Google開発の機械学習に特化したプロセッサ)設計者が率いる企業で、14nmプロセスながらNVIDIAのGPU(パソコンやデバイスの画像・映像描画を高速化する専用プロセッサ)を大きく上回る推論スピードを実現していました。GPUとは大きく異なるアーキテクチャを持つ企業の買収は驚きでしたが、GoogleのTPUという強力なライバルへの対抗策として納得の選択でもあります。メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で著名エンジニア・投資家の中島聡さんが、この買収の戦略的意義と将来性を詳しく解説しています。

※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

NVIDIAによるGroqの買収

先週、質問コーナーで触れたNVIDIAのGroqの買収について深掘りしたいと思います。

このメルマガでは何度も指摘して来ましたが、NVIDIAの強さはNVIDIAのGPUに最適化された開発環境CUDAにあり、その上に作られたライブラリ、および、その開発環境に慣れた開発者・研究者コミュニティにあります。

そのため、自分で新たなニューラルネットを設計する研究者たちにとっては、NVIDIAのGPUがデファクト・スタンダードであり、それ以外の選択肢を選ぶ理由はありません。

結果として、ニューラルネットの学習プロセスにおけるNVIDIAの強さは圧倒的です。学習プロセスにおけるライバルとしては、GoogleのTPU(Google自身が活用)とAmazonのTrainium(Anthropicが活用)がありますが、99%の学習がNVIDIA上で行われていると考えて間違いはありません。

しかし、推論プロセスに関しては必ずしもNVIDIAの独占状態とは言えません。TeslaやGoogleは独自のチップを活用しているし、AMDも徐々にシェアを増やしています。

推論特化のAIチップベンチャー

そんな中で、誕生したのが、主に推論用に最適化されたAIチップを提供する、AIチップベンチャーです。

今回、NVIDIAに買収されたGroqを筆頭に、Cerebras、SambaNova Systems、Tenstorrentなどがありますが、どこにも共通するのは、ニューラルネットの推論プロセスに特化させることにより、汎用のGPUよりも、早くて消費電力が少ないことを目指しています。

その中で、Groqは、元Googleで初代TPUを設計した人が率いるAIベンチャーで、枯れた技術である14nmプロセスで作ったにも関わらず、NVIDIAのGPUを大きく上回るトークンのスピードを誇るチップ(LPU: Language Processing Unit)を作り、実際にウェブ上のサービスとして誰もが体験できるようにした点で際立っていました。

Groqは、各チップに、速度が遅くて大容量DRAMを置くのではなく、容量が小さいけれど高速なSRAMを置くことにより、個々の行列計算のスピードを上げただけでなく、コンパイル時にどのチップでどの計算をするかを決めてしまうことにより、制御用の回路を排除することにより、計算資源のダイナミックな割り当てなどの複雑な制御が必要なGPUと比較して高速に計算を行うことを可能にしました。

1チップあたりのSRAMは230MBと、数十GBを搭載するGPUと比べると桁違いに小さいため、大きなパラメータ数をもつニューラルネットの処理には、数百個のLPUが必要ですが、複数の推論プロセスをパイプラインとして流せるため、ウェブ上のAPIサービスとして提供する際には問題はありません。

NVIDIAのGPUとは大きく異なるアーキテクチャですが、決まったニューラルネットの推論を繰り返し処理するには適したアプローチです。実際に推論のスピードを体験できることもあり、私は高く評価しており、NVIDIAから(サーバー側での)推論の市場を奪うポテンシャルを持つAIベンチャーだと見ていました。

しかし、資金力・ブランド力に欠けるベンチャーが、実際の市場で存在感を出すのは非常に難しく、Groqも初速は良かったものの、その後、実際の推論市場でシェアを確保することはできていませんでした。AIサービス市場が、OpenAI、Google、Anthropicなどの数社による寡占状態で推移する中、どこか大手に採用されない限りは、大きなシェアを持つことは不可能だったとも言えます。

