子どもの居場所づくりや貧困支援の象徴として広まった「こども食堂」。その名づけ親であり、長年運営に携わってきた近藤博子さんは、今年ついに「こども食堂」の看板を下ろしました。報道番組「ニュースステーション」の初代気象予報士にして社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイー河合薫の『社会の窓』』で今回、こども食堂の「食堂」だけでは埋められない日本社会の深刻な課題について語っています。
こども食堂の限界
「こども食堂」の名付け親であり、自らも13年間こども食堂を運営してきた近藤博子さんが、「こども食堂」の看板をやめました。
理由は、そもそもの問題解決に、国も社会もいっこうに動こうとしないからです。
13日に朝日新聞の「インタビュー」に掲載されたので、お読みになった人もいらっしゃるかもしれませんが、私が繰り返し訴えてきた問題でもあるので本コラムで取り上げます。
こども食堂の存在がメディアの注目を集めたのは、コロナ禍でした。
2015年頃は、全国で300箇所程度でしたが、2022年には7,363箇所まで増加しわずか6年間で20倍以上に拡大しました。その後も増え続け、現在は1万か所を超え、全国の公立中学校と義務教育学校の数を合わせた数(9,265校)を上回りました。
こどもを心配する大人たちがたくさんいるのは、とてもいいことだし、温かい社会でもあります。
しかし、「だからといって子ども食堂でなんらかの問題を解決しようと考えるのはおかしい」というのが近藤さんの意見です。
こども食堂の数が増えるにつれ、期待される役割は増え続けました。貧困対策、居場所づくり、地域のプラットフォームなどです。
一方で、こどもの貧困問題、こどもの貧困を生む親の就労問題は、一向に解決されていません。
日本の「子どもの貧困率」は1980年代から上昇傾向にあり、2012年には16.3%と過去最高を記録。その後は減少傾向に転じ、最新の2021年の厚生労働省の調査では11.5%まで低下しました。とはいえ、OECD加盟国の中では高い割合に属しますし、ひとり親世帯に限ると44.5%、半数近くの子どもが貧困状態です。
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貧困の最大の問題は「普通だったら経験できる機会」がはく奪されてしまうこと。
教育を受ける機会、仲間と学ぶ機会、友達と遊ぶ機会、知識を広げる機会、スポーツや余暇に関わる機会、家族の思い出をつくる機会、親と接する機会……etc。
こういった幼少期の様々な経験は全て、80年以上の人生を生き抜く「リソース」獲得の機会です。なのにそれを手にできない子供達がいる。低所得世帯の子供はそういった機会を経験できず、進学する機会、仕事に就く機会、結婚する機会など「機会損失のスパイラル」に入り込んでしまうのです。
経済的に困窮している世帯の子どもと、困窮していない世帯の子どもの間の教育格差は、10歳ごろから偏差値に現れ、その差はそれ以降も埋まることがないとの分析結果もあるほどです。
学力の低さから進学をあきらめると、仕事も雇用形態も限られてしまいがちです。
貧困家庭で育った人が、就いている主な職業は非正規雇用が多い傾向が認められていますし、生活が苦しく、いくつも仕事を掛け持ちしてる人も少なくありません。
非正規の問題は繰り返し取り上げてきました。しかし、問題は一向に解決されずこどもの就労問題にも引き継がれている。貧困の連鎖を断ち切るためには、就労支援や教育機会の均等化を包括的に進めていく必要があるのに、その動きは高校無償化という耳触りのいい政策により、ますます置き去りにされてるように思えてなりません。
近藤さんが「こどもの就労問題」について話した内容を以下に掲載します。
「子ども食堂を始めて間もない頃、企業のCSR(社会貢献)担当の人たちが『何か手伝いたい』とここに来たことがあります。でも私は、企業がやるべきことは子どもが大人になった時にちゃんとした仕事を準備することだと思っていました。だから『応援して欲しいのは子ども食堂ではなく、子どもたちの就労です』と伝えました」
ーーー(朝日新聞「(インタビュー)「こども食堂」看板やめます 「気まぐれ八百屋だんだん」店主・近藤博子さん)
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