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トランプのイラン空爆は「衝動」か「計算」か。米国内で囁かれる“エプスタイン疑惑”という不穏な影

突如として中東有数の大国・イランへの大規模空爆に踏み切ったトランプ政権。その決断の裏側には、どのような思惑や構造が潜んでいるのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、イラン攻撃に至るトランプ政権の衝動的な意思決定と、米国で囁かれるエプスタイン疑惑との関係を検証。その上で、歴代政権を通じて戦争を繰り返してきたアメリカという国家の「構造的問題」について論考しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:余りにも幼稚で無計画なイラン空爆で地獄に堕ちていくトランプ政権/それでも高市はピョンピョンを続けるのか?

プロフィール高野孟たかのはじめ

1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

地獄に堕ちるトランプ政権。幼稚で無計画なイラン空爆で自らの首を絞めるアメリカ

第1期トランプ政権で1年半ほど安保担当大統領補佐官を務めた超タカ派外交官のジョン・ボルトンは、最近「日経ビジネス」のインタビューに答えて「トランプは壮大な戦略的観点から物事を熟考しているわけではなく、目の前にあることについて考えているだけだ」と批判したが、その通りだろう。

トランプは議会にも国民にも同盟国にも何ら説明も相談もすることなくイランへの圧倒的な軍事攻撃に踏み切り、その際に「イランの体制転換が目標だ」としてイランの民衆に決起を呼びかけたが、スターマー英首相が2日の演説で述べたように、そもそも「空からの(攻撃のみによる)体制転換が可能であるとは思えない」し、それでもそれを追求するのであれば事前に十分な準備をして、米軍の行動に直ちに呼応して大規模な民衆デモが沸き起こりそれに乗って親米的な次の指導者が颯爽と登場するよう仕組んでおかなければならないが、そんな準備は何もしていなかった。

今頃になってイラクとイランの国境周辺のクルド人勢力の指導者に接触し、テヘランに向け進攻するよう促していると伝えられるが、このような企みは上手く行ったとしてもイラン国内情勢を撹乱する程度に終わるだろう。9,000万人のイランの人口の60%強は紀元前6世紀まで遡るアカイメネス朝ペルシャ帝国以来2,500年の歴史を受け継ぐペルシャ人であり、同国内の人口としては6%にも達しない元はと言えば遊牧民であるクルド人がこの国を支配することなどある訳がない。

もちろん、これほど衝動的で幼稚と形容できるほどに無計画的でなく、用意周到で次の受け皿がすぐに表舞台に躍り出てくるような鮮やかなものであったにせよ、どちらにしてもこのような一国に対する一方的な軍事攻撃が国際法上許されない「侵略」であることに変わりはないのだが。

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エプスタイン疑惑とイラン空爆という奇妙な符合

戦争を始める時に一番大事なのは「獲得すべき目標」は何かを明確にすることであり、それを欠くと必ず果てしもない戦力投入による泥沼化に陥って、結局は惨めな敗北に至る。第2次大戦のドイツも日本も「世界制覇」「アジア支配」といった誇大妄想に走って破滅し、その後も米国がベトナム、アフガニスタン、イラクで同様の過ちを重ね、今またイランでもっと酷い無謀な戦争を起こして早くも出口が見えない迷走状態に突入しつつある。

どうしてこのような愚行が繰り返されるのか。1つの分かりやすい解説は、エプスタイン疑惑の解明が進むにつれ、トランプがエプスタインと共に13~15歳の少女を弄んだ事実を示す証拠が出てくるのではないかと噂される中、それから世間の目を逸らさせ何とか掻き消そうとしたのではないかという、米国内で行き渡っている話である。

実際、2月26~27両日にヒラリー&ビル・クリントン夫妻が連邦下院監視委員会に呼ばれ、自分らには隠すべきものは何もなく、それよりも文書に何度も名前が出てくると言われるトランプをこの場に呼んで宣誓証言させるべきだろうと言った。その翌日にトランプはイラン爆撃に踏み切った。

これには既視感がある。そのビル・クリントンが現役大統領当時の1998年、ホワイトハウスのインターンだったモニカという女性と“オフィス・ラブ”の関係にあったことが暴露され散々逃げ回ったものの追い詰められて同年8月17日に彼女との関係を「適切でなかった」と認める声明を発表、その3日後にアフガニスタンのアルカイーダ基地とスーダンの製薬工場に対するミサイル攻撃を敢行した。