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GoogleのTPUを挟み撃ちにする戦略

そんな中で発表された、NVIDIAによるGroqの買収(帳簿上は会社ごとの買収ではありませんが、実質的な買収です。詳しくは最下段の注釈を読んでください)は、驚きではありましたが、納得の行く買収でもあります。

驚きだったのは、Blackwell、Rubin、Feynmanと既定路線のGPUの進化を押し進めているNVIDIAが、GPUとは大きく異なるアーキテクチャのチップを提供する会社を買収することを選択した点です。NVIDIAのビジネスモデルは、常に世界で最先端の半導体技術を集めた高性能のGPUを市場に提供し続けることにより、1チップあたりの値段を高く維持し、高収益を上げ続けることにありますが、枯れた技術で作られたLPUは、そのビジネスモデルに水を刺すことになりかねません。

しかし、これまで敵なしと思われていたNVIDIAのGPUにも、GoogleのTPUという強力なライバルが誕生し、ついにOpenAIやAnthropicに対しての外販まで始めたことに、NVIDIAの経営陣が危機感を抱き始めていたことは確かだと思います。

現時点では、TPUが適用できる範囲は限定的ですが、NVIDIAの顧客の多くがTPUを活用するようになれば、NVIDIAのGPUの価格に下降圧力がかかることは避けられません。

LPUの技術を入手することにより、「最先端の半導体技術を使った汎用的なGPU」と「汎用性には欠けるが、枯れた技術で作られた高速な推論プロセッサであるLPU」でGoogleのTPUを挟み撃ちにして、TPUが適用できる範囲を狭めて行くという戦略を採用できるようになった点は、今回の買収の最大の利点と考えても良いと思います。

爆発する推論需要への対応

また、最近になって注目を集めて来たDRAM不足、DRAMとGPUコアを接続するCoWoS (Chip on Wafer on Substrate)プロセスの逼迫、2nmプロセスの価格高騰なども、NVIDIAをGroqの買収を後押ししたと考えることも可能です。

上に書いた通り、NVIDIAのGPUは、世界の最先端の半導体技術を結集して作られたものだからこそ、他者が追いつくことができない性能を誇りますが、それゆえ、製造コストは高くなるし、製造ラインの確保も簡単ではありません。需要がいくら伸びても、製造がそれに追いつかなければ、せっかくの需要に応えることができません。

その意味では、14nmのような枯れたプロセスで、かつ(供給が逼迫している)DRAMを使わないLPUを製品のラインアップに加えることは、これからさらに爆発的に伸びると予想される推論需要に柔軟に応えるという意味でも、とても大きな役割を果たす可能性があります。

株式市場は、この買収のニュースを受けてほとんど動きませんでしたが、私はとても高く評価しています。売り上げや利益に反映されるまでには、2〜3年はかかると思いますが、その時になって、「2025年のGroqの買収はとても賢い選択だった」と言われるようになると私は期待しています。

【注釈:買収の形について】

上に「買収」と書きましたが、表向きには会社の買収ではありません。会社を買収するとなると、独占禁止法上の調査が政府から入り、許可が降りない可能性があるからです。そのため、表向きは、「技術ライセンスを受けた上で、主要な人物を引き抜く」というビジネス上の取引の形にしてあるのです。

この手法は、NVIDIAだけでなく、GoogleやMicrosoftも採用している、ごく一般的なベンチャー企業の買収方法として定着して来ました。「法律が追いついていない」のが現状で、問題視している政治家もいますが、ベンチャー企業の創業メンバーや、ベンチャー投資家にとっては、大歓迎な話です。

 

(本記事は『週刊 Life is beautiful』2026年1月6日号を抜粋したものです。「私の目に止まった記事(中島氏によるニュース解説)」、読者質問コーナーなどメルマガ全文はご購読のうえお楽しみください。初月無料です )

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