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人気バツグンの高市首相に弱点はあるか?参議院の首班指名で露呈した“政権のアキレス腱”

高市首相の「自己都合」とも取れる衆院解散で、年度内成立が困難視されてきた新年度予算。しかし首相は野党に対して、予算案の通過を強硬に迫る姿勢に出ています。その裏にはどのような「魂胆」があるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、高市氏のしたたかにすぎる「戦術」を詳細に分析。その上で、政権の「アキレス腱」と「野党反転の可能性」について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:予算年度内成立で野党に“踏み絵”を迫る高市首相のしたたかな策略

ここでも高市の「情報戦」。野党に“踏み絵”を迫る首相のしたたかな策略

解散・総選挙で国会審議入りが1か月ほど遅れ、今年度内の成立が不可能とされてきた新年度予算案。てっきり高市首相も諦めているのかと思いきや、第2次内閣発足後の会見で、「年度内の成立を目指してまいりたい」と高らかに決意表明した。

だが、本当にそんなことができるのか。年度内、すなわち3月31日まで1か月ちょっとしかない。与党の算段だと、今月27日に衆院予算委員会を開いて予算案の実質審議に入り、3月13日に衆院を通過させるということだが、いまだ少数与党である参院はどうなるのか。

衆院通過後30日の「自然成立」を待っていては年度内に間に合わない以上、審議を大幅に短縮するほかなく、衆参とも野党の協力が必須になる。

与党から提案された衆院の日程だと、審議時間は計58時間しかないという。当初予算案の場合、衆院では審議時間を70~80時間設けることが目安であり、昨年は92時間だった。

野党としては、以後これを前例にされないためにも受け入れがたく、野党筆頭理事の長妻昭氏(中道改革連合)は即刻拒否したという。だが、強気で押し返したというより、むしろ与党に攻め込まれている感が強い。

高市首相が「年度内成立」にこだわっているのは、もちろん一刻も早く物価高対策や子育て支援を国民のもとに届けたいからだろうが、本心はそれだけではない。「予算が早期に成立しなければ、困るのは国民」。その一点を強調することによって、野党に「踏み絵」を迫っているのだ。

年度内成立に協力する野党は「国民の味方」となるが、「熟議」を主張して審議の短縮に応じない野党は「国民に冷淡」と印象づけられる。それが嫌なら協力せざるを得ないだろう。そんな魂胆が透けるからこそ、野党の困惑は大きい。

そもそも、高市首相が「今なら勝てる」と、予算審議日程を顧みず自己都合解散に踏み切ったのだ。そんな経緯を無視し今になって国民のために年度内成立をと言い出し、野党サイドに責任をなすりつけるような方向に持っていこうとしている。これまでだったら野党が「国会軽視」と政権側を批判し、たっぷりと審議時間をとれば、それで世論も納得しただろう。

だが、野党、とくに「中道」は、衆院選でくっきりと浮かび上がった世論の構造的変化に対する恐れがことのほか強い。中国の強権的なスピード感に圧倒されるなか、日本の「議論ばかりで進まない民主主義」に多くの有権者が苛立ち、早く結果を出す政治を求める声が若年層を中心に強まっている。批判する野党が苦境に陥っている原因はそこにある。

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政権批判が支持率低下を招く「蟻地獄」に直面している野党

こんな風潮を利用した高市首相の「情報戦」が、予算審議の短縮要請だった。予算審議に70~80時間かけるというのは古臭い政治の慣行であって、永田町の論理そのもの。囚われる必要は全くない。年度内に予算を成立させることこそが、国民の期待に応えることだ。そんな高市首相の姿勢に共感し、政治改革の旗手のごとくイメージする人々もいるだろう。

むろん、高市首相はリスクのある論戦を極力回避し、SNSや街頭演説など一方通行の発信を優先する傾向がある。野党から追及される時間が少ないほど都合がいい。だが、この「情報戦」の巧妙なところは、それとともに、「守旧的な野党vs改革志向の高市政権」というイメージをつくり上げる効果を狙っていることだ。

同じような戦略が埋め込まれているものが他にもある。高市首相が消費税減税や給付付き税額控除の実現に向けて設置をめざす超党派の「国民会議」がそれだ。

もともと消費減税は野党が言い出したこと。高市首相はそれを衆院選における自民党の公約として取り込み、「争点つぶし」に成功した。それなら首相の決断で政府案として国会に提出すればいいのに、わざわざ与野党と有識者による「国民会議」なるものを設置して「結論を出す」と言う。

しかも、国民会議と言いながら、中道、国民民主党、チームみらいには参加を呼びかけ、参政党などその他の野党を締め出そうとする。このやり方が何を意図しているのか判然とせず、中道、国民は慎重な構えを示している。

財務省や党内の抵抗勢力を説得するのに「国民会議」は都合がいいのかもしれないが、野党にとってはこの上もなく厄介だ。参加したら「高市政権の補完勢力」と言われ、拒否すれば「減税を訴えていながら、なぜ議論の場に加わらないのか」と批判されかねない。

2月24日に開かれた衆院本会議の代表質問で中道の小川淳也代表は「国民会議の設置に本気なら党首会談を呼びかけてほしい」と迫ったが、高市首相は取り合おうとしなかった。敵方のペースには乗らないということだろう。

この通常国会、本来なら、高市氏をめぐる統一教会問題などを追及すべく野党は手ぐすね引いていたはずである。ところが、世間の関心はそこに向いていかない。原因として最も大きいのが、高市首相の「台湾有事」発言に端を発する中国政府の執拗な高市批判ではないか。

いかに中国から責めたてられようと相手にせず、毅然とした態度を崩さないというのが高市戦略だ。中国側の“言いがかり”ばかりが大きく報じられ“外圧”への反発心が日本国内で燃え盛るほどに、内政のさまざまな問題が小さく見えてくる。

“裏金議員”たちへの怒りはもはや冷めてしまったのか、高市首相が彼らを要職に起用してもさしたる不満の声は世間から聞こえてこない。むしろ、「政権批判」をすればするほどSNSで反発の声が広がり、政党支持率が下がる蟻地獄に野党は直面している。にわかづくりの中道は方向感を失い、参院の立憲民主と公明が合流する見通しも立っていない。

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参院の首相指名選挙「1票差」で野党に残されたかすかな光明

かすかに光明があるとすれば、参院の勢力図くらいのものだろう。首相指名選挙で、高市氏はわずか1票差ながら過半数を取れず、決選投票にもつれこんだ。この状況が何を示すかについて、小沢一郎氏が自身の動画番組でこう語った。

「自民・維新あわせて過半数に達していないことが参議院の首班指名で明らかになった。予算とか外交案件は衆院の議決が優先するが、一般の法律は、衆参同等の議決だ。参院で否決された場合、衆院3分の2以上の賛成で再議決して法律が成立するが、理屈の上では通っても、たとえば国民に不利な法律などは現実問題として非常に難しくなってくる。ここに高市政権のアキレス腱がある」

たしかに、参院における首相指名選挙の結果は高市政権の足元にも脆さがあることを可視化した。「国旗損壊罪」創設、スパイ防止法制定など「国論を二分する政策」については、野党の激しい追及が予想され、第2次安倍政権の安保関連法案のような強行採決は少なくとも参院では難しいといえるかもしれない。

衆院での「数」を背景にした高市首相の強気な姿勢に対し、参院の「1票差」という現実は、野党にとって反転攻勢のための唯一の足場となる可能性を秘めている。これに対し、策士・高市首相がどのような手を打ってくるのかも、今後の政局の見どころとなるだろう。

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image by: 首相官邸

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