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なぜ日本代表は敗れたのか?WBCに見る「減点主義」の限界

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準々決勝で、日本代表はベネズエラに敗れました。戦力的には優位と見られていた中での敗戦は、多くの関係者やファンに少なからぬ衝撃を与えましたが、その背景には単なる技術や采配だけでは説明しきれない要因も存在します。今回のメルマガ『富田隆のお気楽心理学』では心理学者の富田隆さんが、この試合を手がかりに、「ポジティブな動機付け」と「減点主義」という対照的な心理構造に着目し、日本社会にも通底する課題を考察します。

さらば!減点主義

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)はご覧になりました?

準々決勝、日本代表は5対8で「ベネズエラ」に負けてしまいました。

残念なことに、「侍ジャパン」は米国に渡ってからの「初戦」で姿を消すことになりました。

日本代表には「お疲れ様」とねぎらうしかありません。

敗けたけれど、大谷選手のホームランは見事でした。鈴木選手の決死のスライディングにも感動しました。山本投手のピッチングもなかなかだったと思います。

しかし、野暮な「後出しじゃんけん」であることは重々承知の上で、「敗因」のひとつを指摘させていただきます。

それは「動機付け」の問題です。

両者の間で、闘うための「動機付け」があまりにも違い過ぎました。

多くの専門家が「日本」の勝利を予測していました。

ですから、事前の「期待」をまったく背負っていない「ベネズエラ」にしてみればこれは「ダメ元」の試合、「失うもの」が何もありません。
マイナスからの出発ですから、たとえ1点でも日本から点を奪えれば大喜び、万が一、勝とうものなら狂喜乱舞(実際そうなってしまったわけですが)。

選手一同、「どうせ負けるなら、天下の晴れ舞台で良い所を見せてやれ!」と思ったはずです。

つまり、彼らの活躍は「ポジティブ」に動機づけられていたのです。

そして「ポジティブ」であるということは「加点評価」でもあるわけです。

「加点評価」ですから、ヒットであれ盗塁であれ、惜しい長打であれ、活躍すればするほど個人の得点は「累積」されて「評価(自己評価も他者からの評価も共に)」が高くなります。

闘志と手ごたえが循環して累積し、ヒットがヒットを生み、得点が得点を生む「行け行けムード」がチーム全体に満ちて行きました。

各選手が普段以上の能力を引き出す環境が整ったのです。

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「ネガティブな動機付け」

これに対して、多くの日本人選手(大谷さんのような例外を除いて)や監督、コーチらにとって、この試合は勝って「当たり前」のものになっていました。

何とか日本中のファンの「期待」に応えなければ!

