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音楽は「聴く」だけじゃない。坂本龍一さんが示した音の新たな世界

音楽は、耳で聴くだけのものなのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』ではジャーナリストの引地達也さんが、坂本龍一さんと高谷史郎さんによるインスタレーション作品「async-immersion」を通して感じた音楽の新たな可能性と、障がいのある人と音楽を共有する活動の中で見えてきた「共鳴」の意味について考えます。

音が作る世界に心を開いてみるという行為について

2023年3月に亡くなった作曲家、坂本龍一さんとマルチメディアアーティストの高谷史郎さんによるインスタレーション「async-immersion」が、東京都港区の麻布台ヒルズギャラリーで公開された。

幅26.4メートルの巨大スクリーンの映像と、会場に合わせて構築された立体音響は坂本さんが構想した「設置音楽」と呼ばれるもので、全身で映像と音を体験する機会は魂が揺さぶられる瞬間の連続だ。

この「展示」は、坂本さんが2017年に発表したアルバム『async』をベースに、高谷さんが手がけた映像と、音響ディレクターZAKによる立体音響を組み合わせたインスタレーション作品と説明される。

流れてきた音を聴く、のではなく、音楽の中に身を置き、そして感じる体験である。

身を置く体には音楽の新しい価値が立ち上がってくる、ようだ。

これは2023年に京都新聞ビル地下の印刷工場跡に29台のスピーカーと6台のサブウーファーを使用して音響空間を構築した「AMBIENT KYOTO」の東京版である。

これまで私たちが音楽を楽しむ感覚は、音楽を聴くという行為が必然とされ、さらにクラシック、ジャズ、ロック、ポップス、そのほとんどがストーリー化された音の展開によって成り立っていた。

音の展開を楽譜に記し、その流れを共有し実演することで、流れをストーリーとして認識するのは当然であろう。

その常識からすると、この音楽は「聴く」から距離を置き、時間軸を再設定した上で、音楽世界の変革を指し示しつつ、静かな空間を作り上げていく。
身を置く立場とすると、肉体と音が共鳴し、融合し合うような感覚だ。

テキストを読む、モノを見る、音を聴く、というコミュニケーションのスタイルがもうひとつ増えていくようで、その場で何が起こるかと息をひそめながら、思わずにやけてしまう私がいた。

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そこで同時に心の底からせり上がってくる思いは坂本龍一さんというアーティストへの憧憬だ。

78年に結成したイエロー・マジック・オーケストラ (YMO)は、不思議な集団が世に出てきた印象だったが、奏でる音楽を新鮮で、そのサウンドに魅了された少年の1人になった。

映画『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』の音楽には、映像を圧倒する音楽が今も燦然と響き続けている。

後者はアカデミーオリジナル音楽作曲賞、グラミー賞等を受賞したことで、それは世界に向けての誇りともなった。

その後も坂本さんの音楽は、フィジカルな活動とともに進化し続けてきた。かつてNHKのインタビュー番組で坂本さんは、自分の音楽づくりについて、山登りをして山を登ったと思ったら、そこからまた遠くに山が見えてきた、という趣旨の話をしていた。

これも山道の途上かと思わせるところが、クリエーターとしての遺産のようで、心憎い。

麻布台ヒルズの会場で、音と視覚の世界の中で、私は自分が問われているような気がした。

感性がフル稼働し、そして思考が知らない方向で行く。

高谷さんは、84年に京都市立芸術大学在学中にアーティスト集団「ダムタイプ」を創設し、マルチメディアを用いた先鋭的なパフォーマンスや作品を発表し続け、「坂本龍一の人生において最も長く共に作品を作り、坂本が最も信頼していたアーティストの一人」(ブルータス誌)である。

今回その2人による渾身の作品に身を置けたのは一生の喜びになるはず。

私が重症心身障がい者向けに音楽を展開する活動を行う中で、音楽とは何か、心地よい音とは何かを考え、再出発する必要も見えてきた。

私は「音楽でつながろう」というタイトルで音楽を「そんな人」も共有化することが「つながる」ことだと認識してきたが、それはストーリーを共有する(共有させる)ことを是としてきた。

しかし、それは共鳴の強制ではなかったのか─。

音を楽しむ権利を奪うことなく、その音に反応する心地を、そのままに身を委ね、音世界に向き合えることが、まずは出発点。

私も再構築が求められている。

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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