スーダンの工場はアルカイーダの秘密兵器工場だと断定しての爆撃だったが、これは全くの間違いで、貧しい同国の特に子供らに必要な薬品を供給する大事な施設だったことが後に明らかにされた。また同年12月に米下院で大統領弾劾決議案の審議が始まるタイミングで、クリントンはイラクに対する「砂漠の狐」作戦を発動し、大量破壊兵器関連と認定した施設を3日間に渡り空爆した。

しかもこうしたクリントンの行動は、その直前に封切りされていたコメディ映画『Wag the Dog(尻尾が犬を振る)』で現職大統領がセックス・スキャンダルを隠すためにアルバニアを敵国に仕立てて戦争を始めるという話と余りにそっくりだったので、その面からも揶揄的に話題となった。

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骨の髄まで「戦争国家」。アメリカの治らない宿痾

とはいえ、大統領のスキャンダル隠しだけが米国の戦争の動機という訳ではない。話はむしろ逆で、そんな個人的な恥ずかしいスキャンダルから目を逸らすためにでも戦争を起こせてしまう、「戦争国家」という病に骨の髄まで冒されているたぶん世界唯一の国だということが問題なのである。

実際、第2次大戦終了以後に米国が何らかの程度で関わった主な戦争を一覧表にしてみると(文末に掲載)、歴代の全ての大統領が戦争を発動したり紛争に軍事介入したりしていて、戦争は米大統領にとって“日常業務”のようなものであることがわかる。

アイゼンハワーが1961年1月の大統領退任演説で巨大な軍事機構と大規模な軍需産業が密接に結びつくことを軍産複合体(Military-Industrial Complex)と呼び、「この結合が不当に大きな影響力を得て、我々の自由あるいは民主主義のプロセスを危険に晒すことを許してはならない」と警告したのも空しく、それから3分の2世紀を経て米国はますます戦争国家の道を転がり落ちている。とりわけ冷戦終結後の米国が戦争にしがみつく歪んだ精神構造については、フランスの皮肉屋の評論家エマニュエル・トッドがイラク戦争について語った言葉が当を得ている。

▼つい最近まで国際秩序〔維持〕の要因であった米国は、ますます明瞭に秩序破壊の要因となりつつある。イラク戦争突入と世界平和の破壊は、この観点からすると決定的段階である。

▼経済封鎖で疲弊した人口2,300万人の低開発国=イラクに世界一の大国=米国が仕掛けた侵略戦争は「演劇的小規模軍事行動」のこの上ない具体例にほかならない。

▼弱者を攻撃するというのは、自分の強さを人に納得させる良い手だとは言えない。戦略的に取るに足らない敵を攻撃することによって、米国は己が相変わらず世界にとって欠かすことのできない強国であると主張しているのだが、しかし世界はそのような米国を必要としない。軍国主義的で、せわしく動き回り、定見もなく、不安に駆られ、己の国内の混乱を世界中に投影する、そんな米国は。

▼ところが米国は〔本当は〕世界なしではやっていけなくなっている。貿易赤字はさらに増大し、外国から流入する資金フローへの依存もさらに深刻化している。米国がじたばたと足を掻き、ユーラシアの真ん中で象徴的戦争行動を演出しているのは、世界の資金の流れの中心としての地位を維持するためなのである。

▼しかし戦争への歩みは、米国のリーダーシップを強化するどころか、逆にワシントンのあらゆる期待に反して、米国の国際的地位の急激な低落を生み出した。……

これは、イラク戦争が始まった1カ月後に出版された『帝国以後』日本語版への前書きからの引用だが、トッドのブッシュ子のイラク戦争に対する評言は2026年のトランプのイラン攻撃にそのまま、ますますピッタリと当て嵌まるだろう。米国は、

もうそれしか残っていない“強さ”である軍事力を無闇に振り回して力尽くで大国の地位を守ろうと足掻くのだが、そうすればするほどカナダやスペインをはじめ同盟国からさえも“弱さ”を見抜かれて軽蔑され、地獄に堕ちて行くのである。

さあて、そこで、我が日本の首相は来週ワシントンを訪れて、トランプの横で手を振りながらピョンピョン飛ぶといったパフォーマンスを再び演じて世界に恥を晒すのだろうか。

※ 資料《戦後の全ての米大統領は戦争に関わってきた!

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年3月9日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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