しかし、これは、「期待に応えられなかったらどうしよう」という「恐怖」にもつながってしまうのです。

ファンの皆さんを「がっかりさせたくない」から頑張る、というのは、「マイナスの結果」を出さないように努力するという「守り」の精神状態です。

心理学的には「ネガティブ」に動機付けられた状態ということになります。

「ネガティブ」ということは「減点評価」に怯えている状態をも意味します。

こうした「ネガティブな動機付け」がチームに蔓延してしまうと、ちゃんと打てれば「当たり前」、三振を取れれば「期待通り」、何もプラスされません。

皆が「失敗」を恐れてびくびくしていますから、大胆なチャレンジや実力以上の好プレイなどが飛び出す可能性は低くなります。

「ベネズエラ」の「良い所を見せてやる」といった「攻め」の姿勢とは真逆です。

失敗したくないので、無意識に余計なこと?はやらなくなるのです。

こうして、姿勢が「守り」に入ってしまえば、試合には勝てません。

監督や日本選手一部の顔を見ていると、こちらまで辛くなりました。

「ムードメーカー」の真逆と言えばお分かりいただけるでしょう。

笑顔がありません。悔しさで怒り出すわけでもありません。

不発に終わった自分の打席に首をひねる反省の表情?は能面のようでした。

それは、周囲からの「期待」がプレッシャーとなり、それに押しつぶされる「優等生」の苦悩そのものです。

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「ハングリー精神?」

よく「ハングリーさが足りない」といった議論を聞きます。

相手の中に、「動物的な闘争心」や「簡単には諦めない粘り強さ」「抜け目のない積極性」「大胆なチャレンジ精神」などを見てしまうと、その相手

が「ハングリー」であると感じてしまうのは自然なことです。

ただ、そうした「ハングリーさ」は貧しさや社会環境の悪さといった「逆境」からだけ生まれて来るものではないのです。

その個人が「高い目標」や「野望」「並外れた欲求」などを持っていれば、それらを容易に満たすことはできませんから、その人は常に「ハングリー」になれるのです。

逆に、控え目な性格?で、「侍ジャパンの一員になれた」「日本代表に選ばれた」ということだけで「満足」してしまうような人なら、ハングリーにはなれません。

WBCという世界の舞台が与えられたら、その機会(チャンス)に何をするのか?

仮に若い投手なら、ゼロ失点、連続5奪三振といった記録を鮮やかに決めて、大リーガーのスカウトから声がかかるような「注目の新人」にのし上がるという野望を持っていても良いのです。

そんな人の方が、馬鹿正直に「皆さんの期待に応えられるように頑張ります」と心底思いつめて「責任感に身の引き締まる思い」でスランプに陥る新人君よりは、はるかに「ハングリー」で、使い物になります。

この「ハングリーさ」を別の言葉に置き換えるなら、それは前述の「ポジティブな動機付け」、それを導く「高い目標」や「野望」といったものになります。

たとえば、大谷選手は恵まれた環境で育ち、既に多くの栄光を手に入れていますから、一見ハングリーなようには見えません。

しかし、向上心の塊である彼は、常に「高み」を目指しています。

ですから、これまでに達成した記録を遥かに超えた、長く野球史に残るような前人未到の記録を打ち立てたいという「野望」を胸に秘めているはずです。

そして、そうした目標への歩みを進めるためには、あらゆる「機会」を逃がしません。

その「貪欲さ」を知れば、彼が常に「ハングリー」であることを理解できるはずです。

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「指導者の力」

これに対して、「また三振したらどうしよう」とおどおどしている「プレッシャーによるスランプ状態」の選手には「攻め」の姿勢も「積極性」もありません。

彼にこの先の展望や目標があるのでしょうか?

もし大谷選手並みの野望を持っていれば、このWBCの試合という大舞台に立っていることの「意味」も分かっているでしょうし、自分がどう振る舞うべきか、とっくに決心がついているはずです。

まかり間違っても、「自分はプレッシャーに弱くて・・・」などという言い訳は思いつかないでしょう。だって、良いところを見せる絶好の「チャンス」なんですから。

このあたりの問題を解決するために、監督やコーチも含め、広い意味での「指導者」がいるのです。

選手の一人一人がどんな「野望」や「夢」「目標」を持っているのかを知ること、それらの目標と日々の練習をどのように結び付けるのかという戦略を立てること、日頃からこうした人生の「道」について選手と共に語り合っていること、これらはいずれも指導者の果たすべき大切な役割です。

それが難しいなら、せめて「指導者自身」が自分なりの「大きな夢」を語るべきです。

WBCの晴れ舞台で、並み居る強豪に一泡吹かせるために、どんな「秘策」を準備しているのか、選手たちの眼を輝かせるような「攻め」の戦略を披露できないなら、指導者を辞退するべきです。

