習近平国家主席を赤絨毯で歓待し、中国を「かつての同盟国」と位置づけたトランプ大統領。しかし日本国内ではこうした米国の「対中関係の変化」を小さく捉えようとする論調が少なくないのが現実です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、第二次世界大戦当時の米中関係を鑑みつつ、両国の「同盟」を巡る日本メディアの報道を検証。さらにトランプ氏が中国サイドに送った「ガンホー」というメッセージの由来を紐解き、日本が正視すべき「国際情勢の潮流」について解説しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:この期に及んでまだ米中首脳会談を過小評価したい日本の思考停止
「儚い願望」の表れか。この期に及んでまだ米中首脳会談を過小評価したい日本の思考停止
習近平国家主席をワシントンに招いたドナルド・トランプ大統領は、中国との過去の同盟に触れ「回顧した」と語った。この発言が日本に衝撃をもたらす中、メディアの多くはこれを否定的に報じた。
NHKの国際報道番組の中では、キャスターが「誤りです」と力強く言い切った。さすがに閉口したが、多くの新聞も控えめだが同様の指摘をしていた。理由は「(アメリカの)同盟の相手は中華民国であって中華人民共和国ではない」というのだ。
そうならば日本政府が中華人民共和国政府を「中国の唯一の合法政府」と承認した(「日中共同声明」)時の「中国」とは、いったい何を指しているのだろうか。そして第二次世界大戦時の連合国の流れをくむ国際連合の安全保障理事会常任理事国の椅子に中華人民共和国の代表が座っているのはなぜなのだろうか。説明してほしい。
そもそも後に中華人民共和国を建国した人々も、当時は中華民国の国民である。そして後の中国人民解放軍(以下、解放軍)の前身、国民革命軍第八路軍(以下、八路軍)も、当時は中華民国の軍隊であって外国の軍隊であったわけではない。米軍とともに日本軍とも戦っている。ゲリラ戦が主だったが、旧日本軍が残した資料にも八路軍や新四軍のゲリラに「苦戦した」という記述は見つかる。
つまり前述した外交承認とは別に、「同盟」と呼んでも矛盾しない実態もあるのだ。
アメリカの同盟は「中華民国であって中華人民共和国ではない」との説に日本のメディアがこだわるのは、おそらくトランプという人の個性が招いた誤謬だと処理したいからなのだろう。
しかし同様の主張をしたのはトランプ政権だけではない。ビル・クリントン大統領の時代にも繰り返された。
また同盟を「回顧した」ことは今度のホワイトハウスの「ファクスシート」にも記載されている。要するにアメリカの公式見解であり、記述に関しては国務省の手も経て作成されているのだから、トランプ氏の個人的見解などではあるはずはない。
私が理解できないのは、この米中のやり取りを、関係のない第三国の立場から、「間違っている」と解釈して、いったい何が変わるというのか、ということだ。
同じ文脈で、習主席をもてなすために用意された様々なメニューにも、いちいち「メタファー(隠喩)が隠されていた」と皮肉り、アメリカ側の裏の意図を勘繰る指摘も少なくなかった。レ・ミゼラブルの曲が演奏されたことや台湾の歌手・テレサ・テンの曲が選ばれたことなどだが、嘆息するしかない。
仮に、トランプ政権が中国側とさまざまな合意に達しながらも、その裏でメタファーを散りばめて赤い舌を出していたとしよう。だがそれは、逆から見れば表で歓待し、様々なことに合意せざるを得なかったアメリカがあるということではないのか。
当たり前のことだが、トランプ政権側がもし圧倒的に強い立場で会談に臨んでいれば、表で歓待し握手する必要はなく、ましてや裏で舌を出すような姑息な真似をする必要もないのである。
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日本が真剣に向き合うべき「赤絨毯」と「ガンホー」
米中には対立があり、中国は決してアメリカ人に人気のある国ではない。中国嫌いのアメリカの有権者に向けて、習近平を赤絨毯で迎える演出は、本来ならば避けたかったのではないだろうか。]
そこを敢えて大歓待したのはトランプ流の思惑と計算が働いたためであり、そうせざるを得なかったからだ。そうまでして築こうとした関係をたかがメタファー一つで壊してしまうようなリスクをトランプ政権が冒すというのだろうか。意味不明だ。
日本のメディアの報道には、概してトランプ氏が「習主席に融和的で好感を持っている」との前提があるようだが、これも疑問だ。
もちろんトランプ氏が習氏に個人的な親しみを感じていることは、本人も度々口にしてきた。しかし、コロナ禍におけるトランプ氏の対中政策はどうだっただろうか。個人的に親しみを覚えているからといって手加減しただろうか。少なくとも米中を史上最悪の激しい対立へと突き落とし、互いの領事館を閉鎖するまで関係を悪化させたのはトランプその人だ。
つまり、そんな人物がいま赤絨毯で相手をもてなし、「Gung-ho(ガンホー)」と中国が喜ぶ中国語由来のメッセージを送ったことが問題なのだ。日本はもっと真剣にこの変化と向き合うべきだろう。
中国を「同盟」と呼ぶのとは違い、「ガンホー」は中国共産党に直接向けられたメッセージだ。「ガンホー」は元々中国語の「工合」(工業合作社)という労働組合から出た言葉で「共に働く」という意味を持つ。だが、この言葉は後に第2海軍陸戦突撃大隊(以下、突撃大隊)の合言葉となる。それは同大隊の司令官、エヴァンス・カールソンが中国での体験から「過剰な熱意」を発揮する場面での掛け声として採用したからだ。
「1943年、カールソンは『ライフ』誌になぜ『ガンホー』を採用したのかについて、『私は中国で目にしたのと同じような協力の精神を築こうとしていた。(八路軍の)すべての兵士がひとつの理念に身を捧げ、その理念を実現するために共に働いていた』と語っている」
とトランプ氏は説明した。
カールソンがわざわざ革命根拠地の延安を訪れ毛沢東と会っていた話は有名だ。
香港のクオリティ・ペーパー『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、〈突撃大隊がメイキン環礁奇襲やガダルカナルの戦いで目覚ましい活躍を見せると、ハリウッドは彼らの活躍を映画『Gung Ho!』(1943年)として撮影した〉という。
1943年といえばアメリカが日本と激戦を繰り広げている最中だ。日本との死闘を制すために繰り返された「ガンホー」という叫びには、中華民国も国民党も入り込む余地はない。
日本は一刻も早く目の前で起きている現実を正視すべきだろう。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年10月4日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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