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バイデン新政権は口だけで何もせず?対中国「戦略的忍耐」の弱腰

トランプ政権下でまさに一触触発、史上最悪となった米中関係。バイデン大統領は習近平政権に対し、どのような政策をもって臨むのでしょうか。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では著者で台湾出身の評論家・黄文雄さんが、25日に明らかとなったアメリカの対中政策と新政権の思惑を分析。さらに、中国当局によるウイグル人弾圧を「ジェノサイド」と認定した米国新旧政権とは逆の立場を表明するなど、中国に甘い姿勢を取り続ける日本政府に対して苦言を呈しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2021年1月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄こう・ぶんゆう
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【米中】バイデン政権が表明「戦略的忍耐」と日本の覚悟

アメリカ・バイデン政権のサキ報道官は、25日、中国に対して「戦略的忍耐で取り組みたい」と発言しました。この「戦略的忍耐」とは、オバマ政権において北朝鮮の核開発への圧力をかけながら変化を待つ、言い換えれば「口だけで何もしない」というニュアンスに近いものです。

バイデン政権、中国には「戦略的忍耐」で対応 企業規制解除は慎重

その結果、北朝鮮の核開発を許してしまった経緯があります。それと同じ轍を踏むのかどうか、注視するところです。

先週のメルマガでも取り上げましたが、バイデン大統領の就任式に台湾の駐米代表が1979年の米台断交後、初めて招待され、中国が反発する一幕がありました。ただし、台湾情報筋によると、この駐米代表・蕭美琴氏の招待については、バイデン大統領サイドが決定したのではなく、議会であるとも言われています。

【関連】中国狼狽。駐米台湾代表の大統領就任式「正式招待」に動揺する習近平

一方、サキ報道官は、中国の産業スパイや知的財産の盗難への懸念が続いており、ファーウェイをはじめ中国企業への規制解除には慎重な姿勢を示しました。加えて、オバマ政権時代に国家安全保障問題担当の副補佐官だったアントニー・ブリンケン氏の国務長官就任が上院で承認されました。

米上院、国務長官にブリンケン氏承認 同盟修復、対中強硬姿勢

日本のメディアではあまり取り上げられていませんが、ブリンケン氏は上院の公聴会では台湾について、自衛能力の確保を約束し、中国の武力行使を「重大な誤り」だと発言、さらには台湾が国際機関に加盟すべきだと述べています。

致力助台防衛! 美參院通過布林肯國務卿人事案

ただし、バイデン大統領には息子のハンター氏による「中国スキャンダル」があり、バイデン自身も習近平政権との密接な関係が噂されています。対して、アメリカは議会において共和党も民主党も反中国色が強く、民衆も中国に対する不信感が強いため、あまり弱腰だと国内批判が高まります。

本心は中国とはあまり事を構えたくないものの、強気な姿勢を見せざるをえない、しかし本心は…というところで、サキ報道官の「戦略的忍耐」という言葉が出てしまったように思えるのです。

つまり、バイデン政権の対中政策については、議会の目があるから強気を見せかけているものの、基本的には協調路線ではないかと思います。まだまだ不透明かつ不安な部分がありますが、おそらく、国内状況を見たうえで態度を決めるのだと思います。

そうなると、これからの台湾は、政治・経済・外交まですべて自力で行わなければならなくなります。バイデン政権に対して大きな信頼を寄せることができないからです。

なお、バイデン政権で懸念される点、日本にとってのメリット・デメリット、今後の中国による対米・対日攻勢などについては、近著『バイデン政権がもたらす新たな米中危機』という本にまとめました。

それはともかく、トランプ前政権による中国封じ込め政策の「成果」について、自由時報に面白い記事が掲載されていました。「中國全民瘋造芯 遍地泡沫及爛尾」(中国が血道をあげる中核製造業はバブルとポンコツに満ちている)というタイトルで、2020年の中国の半導体チップ内製化率はたった5.8%だったというものです。

LTN經濟通》中國全民瘋造芯 遍地泡沫及爛尾

中国は「中国製造2025」を掲げ、2025年までに製造業における大国化を目指しています。もちろんその中核となるのは最新の半導体技術です。中国政府は2020年までの半導体チップ自己生産率40%を目指し、2014年から中国国家集成電路産業投資基金(CNIIF)を立ち上げ、第1期には1,387億元の大型ファンドが設定され、さらに2019年の第2期からは2,041億元の巨大ファンドが設定されました。

ところが、こうした基金の補助金や優遇措置目当てに、経験も技術も人材もない「三無」企業が半導体事業に参入したため、半導体投資プロジェクトが相次いで破綻。たとえば江蘇省徐義市では、2017年に「江蘇中璟航天半導体」というプロジェクトを立ち上げ、総額120億元を投資して703畝の土地に工場を建設、2018年末までに完成し、年間125億元の半導体を生産計画であったものの、建設から半年で音沙汰なしとなり、二度と言及されなくなっているそうです。