覇気の無い仏頂面で常識的な采配しか振るえないなら、監督を引き受けてはいけません。

仮に、亡くなった長嶋茂雄元監督のようなカリスマ的なリーダーがいれば、目標を見失っていた選手たちも、彼に「ついて行った」はずです。

「アメリカで長嶋監督を胴上げしたい」という目標は選手の心に灯を灯し、充分に「ポジティブな動機付け」になり得るからです。

「失敗無くして成功無し」

「失敗」の少ない人生よりも「成功」の多い人生の方が楽しいと相場は決まっています。

そして、成功者はこの「秘密」を語りたがらないのですが、「成功」するためには、実はたくさんの「失敗」が欠かせないのです。

「恥」や「冷や汗」だって、いっぱいかいているはずです。

なぜなら、「挑戦」の無いところに「成功」はないからです。

「失敗無くして成功無し」この言葉の深意を、もう一度かみしめましょう。

必ずや、「侍ジャパン」は今回の「失敗」から多くの「教訓」を学び取り、新たな挑戦に向かって準備を開始するものと信じています。

そして、若い人たちが「失敗を恐れず」常に「新たな挑戦」を試みるための環境をどう整えるのか、彼らをどう支えるのか、これは、私たち「年上世代」が本気で取り組むべき課題です。

これは、学校の先生に任せておけば良いという問題ではありません。

若者たちは、私たちの背中を見ています。

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「減点主義から大谷選手は生まれない」

日本という国を愛しているから言うのですが、日本は未だに「減点」社会です。

その実体は、教育における評価が「テストで間違いが少ない者が優秀である」というシステムに過度に依存していることを見れば明らかです。
その生徒や学生が「いかに素晴らしいものを創り上げたか」あるいは「素晴らしいパフォーマンスを達成したか」で評価されることは希なのです。

「無事これ名馬」などという諺もありますから、失敗をしないことも確かに美点の「ひとつ」です。
しかしそれは過去のもの。

19世紀風産業社会や20世紀風社会主義国家を支える「官僚」たちに必須の美点なのです。

残念ながら、AIとロボットが産業や社会生活の基盤を支える21世紀においては、それは必須の美点ではありません。

むしろ大切なのは、人間が自分の頭で考え積極的に行動することであり、行動を通じて新たな可能性や感動を「創造」することなのです。

失敗が少なく、減点法のテストでは常に好成績、しかし、何かを創らせればありきたりの退屈なものしか造れず、これといった夢も無い、そんな学生をいくら集めてみたところで、日本の未来はお先真っ暗です。

かつて安倍晋三首相は「再チャレンジ社会」の構想を打ち出しました。

日本にはもっと本物の「起業家」が必要だからです。

安倍氏は、新しいことを成功させるには失敗がつきものであることを踏まえ、何度失敗しても、逞しく挑戦を繰り返すことが可能なように、社会的な「セーフティーネット」を整備しようと考えたのです。

安倍晋三氏の暗殺と共に、あのプランも消されてしまったのでしょうか?

いや、そんなことはないと思います。

江戸期の庶民文化を見れば分かるように、実は日本人は、「チャレンジ精神」が旺盛で、面白いもの、奇妙なもの、新しいもの、洒落たもの、が大好きなのです。

そろそろ「減点社会」をやめる時期ではないでしょうか。

野球でたとえるなら、3打席の内、2打席が「三振」だったとしても、残り1打席で「ホームラン」を打てば、その人は立派な「打率3割打者」であり、「打点」だって稼げるし、「ホームラン王争い」にも参戦できるかもしれません。

ところが「減点主義者」は、その人が2回も三振したからスタメンから外せ、と主張するのです。

もしもそんな人が監督なら、そのチームは最下位になり、監督も首ですよね。

事程左様に「減点主義」は今の時代には合わなくなっているのです。

こうしてみると、日本が明治以来の「官僚主導国家」から脱け出すことと「減点主義」への訣別はセットなのかもしれません。

昨今の若者たちの政治的な感性や思考の柔軟性を見る限り、こうした変革はさほど遠くないであろうと私は予測しています。

だって、大谷さんたちのような選手が大リーグで大活躍できる時代がもう来てしまったのですから。

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