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イラン攻撃の“狙いの1つ”か?「原油価格の上昇」でもNY株が下落しなかった米国のしたたかなエネルギー戦略

アメリカとイスラエルによるイラン攻撃という不測の事態を受け、一気に株価を下げた日本市場。しかし「当事国」である米国ニューヨークの株式市場は、現状大きな崩れを見せていません。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、その要因をさまざまな観点を踏まえつつ分析。さらにこの局面でイラン攻撃を選択したアメリカの「エネルギー戦略」について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:イラン攻撃でもNY株が下がらなかった要因

イラン攻撃で原油価格15%上昇。それでもNY株が下がらなかった要因

2026年2月28日、アメリカは、イランに対する軍事行動を再び実施しました。この前に、2025年6月に、イスラエルとの共同で、地下の核施設などを攻撃していました。今回も米国とイスラエルの共同作戦ですが、改めて核施設やミサイル関連の施設に攻撃を行ったばかりか、最高指導者のハメネイ師および、閣僚や軍幹部も殺害したとされています。

トランプ大統領は、2月24日の一般教書演説においては、外交努力を優先するなどといった発言をしていましたし、実際にはクシュナー氏などの外交団を、カタールに派遣して、イラン側と交渉をしていました。ですが、その時点で攻撃の意思決定はされていたようです。

前回、2025年6月には地下施設破壊と同時に、イラン軍の防空施設をかなり徹底して破壊していることから、イラン軍は相当程度、抵抗能力を喪失していたと見られています。ですから、核施設を徹底破壊するということなら、物理的に可能であるし、また実際問題、核弾頭を保有する能力は喪失していたというのが、多くの専門家の見方でした。

ですが、今回、改めて攻撃が実施された理由としては、イランの国内情勢があると言われています。イラン市民の反政府運動に対しては、軍による激しい弾圧が加えられており、国内は不安定でした。そこで最高指導者を殺害するなどの攻撃を加えることで、「政権交代(レジーム・チェンジ)」に誘導するというのが、今回の攻撃の目的だとされています。

そのため、当初多くの専門家が指摘していた「攻撃は数日で終わる」という見通しに対して、トランプ氏は「4から5週間、あるいはそれ以上」の期間を要する作戦だと述べています。ということは、中東全体を巻き込んだ戦争に発展する可能性もあるわけです。

実際に、イラン軍は、米国とイスラエルの攻撃に対して、反撃に出ています。実際に米軍が駐留しているカタール、同じく米国と協調しているバーレーン、UAEのドバイにはミサイル攻撃が実施されました。また、イスラエルにも複数のミサイルが着弾して被害が出ています。また、イランが支援しているレバノンのヒズボラが、イスラエルに対して攻撃を再開しています。

これを受けて、ホルムズ海峡は事実上、航行不能になっていますし、ドバイ、カタールなどの空港は閉鎖されています。一連の事態の結果として、原油価格は一気に15%上昇しました。

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攻撃を受けたイランで想定される「ワーストシナリオ」

これは大変に大きな激動であると思います。この激動を受けて、時差の関係で週明け最も早く相場の開いた東京市場では、日経平均が一時は5万7,300円まで下がり、2日の月曜日の終値でも793円安(マイナス1.35%)の5万8,057円となっています。

ところが、その後に開いたNY市場では、朝方は安く始まったものの、昼までには相場は戻して前日比変わらずといった落ち着きを見せました。終値でも、ダウは0.15%マイナスでしたが、NASDAQは0.36%上げています。これは、非常に分かりにくい動きです。過去には大きな戦乱が始まった際には、有事のドル買いというのはありましたが、同時に株は先行きの不透明感から大きく下げるのが普通でした。今回は、一体何が起きているのか、考察をしてみたいと思います。

まず、今回の作戦では最高指導者ハメネイ氏を殺害、更に閣僚や軍の幹部まで殺してしまいました。これによって、イランの体制は激しく動揺しているのは間違いありません。では、市場はこのイランの体制が「4から5週間で安定する」と見ているのかというと、そうではないと思います。

一つの可能性は、デモを行った結果、現体制から激しく弾圧されている若い世代の世俗のグループが権力を掌握するというシナリオです。いわばイランが宗教国家ではなく普通の共和国になるというわけですが、これは難しいと考えられます。今回のアメリカ・イスラエルの攻撃があった以上は「やはりデモ隊は外敵と通じていた」とされてしまい、イラン国内の漠然としたナショナリズムからは、全面的な支持を獲得するのは難しいからです。