また、2016年に江蘇省淮南市の重点プロジェクトとして設立された徳淮半導体は、総投資額450億元を計画し、中国で1位、世界で2位の半導体大手になるという野望をぶち上げたものの、いまだ着工すらされず、近年は賃金未払いが問題化しており、閉鎖の噂が絶えません。

「中国経済週報」は、業界関係者の話として、建設、アパレル、セメント、水産物、自動車部品業でさえも半導体産業に転向する姿勢を示しているものの、業務範囲がICに関連していれば現地での減税や融資を受けることができるため、多くの企業は資金繰りをごまかすことが目的だということです。

武漢発新型コロナウイルスの感染が世界に拡大し、各国でマスク不足が深刻になった際も、中国ではここぞとばかりマスク製造に乗り出す企業が乱立し、異物混入や不良品マスクが世界に輸出され、大きな問題になりました。それと同じです。

半導体業界のマーケット・リサーチを行っている「IC Insights」は、中国は2020年に227億ドル相当の半導体チップを生産し、内製化率は15.9%になると予測しているものの、この数字には、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)やサムスン、SKハイニックス、インテルなど外資系企業の生産額も含まれており、中国に本社を置く企業が生産する半導体チップは83億ドルに過ぎず、これは5.8%の生産率にすぎないそうです。

トランプ政権は、アメリカの先端技術が含まれている半導体製品の中国企業輸出を禁じ、そのため、2020年9月から台湾のTSMCが中国向けの半導体チップの輸出を停止し、海外拠点をアメリカと日本に設立しようとしていることは、先日のメルマガでもお伝えしました。

【関連】トランプの思わぬ置き土産。日米台「半導体同盟」が中国覇権を打ち砕く

その結果が着実に出てきているということです。サキ報道官の発言からは、一応、バイデン政権もこの路線を踏襲するようですが、「戦略的忍耐」などといって放置していると、いつのまにか中国に技術を根こそぎ持っていかれるということになりかねません。強い言葉で中国を牽制しても、実態は「やられ放題」という、オバマ政権の二の舞になる可能性も少なくありません。

海外から優秀な人材を集める「千人計画」も要注意です。ようやく日本の文部科学省も「千人計画」を念頭に、2021年度から「科学研究費助成事業(科研費)」について、申請者が外国の研究資金を受けている場合は申告するよう義務づけました。

【独自】中国の「千人計画」念頭、外国の研究資金に申告義務…すでに審査開始

その一方で、前トランプ政権は、政権終わり間近の1月19日、ポンペオ前国務長官が新疆ウイグル自治区におけるウイグル人弾圧を「ジェノサイド」と認定し、後任のブリンケン新国務長官もこの見解に賛意を表明しましたが、日本の外務省担当者は自民党外交部会で「日本として『ジェノサイド』とは認めていない」という認識を示したそうです。外務省担当者の言葉ということは、つまり日本政府の見解です。

政府、中国のウイグル弾圧を「ジェノサイドとは認めず」 米国務省認定と相違

「バイデン大統領は中国に甘く、習近平に妥協するのではないか」という懸念が囁かれていますが、それよりもっと中国に甘いのが日本政府だったようです。菅政権発足の後ろ盾となったのは「親中派」としてアメリカの政府系シンクタンクからも名指しされている二階俊博自民党幹事長です。そして、GOTOキャンペーンや中国・韓国からのビジネス入国の停止が遅れた背景に、二階氏への配慮があったのではないかとも言われています。

バイデン政権の対中姿勢への不安もさりながら、当の日本の対中姿勢が大甘では、尖閣問題に対応できるはずもありません。先日、中国は「海警法」を成立させ、中国海警局の船舶の外国船に対する武器使用を認めました。尖閣で海警が日本の漁船や海上保安庁に対して武器使用してくる可能性が高まっているなかで、アリカより大甘な認識しかないということは、中国を喜ばすだけです。

トランプが去り、バイデン政権という対中姿勢があいまいな政権の時代こそ、日本の国際的プレゼンスは高まっていきます。というよりも日本のプレゼンスを高めなくてはなりません。

とくに対中問題では、中国の隣国であると同時に、アメリカにとってGDP規模では最大の同盟国、さらに民主主義国としても経済規模はアメリカに次ぐ世界2位ですから、独裁国対民主主義国の対立において、世界的な注目を集める存在であるのは間違いありません。

世界で初めて国際機関に人種差別の撤廃を訴えたのも日本でした。民主主義の大国として中国にどう対処するのか、日本の動向に世界が注目していることを、日本人は忘れるべきではありません。


 


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image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com

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