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「景気が悪い中国」は本当か?イラン戦争でEV覇権と技術革新が加速する隣国の真実

アメリカとイスラエルによるイラン攻撃が続く中、世界の目はその混乱に向きがちです。しかし、その裏で中国の産業競争力は静かに、しかし着実に強化され続けています。EV・ロボット・AIで世界を席巻し、「景気が悪い」どころか技術革新の最前線を走る中国の実態とは?今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者の富坂聰さんが、日本のメディアが伝えない中国経済の真の姿を鮮明に解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです

イラン戦争で揺れる世界経済の裏で安定して発展し続ける中国

3月26日、香港のクオリティ・ペーパー、『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』(SCMP)は、「なぜイラン戦争は電気自動車(EV)と中国自動車産業にとって『ゲームチェンジャー』となり得るのか」と題した記事を配信した。

記事の内容は、〈アメリカとイスラエルによるイランへの戦争が引き金となって原油価格が高騰すれば、電気自動車の世界規模での普及が加速する可能性がある〉という予測だ。 ゲームチェンジャーという意味で、記事は〈電気自動車分野では昨年、中国が日本を抜き、世界最大の自動車販売国となった〉と付け加えている。

これは「原油の値上がりが顕著に消費者を直撃し、かつ低価格の中国製EVが容易に手に入れられる国で起きる」と予告しているから、日本では最も遅れて見えてくる現象かもしれない。 日本の市場や言論空間を見ている限り、EVの普及が急速に進んでいるとの印象は受けない。

だが、これは世界的な趨勢とは少し違っているようだ。 この世界と日本の温度差が、イラン戦争で一気に加速するかもしれない。SCMPが指摘しているのはそういうことだ。

「中国経済は不振」という誤解

中国のニュースを報じる日本のメディアは、テーマが日中関係の悪化であっても、米中首脳会談であっても、中国の政策の選択の動機として、常に「国内の経済が不振なので…」という解説を加える。 だが、中国の問題は不動産市況の低迷に由来する個人消費の湿りであって、中国経済を支える産業の太い柱は、むしろ日々存在感を高めている。 事実、中国が輸出の三大柱に位置付ける電気自動車、リチウム電池、太陽光発電製品は、西側先進国を中心にダンピングの疑いをかけられるほどの競争力を誇り、売れないことではなく、売れ過ぎることが悩みになっている。

次の産業として期待されるロボットなどは象徴的だ。 ほんの1年前の春節で、皿回しのようにハンカチを回すロボットのパフォーマンスに驚いた世界は、今年、パルクールやブレイクダンスを人間のように披露するロボットの誕生に目を奪われた。

だが、その鮮烈な記憶が薄まる間もなく、今度は人間とテニスをするロボットがお披露目されて衝撃を受けた。 3月24日に開幕したボアオ・アジアフォーラム2026年年次総会は、さながらロボット博覧会の様相を呈した。 紹介されたのは、24時間体制で稼働する水陸空スマート清掃ロボットやダンスを披露する人型ロボット、ドローン型の遠海救助ロボットなどだ。

同フォーラムに参加したロボットメーカー、北京星動紀元科技有限公司の創業者の陳建宇氏は、ロボットが家庭に入る未来について「今後3年から5年で、ロボットは一部のタスクを実行できるようになり、5年から10年で、大部分のタスクを実行できるようになる」と予告した。

その価格も、「おそらく車と同じようにさまざまなグレードに分かれ(中略)全体的な価格の範囲は、自動車の価格より明らかに安価になるだろう」と予測した。 ロボットの機能向上は、人間の仕事の多くをロボットに代替される未来を想像させるが、それについてフォーラムでは、「(ロボットの役割りは)人間を反復作業と長時間労働の過重からの解放」だと説明する。

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AI人材は月収46万円、文系は厳しい現実

ロボットに仕事を奪われる未来は確かに悩ましいが、それ以前の問題として求人の現場では、すでに「理高文低」の傾向は顕著となり、技術革新の変化の影響は避けられない状況のようだ。 この視点で中国の求人状況を見てみたいのだが、その前にまず「景気が悪い中国では失業者があふれている」という日本に定着した印象を修正しておきたい。

まず16歳から24歳の失業率は16.1%(2026年2月時点)と実際に高い。 これは大卒の人数が多すぎるという別の問題があるのだが、ここでは一旦横に置いておこう。知っておいてほしいのは全体の失業率で、これは2025年の実績では5.2%だ。 全体の数字が若年層失業率から大きく下がるのは、30歳から59歳という労働人口の大部分を占める層の失業率が4.2%と比較的安定した低水準にあるからだ。

これを踏まえた上で求人の現場を見てゆくと、明らかに人手不足に陥っている業種もあり、文系の場合それは介護人材に集中している。理系では非常に多くの業界で人材の奪い合いが起きているようだ。 中国共産党中央機関紙『人民日報』は3月18日、「この種の人材が不足 平均月収は2万元(約46万円)」という記事を配信している。 記事によれば〈今年の傾向として人工知能(AI)、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどの業界で、「人材獲得競争」が起きている〉と報じている。

理系で技術があれば引く手あまたで、新人時代からけっこうな高給にも恵まれるというわけだ。 一方の文系の人材はどうかといえば、前途はなかなか厳しいようだ。 冒頭でイラン戦争がEV化を推進する駆動力になるという話をしたが、これと同じように、消費の低迷によってサービス産業が窮すれば、人件費を抑えるためにもロボットが仕事を代替する機会が増えると予測されるからだ。 なかなか大変な世の中だが、中国の現在は世界の未来かもしれない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年3月29日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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