シンガポールで大きな話題となっているものの、これまで日本のマスメディアが一切報じていない、とある法案。しかしその内容は我が国の安全保障においても極めて重要であり、どのような議論がなされているのか把握しておくべきものであるようです。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、シンガポールの「中国の情報操作を阻止する法案」を報じた香港英字紙の記事を紹介。さらに、同様の法律を日本も導入すべきか否かについて考察しています。
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中国の情報操作へ対抗するシンガポール
最近「国内の世論が外国政府から操られているのではないか」との懸念が増えてきています。「朝日やTBSは反日メディアだ。中国や韓国の意向を忖度している」との批判はずいぶん前から保守派側からありました。
企業でもインフルエンサーと呼ばれるソーシャルメディアで多くのフォロアーをもつ人にお金を渡して自社製品の宣伝をしてもらうことがよくあります。「使ってみたらとてもよかった」と、一見、宣伝には見えない形なのでステレスマーケティングと呼ばれます。広告代理店などがチームで作戦を練り、組織立って大量の人員が動員されて行われていることもあります。
企業がやるぐらいですから、国が同じことをしても全く不思議ではありません。というより、むしろ現代の戦争はそういった情報戦に移ってきているでしょう。報道の自由がある西側諸国は、報道統制できる全体主義国に比べて圧倒的に不利です。
そんな中で、シンガポールで外国干渉(防治)法案(Foreign Interference bill)が議論を呼んでいます。端的に言って、中国がシンガポールに向けて行う情報操作を阻止するものです。
以下、サウスチャイナモーニングポスト10月2日から抜粋です。
この法案は敵対的な情報キャンペーンを防ぐものである。
政府はインターネット時代において、高度に接続された都市国家は外国からの干渉に対して脆弱であると述べた。
この法律案は、社会の偏向、治安の悪化、国内政治の操作、政治的主権の弱体化をもたらす秘密の活動を主な対象としている。
この法律により、政府がインターネット企業にユーザー情報の開示、コンテンツのブロックなどを指示することができるようになる。
そして外国と協力していると思われる人々を標的にすることを可能にする。
場合によっては、政府は理由を説明することなく、先制的に措置を取ることができる。
シンガポール政府はこの法案の成立を急いでおり、相当な危機感のようです。
しかしながら、この法案には反対意見もあります。
この法案は言論の自由と政府の説明責任に大きな影響を与える可能性がある。
政府への反対意見の封じ込めに使われるのではないかと懸念している。
シンガポール市民や地元の非政府組織(NGO)が行っている完全に合法的な共同活動を捕捉してしまう危険性がある。
単なる外国との「協力」であっても、その外国のための行動や活動と解釈される可能性がある。
「わが国の法令集の中で最も強力な法律になる可能性を秘めている。
こういった法案が必要だという派、危険だという派、どちらの意見ももっともと思います。
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日本にも外患誘致罪(がいかんゆうちざい)というものがあります。「外国と共謀し日本に対して武力行使を誘発する犯罪行為」を罰するものです。死刑しか刑罰がありません。そして現在まで適用例はないそうです。ただ、今回のシンガポールの外国干渉(防治)法案とは相当に違うように見えます。
シンガポールのような法律を日本も導入すべきなのでしょうか?
私は、外国からの組織的な情報操作があるなら何らかの防衛措置が必要であるとは思います。しかし法律の運用が問題です。政権の批判勢力に対する弾圧に都合よく使われないような歯止め、透明性が絶対に必要です。
むつかしい問題です。ただ、現在の戦争が武力を使ったものから、お互いの国への情報操作へ比重が移っていることは確かです。そして、シンガポールのように現実的な対抗法案をとる動きがあることは日本人も認識しておいてよいでしょう(注:この法案名、まだ日本で報道されておらず、どのような翻訳名になるかわかりません。もし大手TV、新聞で全く報道されなければ、これもおかしな話です)。
(メルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』 10月3日号より一部抜粋)
社会の分断化を推し進める「バランスを欠いた報道」を見極めるために
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