人間よりも賢いAI(AGI、ASI)や人型ロボットの普及により、多くの人々が職を失う未来がすぐそこまで近づいている。著名エンジニアの中島聡氏は「8割の人が職を失い、国から支給されるUBI(ユニバーサル・ベーシック・インカム)で生活する社会で、まともな民主主義が成り立つとは思えない」と指摘。この問題をどう解決するべきだろうか?(メルマガ『週刊 Life is beautiful』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
AIの進化が社会に与えるネガティブなインパクト
最近、進化し続けるAIが社会に与えるインパクトに関して考える機会が増えました。映画「ターミネーター」に描かれたような「超知性が人間に反乱を起こす」未来ではなく、もっと現実的な、すでに起こりつつある変化と、その延長上にある近未来の話です。
この話を書くきっかけを与えてくれたのは、「AGI, Governments, and Free Societies」という論文です。
この論文は、Acemoglu & Robinsonによる “narrow corridor (邦訳:自由の命運 上: 国家、社会、そして狭い回廊)”に書かれた、「独裁国家」と「無政府状態」の間に存在する「強力な国家により個人の自由と安全が守られた状態」を達成する難しさを引用した上で、AGIの誕生が、それをさらに難しくすると指摘しています(詳しくは、人工知能と政府と自由社会の関係:未来への影響を参照)。
この論文は、主に、
- 政府がAIを市民の監視に使うリスク(独裁国家のリスク)
- 民間がAIが活用して政府を欺く、世論を操る(無政府状態のリスク)
の2つのリスクについて語っており、色々と考えさせられます。
私が最も懸念しているのは、後者のリスクです。人間よりも賢いAIや、安価な人型ロボットの誕生により、職を奪われる人が増え、それが社会を不安定化させるからです。
「人間の言葉が理解できるAI」の誕生により、まずは、コールセンターやデータ入力などの単純作業から始まって、徐々にAIが人の職を奪い始めます。画像・映像・音楽などを生成できるAIにより、クリエーティブな仕事が底辺の方から削られていきます。
AIにより新たな職(AIアプリを作る職、AIを活用する職など)も生まれますが、数は圧倒的に少なくなります。社会全体としては、ホワイトカラーの職が大きく減った結果、「職のミスマッチ」がより際立つ形になります。
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SNSと議会制民主主義はかなり相性が悪い
一時的には、サービス業や肉体労働の市場が彼らの受け皿となりますが、それも人型ロボットが普及するまでのことで、時間の問題でしかありません。人型ロボットが本格的に普及しはじめると、政府が何か特別な政策で人の職を守らない限り、失業率は大きく上昇します。
AIにより社会全体の生産効率が上がれば、そこから上がる利益を再分配することにより、失業者を支援することは可能です。分かりやすい例が、国民全員に生活を維持するのに必要なお金を渡すユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)です。
しかし、例えば8割の人が職を失い、国から支給されているUBIで生活している社会において、まともな民主主義が成り立つとは私には思えません。
社会に不満を持つ人が多ければ、彼らに甘い言葉を投げかけたり、ネットを上手に活用して票を集める、ポピュリズムが台頭するからです。
米国ではトランプ氏、日本では石丸伸二氏が良い例です。票を集める力を持つ人が選挙に勝ち、政府を運営するのが議会制民主主義なので仕方がないとはいえ、「票を集める力」だけで政治家を選ぶ議会制民主主義は、世論を大きく動かす力を持つインターネットが存在する時代にはミスマッチなのかもしれないとすら思います。
この問題を解決する1つの方法は、ネットやAIの力を活用した、政治への市民参加です。
選挙の時だけ投票し、後は政治家に任せてしまうのではなく、個別の政策や税金の使い道に対して、ネット経由で市民の声をリアルタイムで吸い上げて政治に反映させていく、国民投票的なものを活用した新しい形の民主主義です。
特に、税金の使い道に関しては、納税者がある程度の配分を決められるようにするのが良いと私は考えています。例えば、100万円の税金を国に納めた場合、その50%の50万円に関しては、使い道を納税者が自由に指定できるようにするのです。
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AIが人間に変わって政治を運営する社会へ?
しかし、中長期的には、AIが人間に変わって政治を運営する社会がきても不思議はないと私は考えています。
共産主義は、社会のエリートたちが考えた民主主義に変わる国の運営方法でしたが、結局は、権力の座についたエリートたちのエゴのせいで上手くいかない、という矛盾をはらんでおり成功しませんでした。
議会制民主主義も同様で、選挙という形で選ばれた、国民を代表する立場にある政治家も、やはり金権政治の罠に嵌まってしまいます。
私利私欲を持つ人間が政治家をやるかぎり、この問題からは逃れられないのかもしれません。
その意味では、私利私欲を持たないAIこそ政治家に最適なのでは、とも思ってしまいます。純粋に国民のことだけを考え、純粋にデータ・ドリブンな政治を行えるのは、AIだけなのかもしれません。
【ディープ・リサーチ】
人工知能と政府と自由社会の関係:未来への影響
(本記事は『週刊 Life is beautiful』2025年3月25日号を一部抜粋・再構成したものです。この続きはメルマガをご購読のうえお楽しみください。初月無料です ※メルマガ全体約1.7万字)
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