いじめの認知件数はコロナ流行前よりも増加傾向にあります。無料メルマガ『いじめから子供を守ろう!ネットワーク』を発行する同ネット代表の井澤一明さんは、その調査結果から原因を探り、これからの対策について語っています。
いじめ認知件数68万、実際は100万件超え?
紅葉の季節には、まだまだ遠い感じがしていますが、気温はかなり下がってきて、「11月中旬の気温です」とテレビの気象予報の声が聞こえてきたりしています。
さて、例年のように、2023年10月4日、文科省から「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」が公表されました。
今年の調査結果では、いじめの認知件数が昨年度から10.8%増加し、約68万件となり、同時に、小中学生の「不登校」が過去最多の約30万人に上ったことが報道されています。
いじめ認知件数の増加について、文科省は、「令和3年度は新型コロナウイルス感染症流行前の令和元年度並みとなり、令和4年度では再び増加傾向となり過去最多となった。」としています。
いじめ認知件数が増加理由として
- 部活動や学校行事などの様々な活動が再開されたことにより接触機会が増加した。
- いじめの定義やいじめの積極的な認知に対する理解が広がった。
- アンケート、教育相談の充実などによる生徒に対する見取りの精緻化。
- SNS等のネット上のいじめについての積極的な認知。
をあげています。
調査結果をもう少し詳しくみてみましょう。
1.いじめの認知件数は681,948件(前年度615,351件)であり、前年度に比べ66,597件(10.8%)増加。
2.児童生徒1,000人当たりの認知件数は53.3件(前年度47.7件)。
3.いじめの解消状況については、525,773件(77.1%)(前年度493,154件(80.1%))と比率は低下。
4.いじめ重大事態の件数は923件(前年度706件)であり、217件(30.7%)増加し過去最多。5.1,000人当たりの認知件数では山形県が118.4件、政令指定都市では新潟市が219件。仙台市147.1件、大阪市143.7件と続く。
6.いじめを認知した学校は36,366校中29,842校で82.1%。未認知校は6,113校。私立の52.8%が未認知。(注1)
7.暴力行為の発生件数は95,426件(前年度76,441件)であり、前年度から18,985件(24.8%)増加。
8.小・中学校における長期欠席者数(注2)は、46,898人増の460,648人(前年度413,750人)、高等学校は122,771人(前年度118,232人)。
9.小・中学校における不登校児童生徒数(注3)は299,048人(前年度244,940人)、前年度から54,108人(22.1%)増加し、過去最多。
特に今回は、不登校数が急激に増え、前年度比22.1%増の約30万件にのぼったことが、頻繁に報道されています。
そのため「受け皿」づくりの必要性や相談体制の拡充、さらには「つながり」の重要性などさまざまな議論が生まれています。
ですが、ある意味予測されていたことです。
新型コロナの流行に伴い、「学校に来なくても良いよ」という姿勢を示したのは「国の方針」です。
学校は「行かなくてはならない場所」から、「いかなくても良い場所」に変わってしまったのです。
大切なことは「学校」の価値を上げることではないでしょうか。
学習能力、人間関係能力、コミュニケーション能力、忍耐力、さまざま基礎力を培うのに最も適したところが学校なんだという「学校への憧れ」を醸成していくことが重要だと思っています。
そうでなければ渡部昇一先生が提唱されたように「塾を学校にしてしまう」ことを検討しても良いのかもしれません。
さて、いじめ認知件数としては約68万件で過去最高とはなっていますが、簡単に信じるわけにはいきません。
しかも、いじめを認知していない学校が16.8%、つまり6校中に1校は一年にただの一度もいじめがなかったという報告ですから。
とてもとても現実を表しているとは言いがたいのではないでしょうか。
山形県の1,000人当たりの118.4件を全生徒数(約12百56万4千人)に換算すると150万件になりますし、さらに新潟市の219件で換算すると275万件となります。
あくまでも、推測ではありますが、やはり、100万件を超えるいじめが起きていると見ておくべきだと思います。
学校のいじめに対する対応能力はかなり向上したと感じてはおりますが、いじめそのものは、この程度は発生しているはずです。
重要なのは、いじめを重大事態のようなところまで大きな事件とならないうちに解決することです。
「早期発見・早期解決」ができている学校が「良い学校」ですし、「いじめを解決できる学校」だと言えるのだと思います。
新型コロナの影響を受け活動量が低下していた前年度から、活動が再開している現在の学校生活の中でいじめは増えてくると思います。
そのような状況を踏まえて、いじめの早期解決に向けて、私たちも一層の努力をしてまいりたいと思います。
そうした中で、「いじめ・不登校対策を前倒し、過去最多の認知件数で政府方針…早期に兆候発見狙い」というような読売新聞の記事も出ています。
少し引用します。
全国の小中高校などで昨年度に認知されたいじめや不登校の件数が過去最多となったことを受け、政府が緊急対策として、学習用端末を活用した「心の健康観察」などを前倒しして始めることがわかった。(中略)
心の健康観察は、1人1台配備されている学習用端末やアプリで、体調や精神の落ち込み具合、自傷経験などを回答してもらい、子どもの心身の変化を把握して支援につなげる。
緊急対策には、悩みを抱えていたり、学校になじめなかったりする子どもや保護者の相談に乗る「スクールカウンセラー」などの配置校を増やすことも盛り込まれた。
不登校の児童や生徒に学びの場を確保するため、空き教室や学校外で学習できる「教育支援センター」も充実させる。
しかし、いじめが増加したことに対して、学校を介して対策を打つことが、学校サイドにいじめの認知件数を報告させないための圧力になってしまう可能性も考えられるのではないでしょうか。
学校がいじめ認知件数を報告しにくい雰囲気を作り出してしまってはは意味がありません。まさに本末転倒です。
そうならないような適切な対応を求めたいと思ます。
学校生活が戻りつつある状況の中で、いじめに対して不安に感じることも多くなると思います。
気になることがありましたら、早めにご相談いただければ幸いです。
一般財団法人 いじめから子供を守ろうネットワーク
代表 井澤一明
(注1)休校等の学校があるため、いじめを認知した学校数といじめを認知していない学校数の合計は、学校総数と一致しない、とのことです
(注2)この調査での「長期欠席者数」とは、「欠席日数」及び「出席停止・忌引き等の日数」の合計日数により、年度間に30日以上登校しなかった児童生徒。(不登校を含む)。登校しない理由は、「病気」、「経済的理由」、「新型コロナウイルスの感染回避」、「不登校」、「その他」。「その他」の具体例は、保護者の登校についての無理解、家族の介護、外国での長期滞在、連絡先不明等
(注3)この調査での「不登校」とは、「病気」、「経済的理由」、「新型コロナウイルスの感染回避」という理由を除き、何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、登校しない、あるいは、登校したくともできない状況にある長期欠席の児童生徒
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