一方で、アメリカの政権周辺からは、1979年の革命の際に亡命したパーレビ国王の息子を、改めて指導者として復帰させる可能性を語る声が出ています。ですが、そもそもパーレビ政権は、1953年に石油会社を国有化したモサデク政権を、CIAなどが打倒して勝手に据えた政権です。現在の宗教政治への反発は民意の中にありますが、親米政権として失敗したパーレビ政権の再現というのは、これも非現実的だと思います。

ワーストシナリオとしては、内戦の勃発ということもあり得ます。例えば、革命防衛隊については、司令官が今回の攻撃で死亡しています。ですが、革命防衛隊は巨大な組織であり、特殊部隊に当たる「コッズ部隊」なども傘下には抱えています。そうした保守的な軍が、改革を望む市民と敵対するということは、十分にあり得ると思います。

例えば女性の人権を主張するグループが集まる都市に攻撃を加えるというような事態も想定できます。また、地方とテヘランが軍事的に対立する可能性もあります。あるいは79年の革命時もあったクルド系の独立運動が決起するような場合は、これに対して国軍が激しい弾圧を加え、動揺がイラクに及ぶということも考えられます。

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「アメリカ・ファースト」と原油価格高値誘導の構造

では、現在のアメリカは、あるいは事態を楽観視している市場は、この点についての認識が足りないのかというと、そうではないと思われます。現政権の軍事外交姿勢は、あくまで「アメリカ・ファースト」です。ですから、本当にイランの市民の立場に同情しているわけではありません。また、民主党の「ブレジンスキー系列」の「リベラル・ホーク」とは違って、クルド系への同情もありません。

その一方で、3月2日に演説を行ったトランプ大統領は、「ブーツ」つまり米軍の陸戦部隊をイランに上陸させることは「絶対にしない」と言明しています。ですから、仮に内戦になったとしても、アメリカとしては「関係ない」というわけです。

そんな中で、今回の作戦に対する賛否については、緊急世論調査の結果は、賛成が30%弱、反対が30%強、残りは様子見という感じです。一方で、議会の方では、共和党と民主党のラインで賛成反対が明確に分かれています。一部、現政権のコア支持者であるMAGA派には、強い信念として「アメリカ・ファースト」の立場からは、他国の政権交代(レジーム・チェンジ)に関与することには強く反対する動きが見られます。

ですが、とりあえず大規模作戦の第一撃が成功したとされる中では、共和党側には大統領に反対する声は多くはありません。エプスタイン問題に怒って、議員を辞職したタイラー・グリーン前議員などは、激しく抗議しています。ですが、現職の議員達は中間選挙を控えて、予備選で刺客を送られるのを恐れて政権のやることは、何でも「丸呑み」する覚悟で動いているからです。

原油価格についても、市場は余り反応していません。日本の場合は、このままホルムズ海峡が航行不能のままですと、それこそ「第3次石油ショック」となってしまう危険があります。実際問題、LNGタンカーがここを通れないという状況は、非常に厳しいものになります。

ですが、アメリカの立場は全く異なります。歴代の共和党政権と同じように、トランプ政権も口では「物価高の痛みは分かる」と言いながら、基本的には原油価格の高値誘導をやっています。特に現在の情勢としては、

「仮にウクライナ和平が成立してロシア産の原油が国際市場に出回るようになると、原油価格が下がる」

「ベネズエラの超重質油を手に入れたが、これは精製にコストがかかるので、国際原油価格が上がらないと商売にならない」

「ついでに、アメリカ国内のシェール・オイルもコストが高いので市場価格が高くないと利益が出ない」

という構造があるわけです。そんな中で、今回のイラン攻撃によりペルシャ湾が緊張して原油価格が上昇することは、想定内というよりも狙ってやっている可能性を指摘する声もあります。そうした構造を前提に、全産業が対応する中では、原油価格の変動が即株安ということにはならないのです。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2026年3月3日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「就活ルール崩壊、ジョブ型雇用はどこへ?」「日本の警察が本当に心配な件」、人気連載「フラッシュバック81」もすぐに読めます。

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冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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